69、アラゴンとシチリアの関係(2)

文字数 1,373文字

「今は私の従兄弟のマルティーノがシチリアの王として統治しているけど、昔からアラゴンとシチリアは深い関係があったの。神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世については、歴史に詳しいあなたならよく知っているわよね」
「もちろんです。フリードリヒ2世はシチリア女王コスタンツァの子であるからシチリア国王でもあり、エルサレム王としても戴冠しています」
「フリードリヒ2世の最初の王妃はアラゴンの王女コンスタンサだった。コンスタンサはアラゴン王ペドロ2世の妹で、最初はハンガリー王イムレと結婚したの。2人の間にはラースロー3世が生まれてイムレの死後幼いラースロー3世が王位を継承したけど、すぐにイムレの弟アンドラーシュ2世によって王位を奪われ、コンスタンサとラースローはオーストリア公レオポルト6世のところへ逃れたけど、ラースローは間もなく亡くなり、コンスタンサはアラゴンに帰国した」
「お気の毒です。王位を奪われるということがなければ、ラースローはハンガリー王として立派に成長したかもしれません」
「そうね。その後コンスタンサは当時はシチリア王だったフリードリヒ2世と再婚するの。コンスタンサはフリードリヒ2世より10歳年上だったけど、結婚式はとても華やかだったわ。コンスタンサは女官、吟遊詩人、騎士団と一緒にパレルモに入城したの。父のフアン1世はうれしそうに何度も何度もコンスタンサのパレルモ入城について話をしてくれたわ。シチリアにプロヴァンスの詩と洗練された宮廷生活を持ち込んだのはアラゴンの王女コンスタンサだって・・・」

 ヨランド様はうっとりとした表情で遠くを見つめていた。

「そのころのアラゴンの宮廷は父が贅沢をしたために財政は傾いて、父は不真面目王なんて悪口を言われていたわ。それでも父は夢を見続けた。アラゴンに昔の栄光を取り戻すためにも、お前はフランスの貴族の家に嫁ぐのだと何度も言われた。シチリアはアラゴンにとって夢の国でもあった。だから政略結婚を繰り返し、今は従兄弟のマルティーノが統治しているのよ」
「そうだったのですか」
「フリードリヒ2世とコンスタンサの子ハインリヒは幼くしてローマ王となり、父とは離れてドイツで暮らすようになった。摂政をしていた母のコンスタンサが亡くなった後、ハインリヒは教皇にそそのかされて父に対して反乱を起こした。反乱軍はすぐに敗れ、ハインリヒは捕らえられて廃位させられ、目を潰されて幽閉されたの。そして6年後、別の幽閉場所に護送される時に馬と一緒に谷底に身を投げ、自ら命を絶ったわ」
「・・・・・」
「シチリアで生まれた時栄光に包まれていたハインリヒは、絶望の中で死を選んでいる。彼にもまたアラゴンの血が濃く流れていたのよ。そしてフリードリヒ2世の子は戦いに敗れて皆不幸な死に方をしているわ」
「・・・・・」
「アラゴン王家はシチリアを、アンジュー家はナポリの王位をなんとしても手に入れて守りたかった。だからこそ私はアンジュー家に嫁いだのよ。2つの家を結び付け、より強い力を得るためにも私が必要だったのよ。だから私はアラゴン王家とアンジュー家の野心を守るために戦い続けるわ」

 ヨランド様はシャルル7世の義母として後に宮廷で大きな力を持つようになる。だが、シャルル王子が生まれてすぐは、まったく別の目的を持って私に近づいてきたのかもしれない。

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