88、イザボー王妃の不安(2)

文字数 1,064文字

「私生児のジャンはいずれ修道院を出てオルレアン公家に引き取られるでしょう。じゃじゃ馬の子ならきっと戦いの時には活躍してくれるに違いないわ。でもシャルルは修道院から出てはだめ!あの子が宮廷に戻っては危険だから一生修道院で暮らした方がいいのよ」
「どうしてですか?シャルル王子はとても聡明な子であると修道院長からお褒めの言葉をいただきました。宮廷に戻ってもきっと優秀な人材として・・・」
「だから困るのよ!もしシャルルが宮廷に戻ったらルイとジャンが殺されてしまう・・・」

 イザボー王妃様の顔が急に険しくなった。

「ブルゴーニュ公のジャンが言っていたわ。シャルルが宮廷に戻ったらシャルルを利用して権力を得ようとする者がルイとジャンを暗殺すると言うのよ」
「ルイ様はジャン様の娘、マルグリット様と婚約され、ジャン様はジャン様の姪のジャクリーヌ様と婚約されています。どちらもブルゴーニュ公ジャン様と近い関係の方ばかり、暗殺されるとは考えられません」
「だから危険なのよ。ブルゴーニュ家に反対する者、オルレアン家やアルマニャック家がシャルルを利用して権力を得ようと企むかもしれないわ」
「でもシャルル王子は陛下の子ではなく・・・」
「ええ、そうよ。ジャンヌ、あなたも知っている通り、シャルルは陛下の子ではないから王位継承権を持ってないわ。でもそれを公表すれば私は王妃の身分を剝奪され、暗い牢獄に幽閉されてしまう。公表しなければシャルルに多数の者が群がり、ルイとジャンが危険に晒される。ルイとジャンは間違いなく陛下の子で王位継承権を持っている、私にとって大切な子なのよ。シャルルなんかに私やルイやジャンの人生を邪魔されたくないわ。どうしたらいいの・・・あの子が病弱で早く死んでくれればいいのだけど・・・」
「イザボー王妃様、落ち着いてください。今、シャルル王子は修道院で暮らしています。修道院にいる限り、他の者がシャルル王子を利用することはできません」
「そうね、シャルルが修道院から出なければ、何も心配することはないのね。ジャンヌ、あなたは時々修道院に行ってシャルルとジャンに勉強を教えるのでしょう。ジャンには必要最低限の読み書きができるようにしてくれればいいわ。そしてシャルルは・・・シャルルは俗世間に興味を持ってはだめなのよ。あなたの弟ピエール枢機卿のように、聖職者としての道を究めて欲しいの。わかるわね、ジャンヌ。ジャンとシャルルでは全く別の教育をして欲しい」
「わかりました。イザボー王妃様。修道院長ともよく相談して、お2人の教育について考えてみます」


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