59、未来の聖職者たち(2)

文字数 970文字

 シャルル王子とオルレアン公ルイ様の庶子ジャン様について弟のピエールと心の中で話した。ヨランド様はジャン様が立派な聖職者になって将来シャルル王子を支えることを期待しているようだが、ピエールはジャンという名前の者は野心が強く残忍であるから聖職者には向かないと言う。私はふと親戚であるルクセンブルク家出身で神聖ローマ皇帝になったハインリヒ7世と弟でトリーア大司教になったバルドゥインについて思い出した。

「ピエール、ハインリヒ7世とバルドゥインについては覚えているわよね」
「もちろんだよ。バルドゥインはトリーア大司教になって兄ハインリヒ7世と孫のカール4世が神聖ローマ皇帝になり、ルクセンブルク家とボヘミア王家を結び付けた。ルクセンブルク家に繁栄をもたらした偉大な聖職者だった」
「あなたはハインリヒ7世とバルドゥインの話が大好きだった。もっと詳しく教えて欲しいと何度も私に言ったわ」
「僕はバルドゥインのような偉大な聖職者になってリニー家に栄光をもたらしたいと考えた。そのために必死に勉強して15歳の時にメスの司教に任命された」
「あの時はシャルル6世陛下の摂政の1人ベリー公ジャン様が後ろ盾になって下さったのよ。あなたが司教に任命されて、私も弟のジャンもとても喜んだわ」
「僕はその後枢機卿にも選ばれた。でもその頃から一族のために出世することが本当に神に仕えることなのか疑問を持つようになった。貧しい者、悩み苦しむ者に寄り添うことこそがキリストの真の教えであるから、聖職者は自分や一族の欲望や出世のために働いてはいけない、そう思うようになった」
「あなたは若いのに禁欲的で素晴らしい聖職者だと誰もが言っていたわ。それなのに・・・」

 弟のピエールは18歳の誕生日を迎える前に突然亡くなった。そのことを思い出すと涙が止まらなくなる。

「姉さん、泣かないで。シャルル王子は将来のフランスを救う大切な人だから・・・」
「わかっているわ。シャルル王子の命を守り、大切にお育てするのが今の私の役割よね。そして修道院に入って未来の偉大な聖職者ジャン様と友情を育まれ・・・」
「ジャン様は聖職者にはならないよ。シャルル王子、いやフランス国王シャルル7世を守り、勝利へと導くのは姉さんと同じ名前の少女ジャンヌだ」

 その時はわからなかったが、ピエールの予言はすべて当たっていた。

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