57、ルイ6世(3)

文字数 1,219文字

「1100年にフィリップ1世がルイを王太子に指名すると、継母のベルトラードはルイがロンドンに滞在した時に勅令を出して帰国できないようにしたの」
「酷い話です」
「それだけではないわ。ルイが帰国するとベルトラードは3人の修道士にルイ王太子の暗殺を依頼した」
「神に仕える身である修道士に王太子の暗殺を依頼するなんて・・・あんまりです。神様はそんなことは絶対に許さないはずです」
「この時は陰謀は発覚したけど、ベルトラードは執拗にルイ王太子の命を狙い、1101年には毒殺されかけて命を落としそうになったわ」
「そんな酷いことがあったなんて、知らなかったです!」
「ルイ王太子は正統な跡継ぎ、だからこそ継母に何度も命を狙われても助かったのよ。ルイ王太子は神様に守られた特別の存在だったに違いないわ。1108年、フィリップ1世が崩御され、ルイ6世の戴冠式はオルレアンで行われた」
「ランスではなく、オルレアンで戴冠式が行われたのですか?」
「フランス王の正式な戴冠式の場所はランスだった。でも継母ベルトラード一族など反対勢力が強すぎてランスへ行くことは危険だからオルレアンで戴冠式をしたのよ。戴冠式に王家の重臣たちはほとんど出席していなくて、王家の権威や名声は落ちていたわ」
「・・・・・」
「フランス国内で諸侯たちの反乱が続く中、ルイ6世は粘り強く戦っていた。そんな中、フランスは今度はローマ皇帝ハインリヒ5世の侵攻を受けることになるの」
「大変な時代だったのですね」
「ルイ6世は幼少時からの親友シュジェールを政治顧問にしていたわ。シュジェールは聖ドニの軍旗「オリフラム」を掲げて信仰心でフランスの諸侯をまとめ上げ、ハインリヒ5世の軍隊を撃退することに成功した」
「素晴らしいことです」
「優れた聖職者を親友に持てば、ルイ6世のような国が滅びるかもしれない危機に直面しても国を救うことができるのよ。今のフランス宮廷はルイ6世の時代とよく似ている。諸侯はそれぞれの利益を考えて争い、その様子を見てイングランドが狙っている。フランスには諸侯をまとめることができるシュジェールのような聖職者が必要なのよ」
「オルレアン公ルイ様の庶子のジャン様がその役割を果たしてくれるのですね」
「私はそう信じている。そしてシャルル王子も重要な役割を果たすのよ。だからジャンヌ、あなたはどんなことがあってもシャルル王子を守ってちょうだい」
「わかりました、ヨランド様。シャルル王子は私が命をかけてお守りします」

 ヨランド様はルイ6世になぞらえてジャン様が優れた聖職者になり、フランスの危機を救うことを期待していた。だがジャン様は聖職者にはならず、イングランドの捕虜となった異母兄シャルル様の代わりにオルレアンを守ることになったが、状況は悪化するばかりであった。そんなオルレアンに軍隊を率いて向かったのは私と同じジャンヌという名前の少女、ジャンヌ・ダルクであった。ピエールの予言はすべて当たっていた。



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