82、ブルゴーニュ公の公開弁論(2)

文字数 1,160文字

 ブルゴーニュ公ジャン様の公開弁論が終わった数日後、私は1人で図書館の本を眺めていた。シャルル王子が修道院に入られたので教育係という役目は終わったし、イザボー王妃様や他の侍女たちも私を避けているようだった。ぼんやりと本を眺めていても文字が少しも頭に入って来ない。読みかけの本を本棚に戻し、椅子に腰かけた。

「まあジャンヌ、随分思いつめた顔をしているじゃない」
「あ、ヨランド様」
「立ち上がらなくていいわ。私も隣に座らせて」
「は、はい」
「公開弁論でブルゴーニュ公の発言はわかるけど、イザボー王妃様の発言はショックだった、そんなところかしら?」
「はい、そうです。イザボー王妃様がオルレアン公のルイ様についてあのようなことを言われるなんて・・・お二人はとても仲が良く、王妃様はルイ様を信頼していました」
「イザボー王妃様はブルゴーニュ公に脅されているのね。王太子のルイ様とジャン王子はいずれもブルゴーニュ公と血の繋がりのある娘と婚約している、末のシャルル王子は修道院へ入った、王妃様を守れる者は誰もいないわ」
「そうですね」
「宮廷内ではブルゴーニュ公が権力を握ってしまうわね。いつの時代もそうだけど、正しい者、正当な者が勝つとは限らない。敵とみなした者を片っ端から殺してしまう悪魔のような殺人鬼をみんなが怖れて敬い、悪魔が頂点に立つことだってあるわ」
「ブルゴーニュ公ジャン様はなぜそのような方になってしまったのでしょう?」
「異教徒との戦いで捕虜になった経験があるからよ。敵がキリスト教徒ならば身分が高ければそれなりの配慮をしてもらえるけど、異教徒ならばそうはいかない。恐ろしい死の恐怖が彼を変えてしまったのよ。無怖公と呼ばれているけど、本当は誰よりも死を怖れ、だからこそ敵とみなした人間を片っ端から殺してしまうのよ」
「フランスの宮廷はこれからどうなるのでしょう?」
「悪魔を倒すためには大天使ミカエルの力が必要ね。大天使ミカエルは必ずフランスを救ってくれる。ジャンヌ、あなたはこれからも修道院にいるシャルル王子を気にかけてちょうだい」
「会いに行くことなどはできるのでしょうか?」
「もちろんできるわ。でもあまり大げさにならないように、あなた1人で見張りの者だけ連れて行った方がいいわ」
「わかりました。私もシャルル王子のことはずっと気になっていました」
「私も気になるわ。シャルル王子はもちろんのこと、オルレアンの私生児ジャンがどのように成長しているか」
「2人との面会を修道院長にお願いします」
「まあジャンヌ、表情がすっかり明るくなったわ。あなたはイザボー王妃様のことよりもシャルル王子のことを気にかけていた方がいいのよ。王妃様がブルゴーニュ公に脅されていたとしても、それはもう王妃様の問題で私たちにはどうすることもできないわ」
「そうですね」

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