87、イザボー王妃の不安(1)

文字数 1,297文字

 修道院から戻った私はすぐにイザボー王妃様の部屋に向かった。修道院長に頼まれてこれから先何度も教育係として訪れることになるならば、王妃様に報告して許可をもらわなければならない。王妃様は他の侍女たちに部屋から出るように命じ、私と2人だけになった。

「ジャンヌ、ありがとう。今の私の立場では修道院に行って直接シャルルに会うことはできないわ。それでどうだった?シャルルは元気だった?」
「はい、シャルル王子はとてもお健やかです。学者について勉強もきちんと行い、とても聡明だと修道院長からお褒めの言葉をいただきました」
「ジャンヌはオルレアン公の私生児にも会っているのよね。それでどうだった?あの私生児はシャルルとよく似ているの?」
「お2人は従兄弟で年齢もよく似ているので、顔立ちや雰囲気はとてもよく似ています」
「従兄弟としてではなく、実の兄弟として見てもよく似ているかどうかが問題なのよ。あの子たちが宮廷に戻った時、あまりにも似ていたらシャルルは陛下の子ではなくオルレアン公の子ではないかと噂されてしまう・・・」
「ジャン様はシャルル王子と顔立ちはよく似ていますが性格はまるで違います。ジャン様は勉強はお嫌いで騎士になりたがって剣術の稽古に夢中になっているそうです」
「まあ!正妻の子シャルルは母に似て詩が得意だと聞いているけど、私生児のジャンは勉強が嫌いなの?フフ・・・父親が同じでも母が違うと性格は違ってくるのね」
「はい、オルレアン公のシャルル様とジャン様は雰囲気も顔立ちも全く違います」
「オホホホホ・・・それはいいわ。オルレアン公ルイは正妻とは全く違うタイプの女を愛人に選んだのね。どんなじゃじゃ馬を選んでいたのかしら」

 イザボー王妃様は大きな声をあげて笑われた。悩みがすべて消え、ほっとしたようである。

「ジャンとシャルルの性格が全く違うなら成長すれば顔立ちも違ってくるわね。それなら安心だわ。2人の父親が同じだとは誰も言わなくなる」
「ええ、そうですね。性格は全く違うのにお2人はとても仲がよいのです」
「シャルルは私の顔を見て泣いてばかりいた。あなたや他の侍女たちにはなついて泣かないでいたのに・・・でもいいわ・・・修道院ではジャンと仲良くしているのね」
「そのジャン様についてですが、修道院長から頼まれたことがあります」
「まあ、何かしら?」
「ジャン様は騎士になりたいという気持ちが強くて修道院での生活を嫌っています。そして修道士の先生が教える勉強に対して拒否反応を起こしています。いずれ宮廷に戻るとしても、このままでは基礎教育も身に付かず、シャルル王子様にも悪い影響を与えると修道院長も困っていらっしゃいました」
「オホホホホ・・・あの修道院長がじゃじゃ馬の子に手を焼いているなんておかしいわ」
「そして私が頼まれました。時々でいいから私が修道院を訪れ、シャルル様とジャン様に勉強を教えて欲しいと・・・ですからその時に外出する・・・」
「いいわ、ジャンヌ。あなたにピッタリの役じゃない。そしてシャルルの様子を私に報告してちょうだい。シャルルは危険な子でもあるのよ・・・」

 イザボー王妃様の表情が急に暗くなった。



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