84、シャルル王子との面会(1)

文字数 1,543文字

 シャルル王子との面会を約束した日、私は2人の見張りの兵士と一緒に馬車で修道院に向かった。修道院の門をくぐり、馬車を降りると院長が出迎えてくれた。

「ジャンヌ殿、よくいらっしゃいました。イザボー王妃様からは何か伝言などございますか?」
「いいえ、王妃様はシャルル王子についてはあまり関心がないようで・・・」
「そうですか。でもその方が安全かもしれません。修道院の中は安全が守られていますが、それでも王家の血筋の方をお預かりするとなると、何が起きるかわかりません。ですから私はシャルル王子とジャンの2人だけを告解室に呼び出しました。そこならば誰も来ませんから安心してお話できます」
「シャルル王子は元気ですか?」
「最初のころは慣れなくて宮廷を恋しがっていましたが、今ではすっかりここでの生活に慣れました。ジャンと一緒に毎日勉強し、午後からは乗馬や剣術の稽古をしています」
「ありがとうございます」

 院長と話しながら歩いているうちに、告解室の前に来た。

「では私は他の用事を済ませますので、ゆっくりお話しください」

 告解室の大きな扉をゆっくりと開けた。中は薄暗く、祭壇と十字架を前にして座れるようになっている。1人の子が目を閉じて手を組み、何かブツブツ呟いている。シャルル王子によく似ているが、もう少し背が高く顔も日焼けしている。

「父と子と聖霊の名において、今日の俺、じゃなくて私の犯した罪について告白します。俺は今日、ミサの時に居眠りしました。でも神様聞いてください!院長の話は本当に毎日毎日つまらなくて眠くなるんです・・・」

 私は後ろからそっと声をかけた。

「あなたはジャン?」
「うわー、神様が声をかけてくれた。俺、今日から気をつけます。決してミサの時に居眠りをしたりはしません」
「私は神様ではないわ。シャルル王子の教育係をしていたジャンヌよ」

 ジャンは後ろを振り返った。

「なんだ、ジャンヌおばさんか。俺とシャルルが告解室に呼び出されたから、てっきりお説教をされるのかと・・・」
「あなたが呼び出されたのはお説教のためではないわ。私が面会を申し込んだのよ。シャルル王子はどこ?」
「ああ、シャルルはまじめだから、勉強の途中で抜け出すのは嫌がってたから後から来るよ。俺は勉強は嫌いだからさっさと出て来たけど・・・」

 私はジャンの顔をよく見た。シャルル王子とよく似ているが、よく日に焼けている。

「ジャン、あなたは部屋の中で勉強するよりも外で活動する方が好きなのね」
「当たり前だよ。俺は騎士になりたいんだ。勉強なんて大っ嫌いだ!」
「そう、あなたは騎士になりたいのね。でもあなたはオルレアン公の血を引いている。いつか司令官となってオルレアンを守ることになるかもしれない」
「え、私生児の俺が司令官になれるの?」
「もちろんよ。でも司令官になるためにはうんと勉強しなければならない。戦いは剣を振り回すだけではない。他国からの援軍を頼んだり、武器や馬、食料の管理をしたり、やることはたくさんあるのよ。そのためにはたくさん勉強をしなくては・・・」
「オルレアンを守る私生児のジャン。俺は司令官になるのか。わかった、今日から一生懸命勉強する。おばさん、ありがとう!」

 告解室の扉がゆっくり開いてシャルル王子が中に入って来た。

「ジャン、君だけを先に行かせて悪かった。院長のお説教はもう終わったの?」
「シャルル、今日俺たちが呼び出されたのはお説教のためではない。お前の教育係のおばさんに会うためだった。このおばさん、スゲーいいこと言うんだ。俺は将来オルレアンを守る司令官になるんだって」
「え、君がオルレアンの司令官になるの?」

 シャルル王子は驚いてジャンの顔を見た。私自身なぜそんなことを言ってしまったのかその時はわからなかった。

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