86、シャルル王子との面会(3)

文字数 1,544文字

 修道院にシャルル王子との面会で来たのだが、気が付くとジャンとばかり話していた。シャルル王子はここでの生活をどう思っているのだろうか。

「シャルル王子はここでの生活をどう思っていますか?何か不満があったら言ってください」
「おー、不満ならたくさんある。ミサの時間での修道院長の話は長いし、毎日の勉強は退屈だし、食事もクリスマスとかイースターの時はいいけど、普段の食事はいつも同じでつまらない」
「ジャンはいつも文句ばかり言っている。僕はここでの生活に満足しているよ。ジャンヌに会えないのは寂しいけど、ここではいろいろな先生から勉強を教えてもらっている。ラテン語も簡単な本なら読めるようになった」
「それはよかったです。陛下や王妃様に報告しますね」

 私は嘘を言った。陛下は今はお会いできる状態ではないし、王妃様はブルゴーニュ公のジャン様と親しくなり手紙のやり取りをしている。シャルル王子について詳しく話せば王子の身に危険が降りかかるかもしれない。

「シャルルは本当に勉強が好きなんだよ。部屋にいる時もいつも本を読んでいる」
「ジャンは部屋にいる時は何をしているの?」
「剣術の稽古さ。100人の敵に囲まれた時にどうやってそこを抜け出せるかいつも考えている」
「僕はいつも敵役をやらされるけど、僕はジャンの敵になるつもりはないからね」
「シャルル王子は大人になった時、どんなことをしたいのですか?」
「僕はずっとこの修道院で暮らしたい。たくさんの修道士の人が図書館で本の書写をしているけど、僕もあの中の1人になって書写をして古い本を蘇らせたい。人間の一生は短いけど、本ならば千年、二千年先に生きている人にも読んでもらえるから・・・」

 もしもシャルル王子の2人のお兄様、ルイ様とジャン様が若くして亡くなることがなければ、シャルル王子は修道院で静かな生涯を送ったに違いない。でも歴史は皮肉で、シャルル王子の願いは叶わなかった。






「そろそろ2人は部屋に戻って勉強の用意をしなさい」

修道院長が告解室に入って来た。

「私はジャンヌ殿と少し話がしたい」
「ジャンヌにはまた会えるの?」
「ああ、そのようにしたい。だから2人はもう行きなさい」

 シャルル王子とジャンが出て行った後、修道院長は私に椅子に座るように促し、すぐそばに座った。

「ジャンヌ殿、随分楽しそうに話をしていましたね」
「すみません。シャルル王子と会えたのがうれしくて、つい長話をしてしまいました」
「シャルル王子だけでなく、ジャンもとても楽しそうでした。ジャンヌ殿、お願いがあるのですが、時々このように面会という形でここに来てあの2人に勉強を教えてはもらえませんか?」
「私がですか?・・・でも修道院には立派な方がたくさんいて、私などお役に立てません」
「シャルル王子は修道士に勉強を教わってもいいのですが、ジャンは修道士の格好をした者を見るだけで拒絶反応を起こして逃げ出そうとし、勉強に身が入らないのです。庶民の子ならそれでもいいのですけど、ジャンはオルレアン公の血を引く子、将来宮廷に戻った時に何も知らないでは困ります」
「そうですね・・・」
「そしてシャルル王子も本人はここでの生活が気に入っているようですが、いずれは宮廷に戻ると私は考えています。そしてシャルル王子に必要なのは古代ギリシャやローマの歴史、中世の神学論争ではなく、今の時代の歴史や複雑な地理関係を知ることです。シャルル王子とジャンにそのようなことを教えていただきたいのです」
「シャルル王子にお会いできるのはうれしいです。でも私のような者が・・・」
「2人ともとても楽しそうにあなたとお話ししていました。ぜひお願いします」

 こうして私は定期的に修道院に通い、シャルル王子とジャンの2人に勉強を教えることになった。






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