81、ブルゴーニュ公の公開弁論(1)

文字数 1,254文字

 1407年11月23日、この日はフランスの歴史に長く刻まれ、決して忘れられることはないであろう。シャルル6世陛下の弟であるオルレアン公のルイ様がブルゴーニュ公ジャン様の部下によって暗殺されたのである。ジャン様はすぐにフランドルへと向かわれたが、翌年の2月末にはパリに戻られ、公開弁論が行われた。未亡人となられたヴァランティーヌ様と遺児のシャルル様、陛下の代理人として王太子のギュイエンヌ公ルイ様とイザボー王妃様が参加された。ルイ様はまだ11歳であった。ルイ様はブルゴーニュ公ジャン様の娘マルグリットと婚約していた。このような中、ジャン様が現れて公開弁論会が始められた。

「ここにお集まりの皆様は、おそらく私が極悪非道の者で、王弟であらせられるオルレアン公のルイ様を部下を使って暗殺したと信じていると思われます。確かに私のしたことはその通りです。けれどもオルレアン公のルイ様が今までしたことを考えると私がやむを得ず武力を使ったということも納得していただけると思います」
「叔父のオルレアン公は父上シャルル6世のために様々なことを決めてくれたと聞いている」
「まだ若い王太子ルイ様の前で親族の悪口を言うのは忍びないのですが、オルレアン公は何度も陛下を暗殺しようとしました。ルイ様がお生まれになる前の話ですが、あの恐ろしい舞踏会の日に遅れてやって来て松明を持って陛下に近づいたのはオルレアン公です」
「父上を殺そうとしたというのか!」
「イザボー王妃様のお言葉を聞いて、私は耳を疑いました」
「オルレアン公は怖ろしい男です。私は何度も脅されました。松明を持って近づけば焼き殺すことなど簡単にできる、だから愛人になれと脅されたのです」
「嘘です!そんなことは絶対にありません。私の夫オルレアン公は何人もの愛人を持ち、庶子も生まれていますが、陛下の命を狙うとかそのようなことは決して考えていませんでした。陛下がご病気になられた後も、陛下を支えることだけを考えていました」
「イザボー王妃様と王太子のルイ様はオルレアン公に脅されて大変な思いをされました」
「その通りです!私はいつもオルレアン公に脅されていました。ブルゴーニュ公のおかげで私は救われました」
「母上、本当にそうだったのですか?」
「ええ、ブルゴーニュ公のおかげで私は救われました。子供たちの命を守りたいとただそのためだけにオルレアン公の言いなりになっていました」
「わかりました、母上。ブルゴーニュ公のしたことは私や母上を守るためにしかたのないことだったのですね」
「嘘です!そんなことはありません」
「ヴァランティーヌ様、どうやらオルレアン公にはあなたの知らない顔があったようですな。お気持ちはわからないでもないですが、遺された子を大切に育てるのが賢明だと思います」
「ブルゴーニュ公、そなたの言葉を父上に伝えよう。ご病気で発作がない時ならば父上は聡明な判決を下すことができるはずである」

 王太子であるルイ様の言葉で公開弁論は終わりとなった。私はその様子を遠くの席で見守っていた。

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