38、王妃の不倫(2)

文字数 1,011文字

 イザボー王妃様が王弟オルレアン公ルイ様の部屋を訪れた時、私は控えの間に残るように言われた。その部屋からはお2人の姿は見えないが、話声はよく聞こえる。

「オルレアン公ルイ、あなたにどうしても聞いておきたいことがあるの?」
「なんでしょう、義姉上?」
「燃える人の舞踏会事件があった時、あなたは遅れてやってきて、あなたの持っていた松明の火が燃え移って4人の貴族が亡くなり、陛下も危なかったわ。あなたは陛下の命を狙っていて、知っていて悪意があって遅れて来たのかしら?」
「あれは痛ましい事件でした。でも義姉上、私があのような方法で兄上を殺し、王位を狙うと思いますか?兄上の命を狙うなら他にもっとうまいやり方があります。事件に見せかけて殺したら、私はあの場にいたすべての者に恨まれ、憎まれるでしょう」
「そうね。あなたは賢いからそのようなことはしないでしょう」
「私は兄上を殺して自分が王になろうと思ったことは1度もありません。兄上に親政を勧め、摂政の権限を弱めるように助言したのはこの私です。兄上がご病気になり、ブルゴーニュ公フィリップが再び力を持とうとしています。シャルル王太子様が亡くなり、ルイ様が王太子になられた今、幼い王子様方とイザボー王妃様をお守りすることが王弟である私の使命だと思っています」
「頼もしいわ、ルイ。あなたの妃ヴァランティーヌは幸せね。王妃にはなれなくてもこんなに立派な人と結婚しているのですもの」
「義姉上だけに言いますけど、私は妻のヴァランティーヌにはうんざりしています」

 話し声はしばらく途切れた。

「ヴァランティーヌはミラノ公ジャン・ガレアッツォ・ヴィスコンティの娘であることを鼻にかけ、プライドが高過ぎるのです。妻と一緒にいて安らぎを感じたことは一度もありません」
「でも、あなたにはたくさんの子がいるじゃない」
「王族としての義務を果たしているだけです。愛情ではありません」
「王族としての義務を果たす、陛下と同じだわ。陛下は優しい方だけど、私はまだ女としての喜びを感じたことがない。そして今、陛下はあのような状態になってしまったから、私はもう一生喜びを感じることはないわ」
「義姉上がそのように思っていたなんて、全く知りませんでした」
「イザボーと呼んで。お願い、ルイ。私に喜びを教えて!」

 とんでもない話になってきた。でも私は飛び出してはいけないと言われている。このままこの部屋でじっとしていることしかできない。

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