45、イザベラ・オブ・フランス(1)

文字数 1,292文字

 イザボー王妃様はオルレアン公ルイ様の部屋に何度も通うようになり、私たち侍女にはもうどうすることもできなくなっていた。そんな時にアンジュー公妃ヨランド・ダラゴンに王宮の図書室で話しかけられた。

「シャルル王子の代理母を務められたジャンヌ・ド・リュクサンブールですね」
「アンジュー公妃様」
「ヨランドと呼んでくださればいいわ。あなたとお話ししたいと思ってここへ来たの」
「私とですか?」
「王宮内で誰にも邪魔されずにゆっくり話せるのはこの図書室ですから。私の夫アンジュー公はパリに来ると私は図書室にばかりこもっていると不満に思っているようだけど、あなたもかなり本がお好きなようね」
「私の弟、枢機卿になったピエールは小さなころから本が大好きな子でした。私は弟のために本を選び、いろいろな話をしました」
「立ち話するのもなんだから、あちらの椅子に座りましょう」

 ヨランド・ダラゴンに案内されて壁際の椅子に並んで座った。彼女はこの図書室には詳しいようだった。

「随分思い詰めた顔をしていらっしゃるけど、イザボー王妃様のことかしら?」
「もう宮廷中の噂になっているのですね。私たち侍女がいくら止めても聞いてはくれません」
「陛下がご病気だから不安でしょうがないのでしょう。オルレアン公のルイ様が分別のある方だからほっといても大丈夫、いずれ熱も冷めるでしょう」
「そうなってくれればいいのですけど・・・」

 私は大きなため息をついた。

「ところでジャンヌ、あなたはイザベラ・オブ・フランスについてご存じかしら?」
「イングランドのリチャード2世と結婚され、リチャード2世が亡くなられた後にフランスに戻られたイザベラ王女様のことですか?」
「違うわ。今から100年近く前の1308年に生まれ、エドワード2世と結婚したフランスの王女、イザベラ・オブ・フランスのことよ」
「エドワード2世・・・」

 エドワード2世については私も歴史の本を読んでかなり詳しく知っていた。

「名前を聞いただけでそんな顔をするなんて、エドワード2世についてはあなたもよく知っているのね」
「ええ、歴史の本で読みました。でも100年以上前に生まれた王様について、なぜ今話題にするのですか?」
「エドワード2世と王妃のイザベラ、それからエドワード3世とイザベラの父フィリップ4世、あの時代の出来事が今のフランスとイングランドの状況にも大きな影響を与えているのよ」
「はい、フランスとイングランドの長い戦争のきっかけを作ったのはエドワード3世でした」
「あなたは歴史に詳しいようだから、いろいろなことを知っていて欲しいの。歴史を知っていれば困難な状況の時にもうまく切り抜けることができる。シャルル王子を守るためにもあなたには賢くなって欲しい」
「シャルル王子様はまだお生まれになって1年も経っていません」
「そう、今はまだとても弱い立場にいるわ。だからこそあなたには今のフランスの状況だけでなく、イングランドとの戦争のきっかけについても理解して欲しいの」
「わかりました、ヨランド様」

 こうして私はアンジュー公妃ヨランド・ダラゴンと歴史についての話をたびたびするようになった。
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