47、イザベラ・オブ・フランス(3)

文字数 1,138文字

「イザベラ・オブ・フランスは13歳の時に10歳年上のエドワード2世と結婚したの。でもその結婚は不幸の始まりだったわ」

 王宮の図書室でアンジュー公妃のヨランド・ダラゴン様は私にフランスの歴史について長い話をした。

「エドワード2世にはピアーズ・ギャヴィストンという寵臣がいたの。まあただの寵臣ではなく愛人だったらしいわ。結婚してすぐ、夫に男の愛人がいたとわかったらどうかしら」
「もちろんショックです。王や貴族の男の人に愛人がいるというのは普通のことですが、男の人が愛人というのは・・・神様はそんなことはお許しにならないわ」
「そうよ。そしてギャビストンはエドワード2世と一緒になって王妃イザベラに嫌がらせをしたわ。イザベラのプライドはズタズタに傷つけられた。そして1314年、イザベラは助けを求めてフランスに帰国した」
「それは普通だと思います」
「でも1312年頃からフランス宮廷では大変なことが起きていた。その時はナバラ王だった兄ルイ10世の王妃マルグリットが夫の兄弟の妻たち、ジャンヌとブランシュの姉妹も誘って騎士の兄弟と浮気を楽しんでいたの」
「『ネールの塔』事件ですか?」
「そうよ、あなたも歴史についてはかなり詳しいわね」
「あれは恐ろしい事件でした」
「その浮気については2年間ほど誰にも気づかれなかったわ。でも帰国していたイザベラが気づいて密告したの。マルグリットはガイヤール城に幽閉され、事件のショックでフランス王フィリップ4世は亡くなり、ルイ10世が即位してもマルグリットは幽閉されたままだった。そして彼女は1315年に幽閉された先で亡くなったわ。牢獄のような場所で満足な世話も受けられないまま亡くなったの」
「お気の毒です」
「マルグリットのしたことは許されることではないわ。でもイザベラの密告によってあまりにも残酷な罰を受けているの。浮気相手の騎士兄弟は拷問を受けて処刑され、後のフィリップ5世とシャルル4世の王妃も幽閉されているの。フィリップ5世の王妃ジャンヌだけは無罪を訴え続けて許され、宮廷に戻ることができたけど、シャルル4世は王妃ブランシュと離婚して次に結婚したのが神聖ローマ皇帝ハインリヒ7世の娘のマリー・ド・リュクサンブールなの。ジャンヌ、あなたの親戚ね」
「はい。その縁でボヘミア王子ヴェンツェルがシャルル4世の宮廷で育てられ、名前を変えて神聖ローマ皇帝カール4世となりました」
「イザベラがエドワード2世に失望して帰国して義姉たちの不倫を密告したことで、フランス、そしてボヘミアの歴史は大きく変わったわ。そして彼女はイングランドへ帰国し、さらに恐ろしい復讐をするの。美しくプライドが高い王妃がそのプライドを傷つけられた時、国を滅ぼすかもしれない復讐を考えるわ」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み