9、兄ワレラン3世とその家族(3)

文字数 1,025文字

 私はピエールのいる教会を毎年のように訪れ、1人になって長い間ピエールと話をした。イングランド王リチャード2世について話をした時、弟は座り込んでしまい、ガタガタと震え出した。

「僕があの時見た光景が現実のことになってしまうなんて・・・僕があんな光景を見なければ、リチャード2世の王位は続き、フランスと和平交渉が結ばれていたはずなのに・・・」

 震えている弟を抱きしめようと近付いた。私にははっきり見えるのに体に触れることはできない。

「姉さん、僕はいったい何をしたのだろう?怖ろしい予言をしてそれが現実のものになってしまった」
「ピエール、あなたのせいではないわ。歴史は残酷なものなの。あなたが言った通りシャルル6世は1392年頃から精神異常の兆しが見えたらしいの。そしてワレラン兄さんはブルゴーニュ公ジャン・サン・プールの忠実な支持者となった」
「ジャン・サン・プール?」
「無怖公とも呼ばれているわ。ワレラン兄さんは1402年に水利、林業長官に、1410年にパリ軍事総督および王の酒杯係に、そして1412年にはフランス軍総司令官に任命されたの。そしてパリで民兵部隊を組織し、ノルマンディーでアルマニャック派の軍勢と戦ったわ」
「同じフランス人なのに、敵と味方に分かれて戦っていたんだね。もしもシャルル6世の精神異常がなければ、もしもリチャード2世が廃位されなければ、こんなことにはならなかったに違いない」
「そうね。でも歴史はそのように動き出してしまった。1413年にはワレラン兄さんのいるブルゴーニュ派はパリから退却しなければならなくなった」
「歴史は動き出してしまえばもう後戻りはできなくなってしまうのか。フランス王に忠実だった兄さんがブルゴーニュ派になってしまうなんて・・・」
「リニー家を守り、存続させるためには仕方のない選択だったのかもしれない。気が狂った国王には見切りをつけたのね」
「家を守るための選択、僕もそうだった。だから枢機卿に選ばれた時はうれしかった。でも僕は結局何もできなかった」
「ワレラン兄さんが亡くなった後、兄さんにとっての外孫のフィリップ・ド・サン=ポルがサン=ポル伯領とリニー伯領を相続することになった」
「孫が相続することになるなんて、いったい何があったの?」
「あなたが聞いたらまたショックを受けるかもしれないわ」
「大丈夫だよ。僕はもう小さな子供ではない。ワレラン兄さんの家族に何があったのか、全てを知りたい」

 私はまたため息をついた。

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