30、ジャクリーヌ・ド・エノー(3)

文字数 1,034文字

 トゥーレーヌ公のジャン様と結婚して、ギュイエンヌ公ルイ様が亡くなった後王太子妃となったジャクリーヌ・ド・エノーは1人娘であったため、エノー伯、ホラント伯、ゼーラント伯を継承することになっていた。けれども叔父であるヨハン3世がそれに反対し、領土を巡る争いが続いた。

「ヨハン3世は1389年にリエージュ司教になっていたわ」
「聖職者になっていた者が領土を巡る争いの中心になっていたのか」
「そうよ、聖職者になっても権力にこだわる人は多いわ。ピエール、あなただけよ。あなたは聖職者らしく禁欲的な生活をしていた・・・」
「僕はキリストと同じように、貧しい者、悩み苦しむ者の力になりたいといつも考えていた」
「他の聖職者はそうではなかった。特にヨハン3世なんてひどいのよ。リエージュ市民と対立して反乱が起き、鎮圧後は反乱に加わった市民や聖職者を多数処刑しているわ」
「聖職者にふさわしくない者が聖職者となり、各地で反乱が起きる。僕の予言は当たっていたようだ。そんなヨハン3世を敵に回すなんてジャクリーヌも大変だ」
「1417年、ヨハン3世の兄ヴィルヘルム2世、つまりジャクリーヌの父が亡くなった時、ヨハン3世は司教を辞任して下バイエルン=シュトラウビング公となり、ネーデルランドを巡る戦争を始めたわ」
「ジャクリーヌは夫と父を同じころ失い、叔父のヨハン3世と領土を巡って争い、その翌年にワレラン兄さんの孫のジャン4世と再婚したわけか」
「15歳のジャン4世はいきなり領土を巡る争いに巻き込まれてしまったのよ。そしてジャクリーヌは夫のジャン4世が頼りないとわかると見限って1421年にはイングランドに亡命し、1422年には結婚の無効を対立教皇のベネディクトゥス13世から認められたわ」
「ジャン4世から見れば随分ひどい話だね。争いに巻き込まれて妻はイングランドに亡命、一方的に離縁されたわけだから」
「そうなのよ。もしもルイ様とジャン様、2人が亡くなることがなければ、ジャクリーヌは王太子妃にならなくても、ジャン様と一緒に自分が受け継いだ領土を守れたに違いない。そうなればジャン4世だって別の人と結婚し、争いに巻き込まれて一方的に離縁されるなんてこともなかったわ。ルイ様とジャン様の死が暗殺だとしたら、犯人は2人を殺しただけでなく多くの人の運命を狂わせているのよ。でも犯人はきっとそんなことは気にしていない。あの人はあらゆる手段を使って、シャルル王子を王太子にし、フランス国王に即位させたのだから」


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