65、アンジュー公家(1)

文字数 1,052文字

「私の夫、ルイ2世・ダンジューの父、ルイ1世ダンジューはフランス王ジャン2世の子であった。シャルル5世、ベリー公ジャン1世、ブルゴーニュ公フィリップ2世は皆兄弟よ」

 ヨランド様の話がまた変わった。確かにアンジュー公家、ベリー公家、ブルゴーニュ公家はフランス王ジャン2世陛下の御子から始まっている。

「イングランドもそうだけど、兄弟や一族の争いは熾烈になることが多いのよ。相手もまた王位継承権を持っているから簡単には和睦しない。どちらかが死ぬまで戦いは続くわ」
「そうですね。それはどこの国でも同じです」
「義理の父ルイ1世ダンジューは1339年に生まれている。シャルル5世陛下が生まれたのは1338年だから1歳違いね。ルイ1世ダンジューはアンジュー・メーヌ伯に任じられて後にアンジュー公になったわ。1360年のブレティニー条約でイングランドとフランスが和睦した時にイングランドの人質の1人になったの」
「王の御子でありながら、人質にもなったのですか?」
「それだけイングランドの方が力が強かったということね」
「それからどうなったのですか?」
1363年にロンドンからカレーへ身柄を移される時に隙を見て脱走したの。そして父のジャン1世陛下が代わりに人質になってイングランドへ行った。翌1364年に亡くなるまで陛下は人質のままだった」
「王が人質になっていたなんて、条約が結ばれても対等な関係ではなかったのですね」
「でもその後ルイ1世は兄シャルル5世に仕えて国王軍の指揮官、ラングドックにおける王の代理にもなったわ。そして当時イングランド領だったアキテーヌ公領を取り返そうとした。大元帥ベルトラン・デュ・ゲクランがいたこともあって、アキテーヌ公領の大半はフランス領になったの」
「素晴らしい活躍ですね」
「活躍したの義理の父ルイ1世ではなくベルトラン・デュ・ゲクランよ。彼はブルターニュ出身だった。卓越した個人の力とカリスマ性を持つ者が指揮を取れば、戦いには勝てるわ。大元帥に誰を選ぶか、それが勝敗を決めるわ。そして最も強い大元帥になれるのはブルターニュ出身の者なのよ。あの地方は風が強く海も荒れ、作物もよく育たない。だからこそ粘り強く勇猛果敢な戦士が育ちその伝統が受け継がれていくのよ。私がもし、王の大元帥を選ぶ権限を持ったならば、必ずブルターニュ出身の者を選ぶわ」

 その言葉通り、ヨランド様は後にフランスの大元帥をブルターニュ出身の者から選んでいた。彼の名はアルテュール・リッシュモン、ブルターニュ公ジャン5世の弟である。

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