第12話 信頼なんてないですよ、はじめから
文字数 552文字
事務所に集められた彼らは、互いに口をきかずそっぽむいていた。
マネージャーの飯倉は言った。
「ご帰宅されていた社長に報告した。さっきの一件にたいそう心痛められておられた。後日、君たちと話し合いたいとのことだ」
正志が声を落として呟く。
「俺がちゃんと見てれば、こんなことには・・・」
(まだ言うか)
メンバーたちは鼻白んで聞いている。
なかでも慎之介は我慢ならずうざがった。
「またそんなカッコつけんだね、吉岡くん。君が見てたって同じだよ」
飯倉は慎之介に向け言った。
「何が気に入らなかったんだ?」
最初に手を出したのは慎之介だ。確かに彼が拓海を殴った。それに至る背景があったにせよ。
「全部ですよ」
「全部?」
「ええ」
「詳しく話せ」
「・・・」
慎之介は仏頂面で黙ってしまった。
「話せないのか?」
慎之介は拓海を横目で睨んでから呟いた。
「話すと止まんなくなる」
飯倉は全員を見渡して言った。
「思ってることがあるならはっきり言え、この際。そのための反省会だ。メンバー同士が不信に感じてたらこの先続けていけないだろう!」
「もう無理っすよ」
言ったのは日下部悠斗だった。『笑門来福⤴吉日』唯一のオーディション組の。
「悠斗、なにが無理なんだ?」
「飯倉さんも気付いてたはずだ。俺たちに互いの信頼なんてないですよ、はじめから」