第74話 再結成に前向きなら弁護士など間に置かん

文字数 798文字

 ただ、ここから一筋縄ではいかなかった。
「おかえり。どうだった?」
 重い足取りで事務所に帰ってきた支倉に飯倉が問う。
「会うには会えたんですがね」
 支倉の表情は冴えない。
「簡単にはいかんだろうな」
 飯倉にもわかっている。
「あの話を出したとたん、ただちに打ち切られました」
「やつひとりだったか?」
「いえ」
「やはりな。ひょっとして」
「ええ、ラバーズの」
 吉岡正志の元マネージャーを務めていた支倉は正志との交渉役を飯倉から任されていた。
 支倉は正志と連絡を取付け、彼の事務所で面会まではこぎつけた。この後、正志を事務所から連れ出し、彼の好きな高級寿司店で差しで話をするつもりだった、のだが・・・邪魔者がいた。
「仲道が前面に出てきましてね」
 元女子アナ朝比奈莉夢に犯したハラスメントまがいの行動によって正志はメディアから散々に叩かれ、一時、彼の芸能活動に大きな支障をきたしていた。自分の身を護るため、正志は弁護士を雇った。それがかつてラバーズ事務所で顧問弁護士を務めていた仲道節雄だった。
「契約に関わる話は全部自分を通せと」
「正志個人とは交渉させないってことか・・・」
「そのようです」
「正志の意思か?」
「どうでしょう、終始無表情でしたからね」
「俺たちの動きは知ってるはずだ。再結成に前向きなら弁護士など間に置かん」
「いまや毒舌のMCキャラでぼろ儲けしていますからね、正志は」
 吉岡正志の人気は依然高い。舌鋒鋭く、番組を仕切らせれば右に出る者がいないほどの地位を得ていた。メディアから叩かれてもそれが却って彼の存在感をも高めていた。
「戻る理由がありません」
 諦め口調の支倉に、飯倉は激しく頭を振って諭した。
「それがいけないんだ! 個人の成功しか考えないから日本の芸能は廃れるんだ。国民が何を望んでいるのか、何をすれば楽しませることができるのか、それが中心にないとこの国の芸能は本当にただの金儲けで終わるぞ!」
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