第3話 本業の俳優さんに失礼だよ
文字数 888文字
超売れっ子の彼らは毎日休みなくスケジュールが入っている。それもメンバー全員での仕事ばかりでなく、個々の仕事もたくさん抱えていた。
今日は人気お笑い司会者が仕切るお昼の生番組に、『笑門来福⤴吉日』のリーダー吉岡正志(よしおかまさし)がゲストで呼ばれていた。
偶然にも同じメンバーの來嶋詩郎(きじましろう)が同じテレビ局の隣の収録スタジオでドラマ撮りを行っていた。
そこで二人はたまたま廊下ですれ違った。
先に声をかけたのはリーダーの正志だった。
「よ、詩郎ちゃん! ああ、あれか、疑惑のエキスポ・・・」
正志が言っているのは詩郎が主演を務めるドラマ。開催ギリギリでどうにか間に合った2025年大阪万博をテーマに取り上げた13回物シリーズ。大阪万博は大阪府のみならず国の威信がかかっていた。しかし、その水面下で莫大な裏金が閉幕後問題となっていた。辞退を申し出る誘致国に、収支報告に載っていない得体の知れぬカネがパビリオンの建設費だけでなく誘致国の財政支援に投下されていたのだ。その闇金ルートを探る捜査官の役を『笑門来福⤴吉日』きっての演技派來嶋詩郎が演じていた。近年低迷する視聴率の中で、このドラマは前半クールだけでも15%を超えていた。かなりの人気ドラマと言って良い。
「社会派を演じさせれば、詩郎ちゃんの右に出る奴いないね」
正志は詩郎を持ち上げる。のちに作られた彼の表キャラは多弁で明るい社交性だ。それは他の目があれば同じメンバーと接していても変わらない。
それをよく知る詩郎は内心嫌気を覚えつつも、あの時の慎之介同様、マネージャーの飯倉三津郎から言われていた常に笑顔を忘れぬようにしていた。
「んなわけないじゃん。本業の俳優さんに失礼だよ」
詩郎は謙虚に正志のお世辞を取り下げた。言外にあのドラマのキャスティングにどれだけ実力俳優を揃えているか、知ってるだろうと突きつけた格好だ。
が、正志はゲスト出演を終えた生番組の後だけに、ハイテンションを維持していた。
「いやいやいや、そんなことない、詩郎ちゃんはもうぜんぜん本業顔負けだって」
ちょっと皮肉を言ってやろうと詩郎は思った。