第58話 ファンの方々が喜んでくれる顔が見たいだけ
文字数 956文字
飯倉から言われたとおり、マッキーは沖縄のご当地アイドルになった。それが彼の望むものであったかどうかは別として。
ラバーズ事務所に留まっていた飯倉にマッキーはこんなことを報告している。
「いまの方が断然楽しいです」
「よかったじゃないか」
故郷で復活したマッキーを飯倉は東京に呼び戻したかった。戻せばきっと売れる。いまのマッキーは単なるアイドルではない。立派なミュージシャンだ。
だが、そんなことをすれば、間違いなく海堂丈太郎の魔の手が伸びる。マッキーにも自分にも。自分の場合、やっとマネージャー業に戻れたというのにいまの境遇を捨てなければならない。
(社長がいる間は、無理か・・・)
もどかしい気持ちだった。
しかし、マッキーは言った。
「俺、これでいいと思ってます」
帰国した時とまるで違うマッキーの生き生きとした声は、飯倉に芸能界のあり様を問うているように思われた。
売れるとはなんだろうか?
アイドルとはなんだろうか?
マネージャーはどこまで力になってやればいいのか?
そんなことを思案していると、マッキーから問題発言を告げられた。
「飯倉さん。言いにくいことなんですけど」
「どうした?」
「あの時の楽曲ちょびっとだけやらせてもらってます。ライブで」
「『テイクプレジャー』のか?」
「ええ」
「おいおいおい」
それはルール違反だ。
しかし、マッキーはめげない。
「お客さんから大ウケでした。やっぱり俺は『テイクプレジャー』だったんだって思いますよ。ありがたいことです」
それらの楽曲の権利はラバーズが持っている。それで金儲けすれば丈太郎からどんな仕打ちが待っているかわからない。
しかし、ご当地アイドルが他の歌手の曲を歌ったりすることはままある。これをカラオケの延長と見ることもできないことはない。テレビ放送や大きなコンサート会場で無許可でやった場合は問題ありだが、地方ではそれほど煩くはない。
「よろしくはないな」
飯倉、一応は苦言を呈した。
「どうしてもやりたくなりますよ、リクエストとかされたら」
するだろう、ファンなら。マッキーに歌ってもらいたい。
「俺はただ、ファンの方々が喜んでくれる顔が見たいだけなんです。ファンと一緒に歌いたいんです」
「ったく、しようがないやつだな」
嬉しそうな顔で飯倉は受話器を握りしめていた。
ラバーズ事務所に留まっていた飯倉にマッキーはこんなことを報告している。
「いまの方が断然楽しいです」
「よかったじゃないか」
故郷で復活したマッキーを飯倉は東京に呼び戻したかった。戻せばきっと売れる。いまのマッキーは単なるアイドルではない。立派なミュージシャンだ。
だが、そんなことをすれば、間違いなく海堂丈太郎の魔の手が伸びる。マッキーにも自分にも。自分の場合、やっとマネージャー業に戻れたというのにいまの境遇を捨てなければならない。
(社長がいる間は、無理か・・・)
もどかしい気持ちだった。
しかし、マッキーは言った。
「俺、これでいいと思ってます」
帰国した時とまるで違うマッキーの生き生きとした声は、飯倉に芸能界のあり様を問うているように思われた。
売れるとはなんだろうか?
アイドルとはなんだろうか?
マネージャーはどこまで力になってやればいいのか?
そんなことを思案していると、マッキーから問題発言を告げられた。
「飯倉さん。言いにくいことなんですけど」
「どうした?」
「あの時の楽曲ちょびっとだけやらせてもらってます。ライブで」
「『テイクプレジャー』のか?」
「ええ」
「おいおいおい」
それはルール違反だ。
しかし、マッキーはめげない。
「お客さんから大ウケでした。やっぱり俺は『テイクプレジャー』だったんだって思いますよ。ありがたいことです」
それらの楽曲の権利はラバーズが持っている。それで金儲けすれば丈太郎からどんな仕打ちが待っているかわからない。
しかし、ご当地アイドルが他の歌手の曲を歌ったりすることはままある。これをカラオケの延長と見ることもできないことはない。テレビ放送や大きなコンサート会場で無許可でやった場合は問題ありだが、地方ではそれほど煩くはない。
「よろしくはないな」
飯倉、一応は苦言を呈した。
「どうしてもやりたくなりますよ、リクエストとかされたら」
するだろう、ファンなら。マッキーに歌ってもらいたい。
「俺はただ、ファンの方々が喜んでくれる顔が見たいだけなんです。ファンと一緒に歌いたいんです」
「ったく、しようがないやつだな」
嬉しそうな顔で飯倉は受話器を握りしめていた。