第104話 1枚カードを抜き取る

文字数 902文字


 妹尾が例の闇ブローカーにチャットメッセージを送っている。ハンドルネームは杜日将(とにっしょう)。曰く実業家らしいが、本業が何であるかわからない。が、妹尾はこの男を使って飯倉の立ち上げた事務所を危機に追い込み、ついには飯倉を暗殺するまで仕掛けた。それはまもなく完遂を見ることになるだろう。
 しかし妹尾は満足していない。あの事務所には『笑門来福⤴吉日』の元メンバー5人が集まり、飯倉を殺害してもなお再結成を諦めぬ動きがある。これを妹尾は完膚なきまで鎮めたかった。それには直截的な行為、即ちアイドルから1枚カードを抜き取らねばならなかった。
>>もうひとつ頼みたいことがある
 妹尾は杜日将を名乗る男に新たな仕事を依頼していた。
>>なんだ?
>>來嶋詩郎を消して欲しいんだ
>>來嶋? 『笑門来福⤴吉日』のか?
>>そうだ
>>タレントをやるとなるとかなり厄介だぞ.国民感情が入ってくる上、国の司法を本気にさせる.俺はともかくおまえはただでは済まんぞ
>>いいんだ.それでもやってもらいたい
>>吉岡とか笑原でなくていいのか?
 杜日将が確認したのは『笑門来福⤴吉日』の看板タレントは吉岡と笑原である。その二人のどちらかを殺害するほうが再結成の芽を潰せる確率が高いのではということだ。
 しかし妹尾はこだわる。
>>來島だ
>>どうして?
>>娘をヤツに殺された
 彼の娘、麻倉真悠は來島詩郎推しだった。自殺した時彼女が纏っていたピンクのローブは來島詩郎のイメージカラーで彼女の手には來島詩郎のマスコット人形が握られていた。
 チャットラインの向こうで杜日将がせせら笑う。そんなセンチな感情でプロに殺害を依頼することに。しかし彼はビジネスに徹する。
>>結構なことだが,そんじょそこらのマネーでは受けられんぞ
 妹尾は先に使った海堂メイコの隠し口座にプールされている全額を使い果たすつもりでいた。犯罪に手を染めた以上、この口座を残しておく意味がなかったからだ。
>>500万ドルでどうだ?
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