第65話 見つけたんだな

文字数 979文字


 振り返ってみて、1980年代はアイドルの黎明期と言っていいだろう。
 『テイクプレジャー』と『エクストラパラダイス』という2つのビッグアイドルグループが駆け抜け、そして突然の解散。この2つが消滅した代わりに1988年に誕生したのが『笑門来福⤴吉日』。
 不良でもない、アクロバティックでもない、話芸があるわけでもない、そんな『笑門来福⤴吉日』はこれといった特徴がなく、『テイクプレジャー』や『エクストラパラダイス』に比べ存在感がかなり薄かった。
 よって、80年代、特に後半は黎明期でもあるが、別の言い方をすればアイドル不毛の時期でもあった。
 しかし、この停滞がのちにアイドルの路線を大きく変え、多彩な芸を身につけていくことになる。
 『笑門来福⤴吉日』がコメディアン化したことはすでに述べたが、『笑門来福⤴吉日』以降にデビューしたアイドルたちは皆が皆、面白いトークができた。それは視聴率至上主義のレガシーだったかもしれない。テレビは一時の楽しさだけを求めていた。
 楽しさ求め、陽の当たる場所で活躍できた『笑門来福⤴吉日』の変貌がアイドルの形を変えた初めとするなら、薄日差す場所で流行りに乗り遅れた者たちと心温め合う楽しさを最初に見つけたのはマッキーこと、近見真紀だったかもしれない。

 テレビから姿を消したマッキーは、視聴率と懸絶した世界で生きていた。
 故郷沖縄で三線片手に懐かしいメロディを歌う彼は、時代を生き抜いてきた島の人たちと共に日々を謳歌した。行く先々のライブハウスには彼を慕う根強いファンが待っていた。
 今日そのライブに東京から訪れた一人の客がマッキーを待っていた。
 ステージに立った時、マッキーはその客の顔を一番に見つけた。忘れようのない顔だったからだ。
(飯倉さん・・・)
 飯倉がマッキーのライブを見に来たのである。
 ラバーズ事務所が民政党との癒着、裏金問題で倒産し、事務所の整理に彼は東奔西走し、すべての職から開放された後だった。
 彼の脳裏には、アメリカから帰国した頃の若き近見真紀の苦悩に満ちた表情が浮かんでいた。それと比べてみて、いまステージに立つ還暦を前にした彼の表情はどうだ。別人かと思われるほど生き生きとしている。
(見つけたんだな、マッキー・・・)
 束ねた銀髪と、目尻のシワを覆う色メガネに、かつての不良とは違った大人の色気が漂っていた。
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