第14話 下積みが足りないから

文字数 669文字


 飯倉は自分では手に負えぬところまで来ていると悟り、『笑門来福⤴吉日』の危機を副社長の海堂メイコに相談した。メイコは社長海堂丈太郎の妹である。
「解散?」
 飯倉の話を聞いたメイコは驚いた。
「冗談いわないで」
 所属タレントのメンバー間の揉め事には慣れてはいたが、マルチタレントにまで上り詰めた彼らがよもやテレビ局で乱闘事件を起こすなどメイコは思いもよらなかった。ましてや解散など。
「私も冗談にしたいんです。ですが・・・」
「あの子たち、いつからそんなにこじれた状態だったの?」
「悠斗曰く、はじめからだったと」
「あなたがいながら、どうしてそんなややこしいことになったのよ!」
 管理を任せていた飯倉にメイコは責任を押し付けた。
 飯倉は頭を下げて言った。
「申し訳ありません。しかし、アイドルグループというものは売れると誰かが増上慢になるものです。過去にも『テイクプレジャー』や『エクストラパラダイス』もそうだったでしょ」
 ラバーズ事務所からデビューしたこの2つの人気グループは1980年代から2000年にかけて人気を博したが、メンバーの中から独立を希望する者が次々と現れ解散を余儀なくされた。独立したタレントはその後全く売れなかった。自分の実力を過大評価しすぎていたのだ。これを飯倉は増上慢と断罪する。
 メイコは渋い顔で頷いた。
「たしかにね。彼らの解散はメンバー同士のプライドから来る些細な亀裂だった。ただ『笑門来福⤴吉日』は路線を変えてアホを演じられたでしょ? どうしてそんなシリアスなところへ陥るわけ?」
「結局は、下積みが足りないからでしょうね」
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