第15話 縛っても、出ていく者はいるでしょう
文字数 861文字
「まだあった方でしょ、彼らには。幸か不幸か、あの子たちはアイドル不況の時代に生まれた」
メイコは売れなかった時代の『笑門来福⤴吉日』を見てきた。飯倉の助言がなければ下積みのまま終わった可能性もあった。
飯倉は鼻先を掻いて苦笑いした。
「あれを下積みと言ったら他のタレントに笑われます。それでも彼らは1年もたたずスターになれたのですから」
「なにが違うのかしら?」
「堪え方でしょう」
「こらえかた?」
「ええ、どんなタレントにも我慢はついてきます。ですが彼らにはまだその意味がわかっていない。詩郎は言いました。売れて自分が一番偉いって勘違いしてるメンバーがいるって」
「勘違いしてるメンバー?」
「正志と拓海のことを言ってるのでしょう」
メンバーの中ではこの二人がもっともテレビ出演が多かった。
「彼らは稼ぎ頭だわ。二人がいるから『笑門来福⤴吉日』が売れたのよ」
事務所もそうやって彼らを特別扱いする。それが詩郎はじめ他のメンバーには我慢ならなかったのだろう。
「それで、一番若い慎之介が嫉妬から拓海に手を出したのかしら?」
「違うでしょうね」
「じゃあなに?」
「いわば近眼から来る内紛でしょう」
「近眼? なにそれ?」
「近すぎる視点で互いを見てきた場合、お互いの欠点が見えすぎる。少し優越になれば劣る者を蔑む。それが内輪揉めに至る」
「でも、あなたそれを見越して言ってくれてたわよね、プロのタレントである以上、互いを信頼して、常に笑顔を振りまけと」
「ええ、言いました」
「その基本を忘れたのかしら?」
「妄想が成長しすぎたのでしょう。あの枠の中ではもう収まらぬほどに。それほど彼らは大きくなりすぎた。国民的アイドルってそういうことなんだと思います」
「自惚れだわ」
「そうですね、自惚れです。ですが彼らは『笑門来福⤴吉日』から出なければそれが見えない」
「解散は認めないわ」
飯倉はポツリ呟いた。
「縛っても、出ていく者はいるでしょう」
「もし、出ていくなら思い知らせてやるわ、ラバーズ事務所の力を」
メイコの瞳には育てた子供に裏切られた怒りが燃え滾っていた。