第19話 国民的アイドルグループの解散が確定した日

文字数 843文字

 そこへ詩郎が慎之介を援護する。
「僕たち、独立して自分らで事務所作ろうって話し合ってるんです」
 詩郎は慎之介と剛士の表情を伺い一緒に頷いた。
「事務所を出て、次のステップに進みたいんです」
 社長の丈太郎が詩郎を睨んで言う。
「できると思ってるのか?」
 それは恫喝だった。
 ラバーズ事務所には退所したタレントへの制裁がある。自分たちを裏切ったタレントには徹底して芸能活動を邪魔する。ラバーズ事務所の威光を翳し、各テレビ局に裏切り者の起用をやめさせる。起用しようものならラバーズタレントをそのテレビ局に出さない。それはテレビ局側にとっても大きな痛手だった。よって、裏切り者が芸能界で平和に芸能活動できなくなるのはこの世界では必定だった。
 それを慎之介も詩郎も剛士も知らないわけではない。だが、彼らは賭けてみたいと思った。ラバーズから独立しても生きていけるのかどうかを。
 ここで初めて日下部悠斗が発言した。
「俺は関係ないっす」
 メンバーが悠斗を見る。丈太郎は悠斗に冷たい視線を送った。
「俺、どっちみち芸能界辞めるんで」
 丈太郎は悠斗に訊ねる。
「芸能界を辞める?」
「はい。ずっと考えてました」
「なにをするつもりだ?」
「パイロットになりたいんです」
「愚かな・・・」
「でも、もう決めたんで」
 丈太郎はメンバー全員を眺めてから最後にこう言った。
「出ていくやつは勝手に出てけ! だがな、俺の目が黒いうちはこの世界で飯はぜったい食わせん」
 国民的アイドルグループの解散が確定した日だった。


***************

<自己紹介>
水無月はたち
大阪下町生まれ。
Z世代に対抗心燃やす東京五輪2度知る世代。
ヒューマンドラマを中心に気持ち込めて書きます。

―略歴―
『戦力外からのリアル三刀流』(つむぎ書房 2023年4月21日刊行)
『空飛ぶクルマのその先へ 〜沈む自動車業界盟主と捨てられた町工場の対決〜』(つむぎ書房 2024年3月13日より発売中)
『ガチの家族ゲンカやさかい』(つむぎ書房 2024年夏頃刊行予定)

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