第105話 闇ブローカーとのディール

文字数 1,338文字

 杜日将の予想より多かった。しかし杜日将は妥協しなかった。
>>足りん
 妹尾の方もこれを予想していた。
>>それは手付だ.成功報酬でこれの10倍払うがどうだ?
 5500万ドル。プロからしても人間ひとりを消し去るには十分な額だった。日本人アイドルを殺害する相場がどれほどのものかわからぬが・・・。
>>よかろう
 真意の程はわからぬが、杜日将が受けた。
 このメッセージを見て妹尾の口角が上がる。海堂メイコの口座残金は1500万ドルだったからである。妹尾は初めから成功報酬を支払う気がない。手付金も杜日将が吊り上げてくることを予想して総額の3分の1から始めた。これでいくと妹尾は手元に1000万ドルを残して闇ブローカーとのディールを完成させようとしている。
 しかし相手は・・・
>>5日で仕事を終える.手付と成功報酬の4割を先に振り込め.さもなくばこの仕事はチャラだ
 さすがはプロである。ただでは下がらぬ。その要求額は妹尾が動かせる最大値1500万ドルを超えて、手付500万ドル+成功報酬手付の10倍その4割で2000万ドル、合わせて2500万ドルとなった。
 妹尾は考える。ここで値段交渉を始めると相手の思う壺だ。これを種にまた相手は揺さぶりをかけてくる。だから彼はこう返した。
>>下手人をこちらで手配するので道具と機会を用意してくれ
 思い切った提案だった。
 すると杜日将もこの提案には眉を動かした。暗殺下手人の手配が最も難しいことだったからだ。下手人は確実に捕縛され、裁判の結果次第で極刑になるからだ。
 杜日将はこう返してきた。
>>簡単にはできんぞ.しかもあってもワンチャンスしかない
 それは銃殺のことを言っている。大物をターゲットにする時は毒殺のように時間をかけていられない。一瞬の隙をついて狙撃する以外チャンスはない。その一瞬を逃さぬ腕と度胸が求められる銃殺は素人には非常に難しい。そう杜日将は忠告しているのだ。
 だが、妹尾は折れない。
>>俺にはそのコマがすでにある.状況を作ってくれれば下手人を送り込む
 妹尾は莉夢を使うつもりだった。実は彼女、学生時代クレー射撃競技の選手だった。銃を扱うことにおいては問題ない。問題があるとすれば彼女に人を殺せるかどうかだったが、妹尾は莉夢に引き金を引かせる方法をすでに考えていた。それは催眠術だった。妹尾には以前仕事で関わった日本催眠術協会に知り合いがいる。その者に大枚を渡し莉夢に催眠術をかけてもらうつもりだった。飛んでいる素焼きの皿を撃ち落としなさいと。來島詩郎を皿に見せて。
 妹尾は強気でメッセージを送る。
>>そっちが道具を,こっちが人を.だから折半だ
 5割分の割引を持ちかけた。そうなると成功報酬は5000万ドルから2500万ドルに落ちる。そのうちの4割だと1000万ドル。手付と合わせてちょうど1500万ドルになる。
 妹尾は杜日将の返事をまった。これで決裂するとこの策はもう使えない。
 すると、杜日将からこんなメッセージが・・・
>>よかろう.明日までに銃を用意する.指定した場所に取りに来い
 妹尾の顔に歪んだ笑みが差していた。

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