第3話 葬儀屋の提案と戒名の値段

文字数 1,018文字

 介護士さんの丁寧でありながらキビキビとした所作と、在宅医療クリニックの先生の落ち着いた温かな言葉掛けに私は感心することしきりであった。

 もちろん母は先生の言葉でまた大泣きした。
先生は忙しいんだからあんまり引き止めても、と思った私はやはり冷たい娘だろうか。
それらが終わった11時頃、葬儀屋がやって来た。


 家族葬で行いたいと告げると、葬儀屋の社長の奥さんは言った。
「コロナですからね。一日葬というのも最近多いですよ。お通夜を行わないで告別式と火葬のみを1日で行うんです」

とにかく昔ながらのしきたりが嫌いで簡易的に行いたい私は、身を乗り出し、
「それいいですね。それでいいよね?」
と食い気味にみんなに同意を求め決めてしまった。コロナだからね!

 16日納棺式、17日家族葬(30万円コース)、帰ってきて近所の割烹料亭でお清めという段取りとなった。
お寺の住職に確認すべきこと(戒名代のほか、車代、食事代の有無など)も、葬儀屋さんから教えてもらいメモした。


 午後3時頃、お寺に葬儀の打ち合わせと戒名の確認に行くことになった。
母は疲れたらしく座り込んだまま、
「あんた達で決めてきていいよ」と。
妹があっけらかんと、
「私、戒名代の相場がわからないから値切っちゃうかも」
と返すと、とにかく世間体を気にする母は慌てて同行することとなった。

 お寺に着いてからお坊さんに家族葬の一日葬であることを告げた後、私は一日でどこまでできるものなのかを聞いてみた。
初七日までできるという。私はダメモトで聞いてみた。
「もしかしてその日に四十九日もできたりしますか?」
さすがにお坊さんは苦笑して「それはちょっと……」と。ですよね、わかっていました。もしかしたらと思ったんです。コロナ特例で。

 四十九日の法要は1月23日、そのときに納骨式となった。
告別式終わってすぐにお墓に納骨じゃお父さんが可哀相、寂しいと母が言ったからだ。ラブラブ。高齢なのに感性が若々しい。
 戒名の値段は55万円だった。祖父の時が60万円だったので、まけてくれたという。母は二つ返事で承諾。
高いよね? 私と妹は目で会話した。


 値段は別として、なかなかに良い戒名だった。
父の名前から一文字。『阿』を挟んで、(きよ)い心で仕事を(おさ)めたという由来で『浄』『修』、そして『居士(こじ)』。居士というのは、出家せず家庭で修行する仏教徒という意味らしい。
父はシャイで欲の無いタイプの人間だったので、合っていると感じた。
さすがは住職。

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