第7話 骨上げとお清めと家族葬のデメリット

文字数 1,279文字

 父への手紙を簡単にまとめた私は控え室に戻ってきた。妹に話しかける。
「最近なにかマンガとか読んだ?」
私は年々バカが加速して、小説はもとよりマンガですら読むのが億劫(おっくう)になってきている。なにかお勧めはないものかと聞いてみた。

「あんまりマンガは読んでいない。……恥ずかしいんだけどね、最近はラノベ、知ってる? ライトノベルっていうのを読んでいる」
「え? へえ、そうなんだ」なぜか少し緊張する。

「小説投稿サイトで異世界転生ものを読んでいるの」
「あの、トラックにひかれるっていう?」

「そうそう! あとは過労死ね! いろんな種類があってね、異世界転生、異世界転移、ざまぁ、チートとか、私は侯爵様とか伯爵様の出てくる話が大好きで」
「マンガより読みやすいの?」

「うん、同じくらいサーッと読めるね。素人が書いているから滅茶苦茶でツッコミどころ満載なんだけど、読んじゃうんだよね~。なかなか更新されないと『もう!』って思っちゃう」
……マンガと同じくらい読みやすいのか。
やはり読みやすい文章を心がけなければ。そしてやはり小説投稿は極秘にしよう。


 時間が来て火葬炉へ移動した。
父は脳の血管の手術もしていたので、頭蓋骨のてっぺんに穴が空いていた。
意外と大きな穴だった。あの手術で父は「死んでいいから手術はもう絶対にしない」って決めちゃったんだよね……
そして最後に残った喉仏。
父の骨はしっかりしていたようで、火葬場の係員が入念に壺へ押し込んでいた。

 それから近所の割烹料亭でお清めをした。
あろうことか私達は父の陰膳(かげぜん)のオーダーを忘れていて、父の遺影(いえい)の前にみんなで小鉢を持ち寄った結果、父はまるでお弁当を忘れた小学生のようになった。


 隣の席の夫がささやいた。
「家族葬じゃなくてさ、普通にお通夜と告別式やって人をいっぱい呼んだ方が、香典入ってきて儲かるのに~」
「お父さんの希望だったんだよ、家族葬は。それにコロナだから集まらない方がいいじゃない」

「今は一般葬もコロナ対応なの! 知らないの? 式場の入口に焼香の席が設けられていてさ、みんなそこでお焼香を済ませて香典置いてお返しもらったらサッサと帰っちゃうんだよ。式場もお通夜の席も親族だけで、一般の人は入れないんだから」

「でも一般葬は費用がかかるじゃない。おたくと違ってうちはそんなに香典集まらないよ」
「そうかなぁ~。でもさ、家族葬はあとでチンタラチンタラ弔問客(ちょうもんきゃく)が来て、かえって面倒くさいと思うよ~。ま、とにかく俺の葬式は盛大にやってくれよな」
「はいはい」

 夫の話は大風呂敷なので話半分に聞くことにしているのだが、確かにそのあと弔問客はダラダラと来た。途中でお返しが足りなくなり、葬儀屋へ追加注文したのだった。


 そして開けっ(ぴろ)げな田舎の親戚から言われたのが、
「家族葬で通夜振る舞いをしなかったから、香典儲かったでしょう?」
しょっぱいみたいに言われて、母は怒り心頭(しんとう)であった。これも私はその場にいたわけではないので、イヤミなのか単なる軽口なのかニュアンスが掴めない。
私だったら笑っちゃうけどね。

 今のところ思いつく家族葬のデメリットはそんなところ。

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