第13話 税理士がアップを始めました

文字数 1,844文字

 「うちは相続税はかからないよ。司法書士誰か見繕って相続の登記を頼んじゃって大丈夫」

 私は母に伝えた。が、母は上の空。どうも落ち着かないらしい。
「いや、税理士に確認してもらう」
と言って以前商売(小売業)を営んでいたときの顧問税理士に連絡した。
タワマンCさんが「まずは信頼できる税理士に相談することが大切」と言っていたのも母の頭にあったのだろう。
妹も私に囁いた。「お姉ちゃん、お母さんの気の済むようにさせた方がいいって」

 すると税理士は、
「ああ、新聞のお悔やみ欄を見て、そろそろ連絡があるかと話していたところです」
待っていましたよ、みたいな感じだったそうだ。
やっぱり不景気で税理士も大変なんだな。
夫が言うには、
「当たり前じゃん~、税理士にとっちゃ相続なんてボロ儲けだよ~」
本当ですか? 夫は誇張癖があるので、話半分に聞いているのですが。

 いわゆる”先生”と呼ばれる人から、「お声がかかるのをお待ちしておりました」「忘れてなんかいませんよ」そんな風な対応をされたら、母のような昔気質(かたぎ)の人間は、税理士の言い値で手数料の支払をしてしまいそう。
それをやんわり母に伝えたら、見る見る不機嫌顔になり、
「あんたは先生に余計なことを言わなくていいからねっ」
と釘をさされてしまった。


***************

 翌週の会社帰り、実家に寄って祭壇でお線香を上げ手を合わせた。
お、顧問税理士の香典が置いてある。さっそく来たんだ。
ひっくり返してみる。1万円だ。先生、やる気満々だな。

 「うーん、ギリギリ相続税はかからない……かと。確認してみますね」
そう言って税理士は、遺言書もどき、固定資産税納付書などを預かり、相続に必要な書類を記載した大きな封筒を置いて帰っていったという。
ギリギリどころか全然かからないよ相続税。
母と兄のお嫁さんが言うには、税理士は「書類作って持ってきますね」と言っていたらしいが……何の書類でいつ頃来るのか。私は仕事でその場に立ち会えなかったのが残念だった。

 私は諸々の手続きに関しては、自分でも「どうかしている」と思うぐらい再確認をする人間だ。
年々記憶力の減退がひどく、復唱してメモを取らずにはいられないし、今後のスケジュールは把握しておきたい。エッセイの大切なネタだし。
だから母とお嫁さんから聞く話が、なんともフワフワして心もとなく……

とりあえず妹にも連絡し、税理士から言われた書類を各自集め、四十九日の法要のときに持ち寄ることとした。


*************

 夫からの情報。
夫はノリがいいので、社長連中から可愛がれることが多い。70代の社長Dから聞いた話。
社長Dは、毎年遺言書を作成するらしい。さすが社長。

公証人役場で作成するのだが、その財産の価格に対応して手数料が決まるのだ。
例えば……財産の価格 1,000万円を超え3,000万円以下→手数料23,000円
           3,000万円を超え5,000万円以下→手数料29,000円
           5,000万円を超え1億円以下    →手数料43,000円
           …………

「Dさんが言うには、今、法務局で遺言書を作成できるんだってよ、それが手数料3,900円! 財産に関係なく一律3,900円なんだってさ、安いよな~」

 ネットで調べてみました。
2020年7月に施行された『法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設』です。
出来たばかり。遺言書の閲覧や、相続人が遺言の内容の証明書を請求するときは、その都度1,400円~1,700円程度かかるようですが、安いです。
http://www.moj.go.jp/content/001322593.pdf

どうやら、高齢化社会へ対応するため、相続法に関するルールを見直しているようです。
(これ以外にも3点ほど改正がされています)
http://www.moj.go.jp/content/001318075.pdf

でもご注意ください。Q&Aから抜粋です。
【問い】法務局で遺言書の書き方を教えてくれますか?
【回答】遺言書の作成に関するご相談には一切応じられません。遺言書の様式については、注意事項をご覧いただき、あらかじめご自身で作成の上、来庁いただくようお願いします。

 法務局では遺言書の審査(内容が有効、適正かどうか)はしないので、注意事項をよく確認しないといけません。
作成慣れしている社長連中ならまだしも、ビギナーにとっては、そこがちょっとリスクですかね……

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