第4話 香典、いくら包む? 

文字数 821文字

 「香典はいくら包んだ方がいい?」

 お寺から帰ってきてから、家族で座卓を囲みお茶を飲みながら母に聞いた。
「いくらでもいいよ」
と母は言った。駆け引きの時間の始まりだ。

妹がスマホで香典の相場を調べた。
「家を出た子どもは5万から10万だって」
じゃあ10万円で合わせようかと妹と話していたら、母がやや渋い顔をして私に言った。

「あんたは稼ぎがいいからもっと頑張ってくれてもいいけど」
おっと、そうきたか。

「じゃあ、いくらにする?」
「いや、いくらでもいいよ」
一体いくらだ。「空気を読んで察しろ」という謎かけは苦手だ。

 断っておくが、母はかなりの預貯金を持っている。そして私の収入は、数年前から評価に連動して右肩下がり中。
私は独身時代、兄妹より勤め先が安定しているという理由で大黒柱認定され、月々とボーナス時にかなりの金額を実家に入れさせられ、おっと、入れてきた。(言い方!気をつけて!)

職が変わりがちな兄妹は、「可哀相だから」という理由で母から免除されていた。


***************


 香典の金額問題は夫が解決してくれた。
自宅に戻ったら夫が香典袋を準備してくれていたのだ。もう名前と金額の10万円が薄墨で記入されていた。(残念ながら中身は入っていない)

「実家を出た娘は10万でしょ。姉さんなんて5万しか包んでこなかったぜ」
夫は姉と弟の3人兄弟。6年前に父を、2年前に母の葬儀を執り行っている。
「半分ずつ出し合おうよ」
「えー? 和ちゃん全部出してよ~……しょうがないなぁ、5万円下ろしてくるよ」

あわせて10万円入れて準備完了。夫が準備したとなれば、母もなにも言えまい。


 夫は、自称地元(田舎)の名士(笑)でつき合いが広く、参列した葬式は数知れず。
様々な葬儀を見聞きし、自分も2回喪主を務めた葬式のエキスパートである。

 後日、お清めの席で喪主の兄が挨拶をするのを渋ったため、日頃父とまったく絡みのなかった夫が急遽、献杯(けんぱい)の挨拶を代行するという茶番があった。

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