第8話 後家さんロードのニューフェイス
文字数 1,125文字
ここは地方だが、実家は県庁所在地の町中にある。なのに限界集落かと思うほど周辺には年寄りしかいない。
町内の年寄り達が次々と弔問に訪れた。今年は町内で父を含め4人亡くなっているという。
今年、旦那さんを亡くした後家 さんAがテンション高めにやって来た。
「驚いたわよぉ、お宅の旦那さんまで亡くなるなんて、ここの町内どうしちゃったのかしら、なんでこんなことばかり続くの? 後家さんだらけになっちゃう」
「お宅の旦那さんによろしく言ってよ、うちのお父さんがあの世 に行くから、迷子にならないよう案内してって」
母ももちろん涙声で盛り上がる。
母は別の後家さんBとも、同じ設定で盛り上がっていた。後家さんBは何度もお線香をあげに訪れてくれたのだが、その度にこの寸劇 は始まった。
私はお茶を出すとタイミングを見計らって台所へ引っ込んだ。再放送にそうそうリアクションはとれないし、正座も辛 い。
忌引き休暇中、ずっとこの寸劇を見せられるのか……と思っていた矢先にニューフェイスが現れた。
町内に3年前に出来た立派なタワマンの住民Cさん。50代女性、公務員である。
母親と2人暮らしをしていたところ、今年始めに母親が急死したという。私の母がCさんの母親と親しくさせていただいていた関係でお線香をあげに訪れてくれたのだ。
「あの凄いタワーマンションに引っ越して来た人がね、町内会に入りたいって言ってきて……」前に母がそんなことを言っていたな。その娘さんがCさんなのか。
私は初対面のCさんに挨拶した。
あのタワマンは確か5,000万円。住民は医者や弁護士だらけと聞いている。
一見庶民的に見えるCさんだが、私の勘ではローンを背負っている気配が無い。何回か会えば、その人が醸 し出す佇 まいでなんとなくわかりますよね。
私は、「金持ち」と「金持ちっぽい」に関しては明確に区別していきたいのだ。そのセンサーは日々磨いている。騙されないぞ。
Cさんは……資産家だな。
Cさんは律儀 にも、仕事から戻ると毎日お線香をあげに来てくれた。
顔見知りになったところで私はCさんに、そのとき一番気になっていたことを質問した。
「お母さん急死されたのでは、相続手続きが大変だったんじゃないですか?」
Cさんは目を見開き体をぐるっと私に向け、大きく頷いた。
なんとCさんは次の日、相続時の書類を持参して手続きの説明をしてくれたのだ。
私は耳からの情報は上滑りして、目で見ないと掴 めないタイプの人間なので非常にありがたかった。
メモをとりながら私はエキサイトしてしまい、年上のCさんに対しちょいちょいタメ口になってしまった。「タメ口すみません」と謝る私にCさんは笑っていた。
私が盛り上がっているときは、たいてい母は醒めている。
町内の年寄り達が次々と弔問に訪れた。今年は町内で父を含め4人亡くなっているという。
今年、旦那さんを亡くした
「驚いたわよぉ、お宅の旦那さんまで亡くなるなんて、ここの町内どうしちゃったのかしら、なんでこんなことばかり続くの? 後家さんだらけになっちゃう」
「お宅の旦那さんによろしく言ってよ、うちのお父さんが
母ももちろん涙声で盛り上がる。
母は別の後家さんBとも、同じ設定で盛り上がっていた。後家さんBは何度もお線香をあげに訪れてくれたのだが、その度にこの
私はお茶を出すとタイミングを見計らって台所へ引っ込んだ。再放送にそうそうリアクションはとれないし、正座も
忌引き休暇中、ずっとこの寸劇を見せられるのか……と思っていた矢先にニューフェイスが現れた。
町内に3年前に出来た立派なタワマンの住民Cさん。50代女性、公務員である。
母親と2人暮らしをしていたところ、今年始めに母親が急死したという。私の母がCさんの母親と親しくさせていただいていた関係でお線香をあげに訪れてくれたのだ。
「あの凄いタワーマンションに引っ越して来た人がね、町内会に入りたいって言ってきて……」前に母がそんなことを言っていたな。その娘さんがCさんなのか。
私は初対面のCさんに挨拶した。
あのタワマンは確か5,000万円。住民は医者や弁護士だらけと聞いている。
一見庶民的に見えるCさんだが、私の勘ではローンを背負っている気配が無い。何回か会えば、その人が
私は、「金持ち」と「金持ちっぽい」に関しては明確に区別していきたいのだ。そのセンサーは日々磨いている。騙されないぞ。
Cさんは……資産家だな。
Cさんは
顔見知りになったところで私はCさんに、そのとき一番気になっていたことを質問した。
「お母さん急死されたのでは、相続手続きが大変だったんじゃないですか?」
Cさんは目を見開き体をぐるっと私に向け、大きく頷いた。
なんとCさんは次の日、相続時の書類を持参して手続きの説明をしてくれたのだ。
私は耳からの情報は上滑りして、目で見ないと
メモをとりながら私はエキサイトしてしまい、年上のCさんに対しちょいちょいタメ口になってしまった。「タメ口すみません」と謝る私にCさんは笑っていた。
私が盛り上がっているときは、たいてい母は醒めている。