第15話 四十九日のお清めと銀行の手続き

文字数 1,319文字

 四十九日の法要と納骨式は合わせて1時間ほどであった。
自宅に戻ってから私と妹は、母に『御仏前(ごぶつぜん)』の香典袋を渡した。

 妹と相談して中の金額は1万円で統一してある。
母から事前に香典はいらないと言われていたが、「手ぶらで来て食べ放題」と陰で言われるかもしれないという可能性を考慮したのだ。
妹が言った。
「いらない、って言ったのに持ってきてくれた、っていうのがお母さんの中でポイント高そうじゃない?」
「確かに。そういうやり取りって昔の人好きそう」

 香典袋を渡すと母は、
「なんだい、いらないよ、お返し無いんだから」
「でも、作ったからもらってよ」
「いいよ、いいよ、次回誰かに使いなよ」

受け取らなかった。
そして母は景品らしきビニールのポーチから、海鮮ちらし寿司の支払いをしていた。
「これ香典のお金で、ここから適当に使っているんだよ」と母。

 ポーチの中を覗く。
ぱっと見、100万円くらいか。家族葬コースと返礼品、戒名代その他もろもろでトントンだな。
お焼香に来る面子(めんつ)は決まっているのだから、一般葬だったらマイナスになりそう。やはり家族葬&一日葬コースでよかった。
なにより喪主の兄は人前での挨拶なんて大嫌いだもの。(私もだけど)


 海鮮ちらし寿司を食べ終えてから、相続手続きに必要な書類をまとめた。

税理士から渡されていた大きな封筒の表面に必要書類が記載されている。順番に入れる。
・被相続人(亡父)……除籍謄本、改製原戸籍謄本、住民票(除票)
・相続人(4名)……戸籍謄本、住民票、印鑑証明書
・その他……固定資産税評価証明書、預貯金の残高証明書、葬式費用の明細書
(以上は実家のケースです)
(私は税理士が来たときに、仕事で立ち会っていない。残念)

 それが完了したら、ゆうちょ銀行の父名義口座にある150万円を母口座に入れる手続き。
・亡父の除籍謄本、改製原戸籍謄本
・相続人4名の印鑑証明書
・貯金等相続手続き請求書(名義書換請求書兼支払請求書)
代表相続人(請求人)欄に母を、以外の相続人欄に兄弟3人が署名、実印にて押印。

 兄はお腹が一杯になって眠くなったのか、「面倒くせえ」を連発した。
母を見る。男の機嫌が悪くなったとき、取り繕うのは昔から母の役割だ。
これどうやってフォローすんの?

母は書類の記入に疲れていて、兄の機嫌などどうでもいいようだった。
兄はザッと記入したあと自室に戻っていった。


「ちょっと、やだ、私の出生届け出したの、遅くない?」
妹が戸籍謄本を見て声を上げる。母が遠い目をして、
「年末で商売が忙しくてなかなか市役所に行けなくてね、見るに見かねて……」
近くに住んでいた母の実父が、妹の出生届けを出してきてくれたというのだ。

その、私からすると母方の祖父は、市役所の戸籍係で何十年も人の名前を見てきた人。そのキャリアを生かし、急遽、妹の名付けもお願いしたという。
妹は流行廃(はやりすた)りのない、なかなかセンスのいい名前なのだ。

 私の名前は、神社でもらってきた3つのうちから、消去法で決めたらしい。適当。

 そして兄の名前は、亡父が長男だからと一生懸命考えに考え練りに練って、中国の故事から引用して付けた名前。

母は兄が去ったあとをチラッと見て、おどけて呟いた。
「名前負けしちゃったかな」

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