第21話 「レイラ・セレスティア2」 【レイラ視点】
文字数 3,699文字
レイラは人探しのために、
アスフィと旅に出ることになった。
その道中ゲンじいと名乗る人物に出会った。
彼は黒曜石という鉱石でできた、
黒のショートソードをレイラにくれた。
厳密にはアスフィにあげたものだけど……。
***
アスフィはレイラに剣を渡し、
旅を続けようとしていた。
(アスフィに杖がない……! )
「ダメ、まだアスフィのがない」
「え? なにが無いって?」
「杖。ヒーラーなのに杖がない」
アスフィは杖がないのに旅を続けようとしていた。
ヒーラーに限らず魔法使いは杖が必要だ。
無くても魔法を使えるけど、あるとないとでは大違い。
アスフィは母親の杖がいいと言い出した。
正直なんでもいいじゃないかと思った。
でもアスフィに嫌われるのはなんか嫌だった。
だから何も言わなかった。
それに師匠いわく、
理由は分からないがあの杖を使うと浮気性になるらしい。
母親の杖がどうして浮気に繋がるのだろう。
「帰ろう、アスフィ。浮気はダメ」
「いやでも! 杖が-」
浮気はダメだ。
レイラの母親がいつもやっていることだから。
(でもどうしてレイラがそんなことを気にしてるんだろ……)
アスフィは諦めなかった。
そしてレイラは諦めの悪いアスフィに、
とうとう言ってしまった。
「はぁ……どこにもない」
「ねぇアスフィ、別の杖じゃダメなの? 買ってあげるよ?」
「ダメだ。母さんの杖がいいんだ」
「でももうないじゃん……諦めようよ」
「……分かった。諦めるよ」
「うん、そうしよう」
アスフィは諦めてくれた。
なんだかレイラは罪悪感を感じた。
レイラのせいでアスフィが大事に想っている母親の杖を諦めさせてしまったのだから。
どうしようかと思っていた時、
レイラの母が時々やってくれたことをアスフィにしてみた。
アスフィの頭をレイラの胸に抱き寄せたのだ。
レイラは母があまり好きでは無い。
でも、レイラが落ち込んだ時、いつもこうしてくれた。
その時間だけは落ち着くことが出来た。
「……柔らかい……」
「……」
「あいた!!」
「えっち」
(こんな事でアスフィは喜ぶんだ……でも少し恥ずかしいよ)
その後、師匠がアスフィの母親の杖を見つけたそうだ。
アスフィはすごく嬉しそうだった。
しかし、見つかった杖はもう使える代物ではなかった。
年季が入り、カビが生え、真っ二つに折れていた。
師匠も諦めろと言っていた。レイラもそう思った。
でもアスフィだけは諦めていなかった。
なんとアスフィは母親の杖を治したんだ。
レイラはびっくりした。
(あんなにボロボロになった杖を……)
アスフィは凄い。改めてそう思った。
杖の先端には緑の宝石が着いていて、
とても綺麗だった。
そして杖を手にしたアスフィとレイラは再び旅に出る。
そしてレイラにとって最悪の日が訪れる-
---
母親の杖を手に入れたアスフィとの旅は順調だった。
魔獣は居ないはずの裏道を通ったのに、
何度か魔獣と遭遇した。
その度にレイラが切り伏せた。
アスフィはダメージを負っていないのに、
戦いの旅に『ヒール』を使ってくれた。
アスフィの回復魔法はスタミナすらも回復させるとのこと。流石アスフィ……アスフィは自分の事を随分と過小評価しているけど、本当に凄いんだ。
ミスタリス王国に向かうことになったレイラ達は、
途中で野営をすることになった。
ミスタリス王国まで2日程歩くことになるからだ。
食糧にとよく分からないキノコを生で食べ、
アスフィに『ヒール』を使って貰った。
今でもトラウマレベルに不味かった。
---
夜はかなり冷えた。
途中アスフィにこんなことを聞いてみることにした。
「アスフィも女の人が好きなの?」
「もちろん大好き……ゴホンッ! 程々に好きだよ」
これは嘘だ。アスフィ嘘が下手なんだ。
「ウソツキ。この前えっちなことしたじゃん」
「し、してない! そんな嘘はやめてもらおう!」
「じゃあ、アスフィはしたくないの?」
「……したくないわけでもない」
「そうなんだ」
レイラは知っている。
大人のそういうことを。
亜人族、特にレイラ達のような獣人族は発情期を迎える。
いずれレイラにも来る。
レイラの母は年中発情期を迎えている。
だからきっとレイラもいつか迎えるのだろう。
その時、レイラの相手はアスフィになるのかな。
それが気になって聞いてみた。
アスフィの答えは……何となくわかった。
レイラはそれ以上何も言わなかった。
夜は時間が経つにつれ冷えていく。
葉っぱにくるまっていたけど、
アスフィも流石に我慢できなかったみたい。
抱き合って寝ようと提案してきた。
レイラは恥ずかしかった……けど、命に関わるし……。
それにアスフィなら問題ないそう思った。
アスフィは時々もぞもぞと動いて、
さりげなくレイラの胸に触れてきた。
(……やっぱりアスフィはえっちだ)
---
そして起きたら鎧の男たちに囲まれていた。
どうやら騎士団のようだ。
レイラ達はこの騎士団の人達にミスタリスを案内してもらうことになった。
騎士団の団長と名乗る男、ハンベル。
彼はどこかきな臭さがあった。
騎士団なのに、礼儀のようなものを一切感じない。
アスフィは何も気にせず話している。
でも、レイラはこの男をまだ信じていなかった。
しばらく歩いた。
レイラはミスタリス王国の方向を知っている。
レイラは村にいる時、良く地図を見ていた。
だから、正確な場所は分からないけど、方向くらいはわかる。
(こっちはミスタリス王国の方向じゃない……! )
「……ねぇ、おじさん達。
これほんとにミスタリス王国に向かってるの?」
「……嬢ちゃん。勘がいいねぇ」
やっぱり。レイラの直感は的中した。
この男、ハンベル含めここに居る騎士団は全員盗賊だ。
「アスフィ!! こいつら騎士団なんかじゃ-」
「-動くな。その剣を抜いたらお前の手足は切り落とす」
レイラは人質に取られてしまった。動けない。
この男ハンベル、なかなか強い。
レイラ達は騙されたんだ。この盗賊達に。
狙いはレイラだけのようだった。
ハンベルはレイラの服を、脱がしていく。
(やだ……助けてアスフィ……!! )
そう思っていると、
ハンベルはアスフィを殺すように他の盗賊達に命令した。
(……! アスフィが殺されちゃう!! )
そう思っていた-
アスフィは今まで見たことがないような顔で怒っていた。
鬼の形相。まさにそんな感じだった。
「おまえーーー!!! レイラに手を出したらどうなるか分かってんだろうなぁ!!? 殺すぞぉぉぉぉぉ」
アスフィはいつもの口調では無かった。
レイラは少し怖かった……。
アスフィのあんな顔見たことがなかったから。
激怒しているアスフィに盗賊団が近づていく。
(アスフィ! 逃げて……!!! )
アスフィは回復魔法を唱えた。
その瞬間、盗賊は目や口から血を吹き出し倒れた。
何度も回復魔法を唱えるアスフィ。
その度に次々と血を吹き出し倒れていく盗賊達。
ドス黒い『ヒール』をレイラは初めて見た。
それはハンベルも同じのようだった。
ハンベルはレイラから離れアスフィに瞬時に近づき、
アスフィの左腕を切り落とした。
「アスフィィィィィィィィ!!!!」
レイラは叫んだ。
でも、アスフィはまた回復魔法を唱えた。
次の瞬間、アスフィの左腕は何事も無かったかのように回復していた。
(……え、どうゆうこと? アスフィの腕が……治ってる? )
それにはハンベルもびっくりしたみたいだけど。
そして、ハンベルは奥の手を使った。
『身体強化(ブースト)』だ。
動きが素早くなったハンベルは、
アスフィの胴体を真っ二つに切った。
「アスフィィィィィィィィ………そんな……」
(アスフィが真っ二つに……)
レイラは何も考えられたくなり、頭が真っ白になった。
大切な人が死んだ……友達が死んだ。
レイラの目の前で。殺された。
一緒に剣術を学んでいたライバルが……目の前で死んだ。
レイラは立ち尽くしていた。
真っ二つになったアスフィを直視することが出来なかった。
「『ハイヒール』」
そう唱える者がいた。……アスフィだった。
そう唱えたアスフィの体はドス黒い光に包まれた。
その瞬間真っ二つだった体は元に戻った。
何が何だか分からなかった。
アスフィの体は黒い光に包まれ、
目の色が赤黒くなっていた。
人間には見えない……アスフィといっていいのか分からない、『それ』はハンベルに向かって、
『死を呼ぶ回復魔法(デスヒール)』
と唱えた。
その瞬間ハンベルは、
眠るかのようにその場に力なく倒れた。
そしてまた、アスフィも。
(……アスフィっ!!! )
これはレイラにとって悪夢のような日だった。
その後、レイラ達はエルザ副団長と出会うことになる。
アスフィと旅に出ることになった。
その道中ゲンじいと名乗る人物に出会った。
彼は黒曜石という鉱石でできた、
黒のショートソードをレイラにくれた。
厳密にはアスフィにあげたものだけど……。
***
アスフィはレイラに剣を渡し、
旅を続けようとしていた。
(アスフィに杖がない……! )
「ダメ、まだアスフィのがない」
「え? なにが無いって?」
「杖。ヒーラーなのに杖がない」
アスフィは杖がないのに旅を続けようとしていた。
ヒーラーに限らず魔法使いは杖が必要だ。
無くても魔法を使えるけど、あるとないとでは大違い。
アスフィは母親の杖がいいと言い出した。
正直なんでもいいじゃないかと思った。
でもアスフィに嫌われるのはなんか嫌だった。
だから何も言わなかった。
それに師匠いわく、
理由は分からないがあの杖を使うと浮気性になるらしい。
母親の杖がどうして浮気に繋がるのだろう。
「帰ろう、アスフィ。浮気はダメ」
「いやでも! 杖が-」
浮気はダメだ。
レイラの母親がいつもやっていることだから。
(でもどうしてレイラがそんなことを気にしてるんだろ……)
アスフィは諦めなかった。
そしてレイラは諦めの悪いアスフィに、
とうとう言ってしまった。
「はぁ……どこにもない」
「ねぇアスフィ、別の杖じゃダメなの? 買ってあげるよ?」
「ダメだ。母さんの杖がいいんだ」
「でももうないじゃん……諦めようよ」
「……分かった。諦めるよ」
「うん、そうしよう」
アスフィは諦めてくれた。
なんだかレイラは罪悪感を感じた。
レイラのせいでアスフィが大事に想っている母親の杖を諦めさせてしまったのだから。
どうしようかと思っていた時、
レイラの母が時々やってくれたことをアスフィにしてみた。
アスフィの頭をレイラの胸に抱き寄せたのだ。
レイラは母があまり好きでは無い。
でも、レイラが落ち込んだ時、いつもこうしてくれた。
その時間だけは落ち着くことが出来た。
「……柔らかい……」
「……」
「あいた!!」
「えっち」
(こんな事でアスフィは喜ぶんだ……でも少し恥ずかしいよ)
その後、師匠がアスフィの母親の杖を見つけたそうだ。
アスフィはすごく嬉しそうだった。
しかし、見つかった杖はもう使える代物ではなかった。
年季が入り、カビが生え、真っ二つに折れていた。
師匠も諦めろと言っていた。レイラもそう思った。
でもアスフィだけは諦めていなかった。
なんとアスフィは母親の杖を治したんだ。
レイラはびっくりした。
(あんなにボロボロになった杖を……)
アスフィは凄い。改めてそう思った。
杖の先端には緑の宝石が着いていて、
とても綺麗だった。
そして杖を手にしたアスフィとレイラは再び旅に出る。
そしてレイラにとって最悪の日が訪れる-
---
母親の杖を手に入れたアスフィとの旅は順調だった。
魔獣は居ないはずの裏道を通ったのに、
何度か魔獣と遭遇した。
その度にレイラが切り伏せた。
アスフィはダメージを負っていないのに、
戦いの旅に『ヒール』を使ってくれた。
アスフィの回復魔法はスタミナすらも回復させるとのこと。流石アスフィ……アスフィは自分の事を随分と過小評価しているけど、本当に凄いんだ。
ミスタリス王国に向かうことになったレイラ達は、
途中で野営をすることになった。
ミスタリス王国まで2日程歩くことになるからだ。
食糧にとよく分からないキノコを生で食べ、
アスフィに『ヒール』を使って貰った。
今でもトラウマレベルに不味かった。
---
夜はかなり冷えた。
途中アスフィにこんなことを聞いてみることにした。
「アスフィも女の人が好きなの?」
「もちろん大好き……ゴホンッ! 程々に好きだよ」
これは嘘だ。アスフィ嘘が下手なんだ。
「ウソツキ。この前えっちなことしたじゃん」
「し、してない! そんな嘘はやめてもらおう!」
「じゃあ、アスフィはしたくないの?」
「……したくないわけでもない」
「そうなんだ」
レイラは知っている。
大人のそういうことを。
亜人族、特にレイラ達のような獣人族は発情期を迎える。
いずれレイラにも来る。
レイラの母は年中発情期を迎えている。
だからきっとレイラもいつか迎えるのだろう。
その時、レイラの相手はアスフィになるのかな。
それが気になって聞いてみた。
アスフィの答えは……何となくわかった。
レイラはそれ以上何も言わなかった。
夜は時間が経つにつれ冷えていく。
葉っぱにくるまっていたけど、
アスフィも流石に我慢できなかったみたい。
抱き合って寝ようと提案してきた。
レイラは恥ずかしかった……けど、命に関わるし……。
それにアスフィなら問題ないそう思った。
アスフィは時々もぞもぞと動いて、
さりげなくレイラの胸に触れてきた。
(……やっぱりアスフィはえっちだ)
---
そして起きたら鎧の男たちに囲まれていた。
どうやら騎士団のようだ。
レイラ達はこの騎士団の人達にミスタリスを案内してもらうことになった。
騎士団の団長と名乗る男、ハンベル。
彼はどこかきな臭さがあった。
騎士団なのに、礼儀のようなものを一切感じない。
アスフィは何も気にせず話している。
でも、レイラはこの男をまだ信じていなかった。
しばらく歩いた。
レイラはミスタリス王国の方向を知っている。
レイラは村にいる時、良く地図を見ていた。
だから、正確な場所は分からないけど、方向くらいはわかる。
(こっちはミスタリス王国の方向じゃない……! )
「……ねぇ、おじさん達。
これほんとにミスタリス王国に向かってるの?」
「……嬢ちゃん。勘がいいねぇ」
やっぱり。レイラの直感は的中した。
この男、ハンベル含めここに居る騎士団は全員盗賊だ。
「アスフィ!! こいつら騎士団なんかじゃ-」
「-動くな。その剣を抜いたらお前の手足は切り落とす」
レイラは人質に取られてしまった。動けない。
この男ハンベル、なかなか強い。
レイラ達は騙されたんだ。この盗賊達に。
狙いはレイラだけのようだった。
ハンベルはレイラの服を、脱がしていく。
(やだ……助けてアスフィ……!! )
そう思っていると、
ハンベルはアスフィを殺すように他の盗賊達に命令した。
(……! アスフィが殺されちゃう!! )
そう思っていた-
アスフィは今まで見たことがないような顔で怒っていた。
鬼の形相。まさにそんな感じだった。
「おまえーーー!!! レイラに手を出したらどうなるか分かってんだろうなぁ!!? 殺すぞぉぉぉぉぉ」
アスフィはいつもの口調では無かった。
レイラは少し怖かった……。
アスフィのあんな顔見たことがなかったから。
激怒しているアスフィに盗賊団が近づていく。
(アスフィ! 逃げて……!!! )
アスフィは回復魔法を唱えた。
その瞬間、盗賊は目や口から血を吹き出し倒れた。
何度も回復魔法を唱えるアスフィ。
その度に次々と血を吹き出し倒れていく盗賊達。
ドス黒い『ヒール』をレイラは初めて見た。
それはハンベルも同じのようだった。
ハンベルはレイラから離れアスフィに瞬時に近づき、
アスフィの左腕を切り落とした。
「アスフィィィィィィィィ!!!!」
レイラは叫んだ。
でも、アスフィはまた回復魔法を唱えた。
次の瞬間、アスフィの左腕は何事も無かったかのように回復していた。
(……え、どうゆうこと? アスフィの腕が……治ってる? )
それにはハンベルもびっくりしたみたいだけど。
そして、ハンベルは奥の手を使った。
『身体強化(ブースト)』だ。
動きが素早くなったハンベルは、
アスフィの胴体を真っ二つに切った。
「アスフィィィィィィィィ………そんな……」
(アスフィが真っ二つに……)
レイラは何も考えられたくなり、頭が真っ白になった。
大切な人が死んだ……友達が死んだ。
レイラの目の前で。殺された。
一緒に剣術を学んでいたライバルが……目の前で死んだ。
レイラは立ち尽くしていた。
真っ二つになったアスフィを直視することが出来なかった。
「『ハイヒール』」
そう唱える者がいた。……アスフィだった。
そう唱えたアスフィの体はドス黒い光に包まれた。
その瞬間真っ二つだった体は元に戻った。
何が何だか分からなかった。
アスフィの体は黒い光に包まれ、
目の色が赤黒くなっていた。
人間には見えない……アスフィといっていいのか分からない、『それ』はハンベルに向かって、
『死を呼ぶ回復魔法(デスヒール)』
と唱えた。
その瞬間ハンベルは、
眠るかのようにその場に力なく倒れた。
そしてまた、アスフィも。
(……アスフィっ!!! )
これはレイラにとって悪夢のような日だった。
その後、レイラ達はエルザ副団長と出会うことになる。