第25話 「終末の模擬戦」

文字数 2,342文字

 彼女は言い放った。
「私は、『あらゆる魔法を扱える』才能です」
 
 俺は耳を疑った。
 本来産まれた時に発現する『祝福(さいのう)』は一つだけだ。
 それは攻撃魔法なら攻撃魔法しか使えない。
 ヒーラーは支援魔法、防御魔法、回復魔法を扱える。
 俺はヒーラーではあるが、回復魔法のみだ。
 だと言うのに彼女はその全てを扱えると言っているのだ。
 
「才能って一つじゃないんですか……?」
「一つです。だから言ったでしょう。私の才能は『あらゆる魔法を扱える』、これ一つです」
「……ってことは、攻撃も、防御も、支援も、回復も! 全部出来るってことですか?」
「そうですね」
「そんなの卑怯だ! 僕に勝ち目がないじゃないか!!」
 
 こんなの割に合わない
 こっちは攻撃出来ないというのに、相手は一方的に攻撃ができる。こんなの勝負じゃない! ただのイジメだ!
 
「だから言ったでしょう。私が勝つのは目に見えていると」
「アスフィなら勝てる……頑張って」
 
 レイラが応援している。
 正直応援されても勝てる見込みがない。
 
 だが、この生意気な女に一泡吹かせてやりたい……!
 ただちょっと可愛くて色んな魔法を使えるだけの女じゃないか! ……ムリだ。
 
「アスフィ、君は今日までなにを学んでいたのか思い出せ」
 
 エルフォードが俺に言ってきた。
 俺は今まで剣術を習ってきた。今まで握っていたのは竹刀だ。
 だが、ここに来て久しぶりに手にした母の杖。
 思い出せ。俺がやるべきこと。家を出た目的を……!
 
「すぅ……はぁ……大丈夫です」
 
 俺は深呼吸をした。そして場は静まり返る。
 
「では、始めましょう。先行はあなたに譲ります」
 
 俺は先行を譲られた。俺は回復魔法しか使えない。
 今まで握っていたのは竹刀……そして今、両の手で握っているのは母の杖。
 これは魔法の戦いだ。
 真正面から戦ってもただ一方的にやられるだけだ。
 
 しかしなぜだろう。
 おれは窮地に立たされている、
 この圧倒的不利な状況にも関わらず、負ける気がしない。
  
 ――そして戦いは幕を開ける。 
 
「『ヒール』!!」
 
 俺は自らに『ヒール』をかけスタミナを回復しながら、
 この無駄に広い道場を走り回った。
 剣術修行で得た肉体、これは無駄にならなかった。
 
「……走り回るだけですか。まあ事前に回復魔法しか使えないと聞いているので、それも仕方ないことですか……では私から攻撃させて頂きます」
 
 そう口にした彼女は詠唱を唱え出す。
 
「天から授かりしこの『祝福(ちから)』」
 
 なに……? 詠唱だと!?
 ここにきて初めて聞いた魔法の詠唱。
 たしかに母さんは詠唱を唱えなくても、魔法を使えた。
 
「ああ、嵐よ。草原を焼き付くさんとする炎(ほむら)の力よ」
 
 しかもなんか結構長い。これはまずい気がする……!
 俺の直感がそう答えている。
  
「今こそ全てを焼き払い荒れ狂え」
  
 来る……!! なんかでかいのが……!!!
  
『爆炎の嵐(ファイアーストーム)!』 
 
 その瞬間道場が熱風で満たされた。
 
 強者ってのはどいつもこいつも
 手加減を知らんのか……!! 
 
「…………は! しまった! またやってしまった……」
 
 ルクスは魔法を唱え終わった後、一人頭を抱えていた。
 
「……見知らぬ少年を殺してしまった……」
 
 ルクスは一人静かに呟く。 
 
「……だれが死んだって?」
 
「………………え」 
 
 俺は生きていた。俺は炎の嵐に直撃し全身を焼かれた。
 あんなデカいの回避出来るわけが無い。
 俺じゃなきゃ死んでいただろう。
 
 俺は一瞬死を覚悟した。
 だが俺は唱え続けた。
 
「『ハイヒール』、『ハイヒール』、『ハイヒール』……」
 
 焼かれては、回復し、焼かれては回復する……その繰り返し。
 俺は何度も炎の嵐に全身を焼かれた。
 そうして俺は立っていた。
  
「……なんで生きて……どうして」
「………何回も死んでますよ」 
 
 道場の中はまだ熱い。
 暑すぎて喉が焼けるようだ。
 
 レイラとエルフォードは道場の中は中でも俺たちとは、
 隔離された場所にいる。よって影響は無い。
 その間、レイラは俺が魔法を直撃した時『獣化』し助けに入ろうとしていたそうだ。
 エルフォードがそれを抑えていたようだが。
  
「……はぁ……ルクス……やってくれるね」
「……あなたは何者ですか……どうしてアレを喰らって生きて――」
 
 今は治癒している体だが、思い出すだけで痛い。
 皮膚がただれ落ちる感覚……はやく楽にしてくれとさえ思った。だが俺には目的がある。母さんを目覚めさせるという目的が。それを何度も思い出し、回復魔法を唱え続けた。
 
 
「……じゃあ次は僕の番だね」
「……ふぇ?」
 
 この時ルクスは酷く恐怖を覚えたそうだ。
 彼女は、無敗の魔法使い。
 魔法使い達の間では広く有名な者だった。
 それを田舎育ちの俺とレイラは知らなかった。
 
 だが無敗の記録も今日までだ-
  
「『 消失する回復魔法(ヴァ二シングヒール)』」 
 
 俺はそう唱えた。誰に教わった訳でもない。
 ただ、頭に浮かんできたその言葉を。
  
「うっ……ゔ……息が……でき……ない」
  
 喉に手をやり呼吸を求めるルクス。
  
 
「そこまでっ!!」
  
 道場にエルフォードの声が響いた。
 
「アスフィ! 君の勝ちだ……アスフィ!? 聞いているのか!?」
 
 エルフォードの声は聞こえていた。
 だが、止めることが出来なかった。
 
「……アスフィ!! もうやめて!! その人死んじゃうよ!」
 
 レイラが叫ぶ。
 
 そして魔法を止めない俺に、道場の外から見ていたエルザが割り込んできた。
 
「仕方ない……! アスフィ、君のためだ」
 
 エルザが道場に入り、俺の腹を剣の鞘で突いた。
 
「ゔっ!?」
 
 
 俺はその場に倒れた。
 
 
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登場人物紹介

・アスフィ・シーネット 主人公。

12歳 ヒューマン 戦士顔に茶髪。


{回復魔法しか使えない……。何故だ……。


・レイラ・セレスティア 

13歳。

獣人 黒髪猫耳の女の子 胸が大きい

・エルザ・スタイリッシュ 

ミスタリス王国の女王

金髪 黄色目 ヒューマン

副団長 冒険者等級 S級認定 15歳


・ルクス・セルロスフォカロ 

21歳 身長、胸共に小さい女の子。

エルザと同じくS級認定。

ただし稀に『僕っ娘』になる。白髪。赤目。


・ゼウス・マキナ

???

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