第27話 「『白い悪魔』」

文字数 2,464文字

 最近変わったことがある。
 一つは剣術修行が朝だけになった。
 俺とレイラは朝も昼も毎日剣術修行を行っていた。
 レイラは変わらず、朝も昼も剣術修行の日々だ。
 しかし、俺は違う。昼は魔法の勉強の時間になった。
 新しい魔法の先生であるルクスが来たからだ。 
 
 ルクス・セルロスフォカロ。
 
 彼女は『あらゆる魔法を扱える』という才能を持つ天才。
 
 普通、魔法を覚える為には素質だけでなく、
 才能が必要となる。だが、彼女は例外である。
 攻撃魔法だろうが、防御魔法だろうか、支援魔法だろうが……そして回復魔法ですら一人で行使可能なのだ。
 
 このあらゆる魔法を扱えること、
 そして、白髪に赤い目、黒のローブという異質な見た目から彼女は、『白い悪魔』と呼ばれていた。
  
「ルクスさん」
「……さんは入りません。ルクスで結構です」
「じゃあ、ルクス。はやく魔法教えてよ」
「……教えるのは構いませんが、アスフィは回復魔法以外扱えないのですよね?」
「まぁね。でも知識は大事って気づいたから」
「……分かりました」
 
 ルクスはしぶしぶと言った感じで教えてくれた。
 どうやら魔法には、
 
 ・初級
 ・中級
 ・上級
 ・最上級

 とあるそうだ。
 これは攻撃、防御、支援、回復全てが当てはまるものだ。
 
 俺が使っている「『ヒール』」は初級に当たるそう。
 ちなみに「『ハイヒール』」は中級のようだ。
 
「ルクスが使っていたあれはなに?」
「あれは、上級魔法です」
「あ、そうなんだ」
 
 上級魔法を回復魔法しか使えないヒーラーに使うなよ。
 俺じゃなきゃ間違いなく死んでいた。
 まぁ回復魔法しか使えないヒーラーなんて俺くらいだろうが。
 
「私が使えるのは上級魔法までです」
「え? ルクスは全ての魔法が使えるんじゃないの?」
「全てではありません。特に最上級魔法は選ばれた者しか使うことができませんから」
 
 そうなのか……俺は最上級も含めて全ての魔法を使うことができると思っていた。
 そう思わせる強さを俺は目の当たりにしたからだ。
 
「ちなみにルクスってランクいくつ?」
「ランクというと等級のことでしょうか? 私はS級です」
 
 S級!? エルザと同じじゃないか!
 いや、大体予想はついていた。
『あらゆる魔法を扱える』とかいうチートだもん。
 しかし、なぜ俺の周りはこうA級だとかS級だとか、強いやつばかりなのだろうか……?
 もっとC級とかB級とかとお友達になりたいなぁ……。
 
「……どうしました?」
「いや、なんでも! ……で実際何種類使えるの?」
「今だと全部で二十種類というところでしょうか」
「二十種類かぁ……すごいね」
 
 あれ? でも母さんって支援魔法だけで十種類使えるとか言ってなかったっけ……? あれ? もしかして俺の母さんって凄い人?
 
「凄いんですかね……私はアスフィの方がすごいと思いますが」
「僕なんて全然だよ……だって回復魔法しか使えないんだよ?」
 
「……え?」
「………え?」
 
 あれ? 俺なんか間違ったこと言った……?
 ルクスは目を丸くしていた。
 
「そう……ですか。………なるほど、エルザが言っていたのはこういう事ですか……」
 
 なにやら一人で納得しているルクス。
 俺はなにがなんだかよく分からなかった。
 
「ルクスって何歳なの?」
「私ですか?」
「うん、だって小さいし」
「……レイラ……さんが大きすぎるだけです」
 
 レイラさん、か……まだ仲直り出来てないみたいだな。
 まあそれもそうか。レイラがまだ心を開いてない感じだしな。あとなにか勘違いしていそうだなルクス……
 
「あの……身長の話だよ?」
「え? ……あ、ああ分かっていますよ? もちろん。身長ですよね、はい」
 
 絶対胸と勘違いしていただろ。
 いやそれも小さいけどさ。でもそれは仕方ないよ。
 レイラが大きすぎるだけなんだし。
 
「私は二十一になります」
「……え、大人じゃん」
 
 まさかのエルザより年上!?
 見た目俺とほぼ変わらないのに!?
 見た目と精神年齢が伴ってないエルザ……
 見た目は小さいが中身は大人のルクス……か。
 
 なんだろう二人ともギャップがすごいな。
 
「……何か言いたげですね」
「いや、別に? ……大丈夫! まだ成長するよ……たぶん」
「そう……だといいのですが……」
 
 と胸に手を当てて答えるルクス。
 多分もうそっちは無理だろう……。
 
 *** 
 
 魔法の授業は順調かのように見えた。
 レイラが来るまでは。
 
「……で、次は攻撃魔法の詠唱についてですが――」
「アスフィ! 一緒に夜ご飯食べにい……こ……なんだまだ居たんだ」
「……はい。すみません、少し長引いてしまいました。……アスフィでは、私はこれで失礼します」
 
 なんだこの空気。めちゃくちゃ修羅場なんだけど……。
 居ずらいんですけどー!
 
「……なぁ君たち、そろそろ仲直りしてくれない?」
「……アスフィを殺そうとした者を許すなんて無理だよ」
「…………との事なので」
 
 はぁ、いい加減仲直りしてくれないと困るんだよなぁ。
 レイラと魔法の話とか色々したいけど、ルクスの話題になると目に見えて機嫌悪くなるんだよなぁ。
 
「では私は失礼します。また明日」
「うん、ルクスまた明日」
 
 ルクスはそそくさと部屋から出て行った。
  
「え……?」
「……どうかした? レイラ」
「今呼び捨てだった」
「……あぁ、ルクスが〝さん〟は要らないって言うからね」
「そう……なんだ」
 
 そしてまたレイラが不機嫌になった。
 もうどうしろっていうんだよ! めんどくさいよこの関係!
 早く仲直りしてくれよ二人とも……!
 
 レイラはあの模擬戦以降、やたらと距離が近い。
 それどころか、なんだか感情が表に出てきた気がした。
 今まで人見知りで口数も決して多かったとは、
 言えなかったレイラがだんだん喋るようになってきた。
 それは嬉しいことだが、俺に対してやたらと過保護すぎる一面がある。
 
 
「ねぇアスフィ?」
「どうしたの?」
「あの女とレイラどっちが大事なの?」
  
 なんかまためんどくさい事を言い出すレイラだった。
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登場人物紹介

・アスフィ・シーネット 主人公。

12歳 ヒューマン 戦士顔に茶髪。


{回復魔法しか使えない……。何故だ……。


・レイラ・セレスティア 

13歳。

獣人 黒髪猫耳の女の子 胸が大きい

・エルザ・スタイリッシュ 

ミスタリス王国の女王

金髪 黄色目 ヒューマン

副団長 冒険者等級 S級認定 15歳


・ルクス・セルロスフォカロ 

21歳 身長、胸共に小さい女の子。

エルザと同じくS級認定。

ただし稀に『僕っ娘』になる。白髪。赤目。


・ゼウス・マキナ

???

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