第16話 「剣術修行」
文字数 3,616文字
「ねぇレイラ……いい加減機嫌直してよ」
レイラはまだ怒っていた。この部屋にはもう居ないエルザはというと……
「いやー私は王としての仕事が残っているんだった! すまないが私はこれで失礼する! では!」
とか言って逃げやがった。
場をめちゃくちゃにするだけして、
嵐のように去っていくエルザであった……。
「ねぇレイラ~」
「……分かった。もういいよ。別に怒ってない」
「え? ほんとに?」
「うん……アスフィが覗くことなんて大体想像ついていたから」
「……え」
「前も覗いていたよね」
「……え、なんで?」
「そりゃ気づくよ。いくら中から外の様子が見えなくても、声丸聞こえだったよ?」
あ、失念していた。
俺あの時ガラス曇って嘆いていたんだった。
せっかくバレないようにと、出かけるフリしたり、その後レイラが風呂から出たタイミングで帰ってきたフリしていたのに。全部バレていた。
「……あとなんかハァハァ……とか、あとちょっとぉ、とかも」
あれ? 俺そんなに声出てたのか。
俺の覗きは全てレイラにバレていたのか。
「……本当にごめんなさい」
綺麗なフォームで俺は地面に額を擦り付け土下座した。
「……アスフィもういいよ。アスフィがその……えっちなのは知ってるから……」
「レイラ……! ありがとう! じゃあもうこれからはレイラがシャワーを浴びていてもこの部屋に我が物顔で居ていいって事だよね!」
「……やっぱり反省してない。エルフォードさんに部屋変えて貰うようにレイラ言ってくる」
「そんなあああああああ」
この後レイラは本当に部屋を変えて貰うよう、
エルフォードに掛け合った。
そして次の日から部屋は変わった。
部屋は相変わらず無駄に広いが、
少なくとも風呂はガラス張りでは無くなった。
俺はそれがとてつもなく悲しかった。
……だって日々の楽しみを奪われたのだから。
「チキショーーーーーーーー!」
***
王都に来てから一週間が経った。
その間特に何も無かった。ダラダラと一日過ごす日々だ。
ワイバーンの件以降特になにもない。
強いて言うなら夜、エルザが部屋に遊びに来るくらいだ。
あの王は自由すぎる……。
王都に来た俺たちのスケジュールはこうだ。
・朝 王都を見て回る
・昼 レイラは素振り。
俺は外で『呪いの解呪』について聞き込み
・夜は王とお戯れ。
それがこの一週間に起きた出来事だ。
女王様は毎晩遊びに来る。
仕事はどうした仕事は! と言ってみたが無駄だった。
全て大丈夫で返された。
まぁもう風呂もガラス張りじゃなくなったし、
特に問題は無いんだけど。強いて言うならエルザがあの風呂に入っている所を見たかったくらいだ。
そんなこんなで平和な一週間はあっという間に過ぎた――
ある日の朝、エルザが部屋を訪ねてきた!
「やるぞ!」
とただその一言だけを残して。
……
…………
………………
俺達は道場にやってきた。
城にはこんな場所もあったのか。
すごく広く、そして周りの石壁が凄く傷だらけだ。
傷というにはあまりにも激しすぎるものだった。
「なにしたらこんなに傷だらけになるの」
「ああ、これか。これはおじいちゃんと遊んでいた時に付いたものだな」
遊んでいた、か。
あのエルザと渡り合える先代の王……エルザのおじいちゃんもとんでもないな。俺達はワイバーンの一件でエルザの強さを目の当たりにした。そのエルザが遊んでいたと言った。
「先代の王はとても強かったんだね」
「……レイラちょっと怖い」
「ハッハッハ! 心配するな! 私はそこまで鬼じゃない! もちろん手加減はするつもりだ!」
「よかったね、レイラ」
「……全然良くない」
俺は他人事だった。
「……他人事のように言っているが、君もやるんだぞアスフィ」
心を読まれた気がした。そう言えばそうだった。
おれも剣術を学ぶんだった。
この壁のダメージ具合を見て俺が出る幕じゃないと勝手に思い込んでいた。
「では早速始めよう。そこにある竹刀 を使いたまえ」
エルザは部屋の隅にある竹刀を指さした。
部屋の隅には竹刀が大量に。それも山のように積まれていた。
そしてその全てがボロボロだった。今にも壊れそうなほどに。
そのすぐ横にはもう一つつ山があった。
壊れた竹刀の山だ。こんな竹刀見た事がない。
(……あれ? 竹刀を見るのは初めてのはずなのに何故か手に馴染む)
【フフッ】
「……ねぇ、僕たちここで死なないよね?」
「死ぬならレイラも一緒だよ」
「ハッハッハ! 死にはしないさ……死にはね」
こわいこわい。レイラの目はマジだった。
俺達はボロボロになっている竹刀を手に取った。
「――では2人で私にかかってきたまえ」
そして空気は変わり、エルザの雰囲気も変わった。
それは女王ではなく、ましてやいつも夜に遊びに来るおてんばお嬢様でもない。紛れもなくミスタリス王国騎士団副団長としての、エルザ・スタイリッシュだ。
二人の唾を飲む音が石造りの道場に響いた気がした。
それほど緊張感のある静けさがあった。
「……いくぞ」
「……うん」
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
……
…………
………………
気づけば俺は天井を見ていた。
体の節々が痛い……。
「『ヒール』……」
「……ありがとアスフィ」
「……フッフッフッ……ハーーーーッハッハッハッハ」
急にエルザが大きな声で笑いだした。
笑い声が道場に響き渡る。
「いいないいなぁー! これは! ダメージを追えば何度でも『ヒール』で回復できる! まるで壊れないおもちゃのようだ!! こういうのだ! こういうのが欲しかったんだ!! 今の騎士団は生ぬるい! すぐに壊れるんだ!! でも君達ならずっと楽しめそうだぁ!」
エルザはフハハハと興奮気味で高笑いをしながら、
長々と言い放った。まるで悪の親玉のように。
「盗賊よりこえぇ……」
「レイラも怖い」
「……ふぅ、いやすまない。久しぶりに手応えのある者が来たものでね。少し興奮が抑えられなかった」
なるほど、そのボロボロの竹刀の山は騎士団達の成れの果てか。これは辞める。少なくとも俺はもう辞めたい。
はやく部屋に戻ってレイラと風呂に入りたい……
入ったことないけど。
「では、回復しただろう。再開しよう!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「ん? どうしたアスフィ」
「これ僕達死んじゃうって!」
「……うん、もうすこし手加減してほしい」
レイラも同じ意見だった。
あの瞬間エルザの竹刀は見えなかった。
気づけば俺達は天井を見ていた。痛みと共に。
「何を言っている。君は『ヒール』でダメージを回復出来るでは無いか」
「ぐっ……」
確かにもう回復した。
ダメージは残っていない。恐らく肋 は数本折れていた。
それも俺の『ヒール』で回復し今はなんともない。
だが、恐怖と痛みは刻み込まれた。
俺の『ヒール』はその時の精神的ダメージなども回復できる。
しかし、それはあくまで一時的なものに過ぎない。
今回のような、また何度も同じ痛みがくると、
そう感じるような度が過ぎたものは、後々に響いてくる。
エルザの大量の血を見て『盗賊』を思い出し、
嘔吐しかけたレイラがそうだった。
「……うむ、そうか。一応手加減したつもりだったのだがな」
あれで手加減だと?
嘘つけ絶対してないだろ!
「難しいな……ちょっと待っていてくれ」
とそう言い残し道場を出ていくエルザ。
そして暫く待っていると、何かを手に持って帰ってきた。
「これならどうだ!」
そう言ったエルザが手に持って居たのは、木の棒だった。
「これは特殊な加工をした木でな、
このように……フニフニとしていて折れないのだ! 凄いだろう!」
と、説明し両手でその木の棒をクネクネさせるエルザ。
「そんなモノがあるなら最初からそれ使ってよ!!」
「……アスフィの言う通りだよ」
「アスフィの『ヒール』があれば必要ないと思っていたのだ。……これはある騎士の要望で作られた木でな――」
と説明するエルザ。
どうやらこの木の棒には歴史があるらしい。幼少期のエルザに修行相手に、と道場でボコボコにされた騎士がその日の夜逃げ出し、それを追いかける少女エルザに恐怖を覚えたからだそうだ。
……恐るべし幼少期エルザ。
確かに逃げても追いかけられるのならこのような武器を開発してもおかしくない……か。
「――とまぁそういう経緯で作られた所謂おもちゃだ」
「その騎士不憫すぎる……おいたわしや」
「でもこれでレイラ達、怪我しなくて済みそうだね」
確かに。柔らかいのなら骨が折れることは無さそうだ。
ほらほら~とエルザが再び自慢げに柔らかさを自慢してくる。
「……よし! では再開だ!」
こうして俺達の鬼教官エルザ副団長にしごかれる日々が始まった。
レイラはまだ怒っていた。この部屋にはもう居ないエルザはというと……
「いやー私は王としての仕事が残っているんだった! すまないが私はこれで失礼する! では!」
とか言って逃げやがった。
場をめちゃくちゃにするだけして、
嵐のように去っていくエルザであった……。
「ねぇレイラ~」
「……分かった。もういいよ。別に怒ってない」
「え? ほんとに?」
「うん……アスフィが覗くことなんて大体想像ついていたから」
「……え」
「前も覗いていたよね」
「……え、なんで?」
「そりゃ気づくよ。いくら中から外の様子が見えなくても、声丸聞こえだったよ?」
あ、失念していた。
俺あの時ガラス曇って嘆いていたんだった。
せっかくバレないようにと、出かけるフリしたり、その後レイラが風呂から出たタイミングで帰ってきたフリしていたのに。全部バレていた。
「……あとなんかハァハァ……とか、あとちょっとぉ、とかも」
あれ? 俺そんなに声出てたのか。
俺の覗きは全てレイラにバレていたのか。
「……本当にごめんなさい」
綺麗なフォームで俺は地面に額を擦り付け土下座した。
「……アスフィもういいよ。アスフィがその……えっちなのは知ってるから……」
「レイラ……! ありがとう! じゃあもうこれからはレイラがシャワーを浴びていてもこの部屋に我が物顔で居ていいって事だよね!」
「……やっぱり反省してない。エルフォードさんに部屋変えて貰うようにレイラ言ってくる」
「そんなあああああああ」
この後レイラは本当に部屋を変えて貰うよう、
エルフォードに掛け合った。
そして次の日から部屋は変わった。
部屋は相変わらず無駄に広いが、
少なくとも風呂はガラス張りでは無くなった。
俺はそれがとてつもなく悲しかった。
……だって日々の楽しみを奪われたのだから。
「チキショーーーーーーーー!」
***
王都に来てから一週間が経った。
その間特に何も無かった。ダラダラと一日過ごす日々だ。
ワイバーンの件以降特になにもない。
強いて言うなら夜、エルザが部屋に遊びに来るくらいだ。
あの王は自由すぎる……。
王都に来た俺たちのスケジュールはこうだ。
・朝 王都を見て回る
・昼 レイラは素振り。
俺は外で『呪いの解呪』について聞き込み
・夜は王とお戯れ。
それがこの一週間に起きた出来事だ。
女王様は毎晩遊びに来る。
仕事はどうした仕事は! と言ってみたが無駄だった。
全て大丈夫で返された。
まぁもう風呂もガラス張りじゃなくなったし、
特に問題は無いんだけど。強いて言うならエルザがあの風呂に入っている所を見たかったくらいだ。
そんなこんなで平和な一週間はあっという間に過ぎた――
ある日の朝、エルザが部屋を訪ねてきた!
「やるぞ!」
とただその一言だけを残して。
……
…………
………………
俺達は道場にやってきた。
城にはこんな場所もあったのか。
すごく広く、そして周りの石壁が凄く傷だらけだ。
傷というにはあまりにも激しすぎるものだった。
「なにしたらこんなに傷だらけになるの」
「ああ、これか。これはおじいちゃんと遊んでいた時に付いたものだな」
遊んでいた、か。
あのエルザと渡り合える先代の王……エルザのおじいちゃんもとんでもないな。俺達はワイバーンの一件でエルザの強さを目の当たりにした。そのエルザが遊んでいたと言った。
「先代の王はとても強かったんだね」
「……レイラちょっと怖い」
「ハッハッハ! 心配するな! 私はそこまで鬼じゃない! もちろん手加減はするつもりだ!」
「よかったね、レイラ」
「……全然良くない」
俺は他人事だった。
「……他人事のように言っているが、君もやるんだぞアスフィ」
心を読まれた気がした。そう言えばそうだった。
おれも剣術を学ぶんだった。
この壁のダメージ具合を見て俺が出る幕じゃないと勝手に思い込んでいた。
「では早速始めよう。そこにある
エルザは部屋の隅にある竹刀を指さした。
部屋の隅には竹刀が大量に。それも山のように積まれていた。
そしてその全てがボロボロだった。今にも壊れそうなほどに。
そのすぐ横にはもう一つつ山があった。
壊れた竹刀の山だ。こんな竹刀見た事がない。
(……あれ? 竹刀を見るのは初めてのはずなのに何故か手に馴染む)
【フフッ】
「……ねぇ、僕たちここで死なないよね?」
「死ぬならレイラも一緒だよ」
「ハッハッハ! 死にはしないさ……死にはね」
こわいこわい。レイラの目はマジだった。
俺達はボロボロになっている竹刀を手に取った。
「――では2人で私にかかってきたまえ」
そして空気は変わり、エルザの雰囲気も変わった。
それは女王ではなく、ましてやいつも夜に遊びに来るおてんばお嬢様でもない。紛れもなくミスタリス王国騎士団副団長としての、エルザ・スタイリッシュだ。
二人の唾を飲む音が石造りの道場に響いた気がした。
それほど緊張感のある静けさがあった。
「……いくぞ」
「……うん」
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
……
…………
………………
気づけば俺は天井を見ていた。
体の節々が痛い……。
「『ヒール』……」
「……ありがとアスフィ」
「……フッフッフッ……ハーーーーッハッハッハッハ」
急にエルザが大きな声で笑いだした。
笑い声が道場に響き渡る。
「いいないいなぁー! これは! ダメージを追えば何度でも『ヒール』で回復できる! まるで壊れないおもちゃのようだ!! こういうのだ! こういうのが欲しかったんだ!! 今の騎士団は生ぬるい! すぐに壊れるんだ!! でも君達ならずっと楽しめそうだぁ!」
エルザはフハハハと興奮気味で高笑いをしながら、
長々と言い放った。まるで悪の親玉のように。
「盗賊よりこえぇ……」
「レイラも怖い」
「……ふぅ、いやすまない。久しぶりに手応えのある者が来たものでね。少し興奮が抑えられなかった」
なるほど、そのボロボロの竹刀の山は騎士団達の成れの果てか。これは辞める。少なくとも俺はもう辞めたい。
はやく部屋に戻ってレイラと風呂に入りたい……
入ったことないけど。
「では、回復しただろう。再開しよう!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「ん? どうしたアスフィ」
「これ僕達死んじゃうって!」
「……うん、もうすこし手加減してほしい」
レイラも同じ意見だった。
あの瞬間エルザの竹刀は見えなかった。
気づけば俺達は天井を見ていた。痛みと共に。
「何を言っている。君は『ヒール』でダメージを回復出来るでは無いか」
「ぐっ……」
確かにもう回復した。
ダメージは残っていない。恐らく
それも俺の『ヒール』で回復し今はなんともない。
だが、恐怖と痛みは刻み込まれた。
俺の『ヒール』はその時の精神的ダメージなども回復できる。
しかし、それはあくまで一時的なものに過ぎない。
今回のような、また何度も同じ痛みがくると、
そう感じるような度が過ぎたものは、後々に響いてくる。
エルザの大量の血を見て『盗賊』を思い出し、
嘔吐しかけたレイラがそうだった。
「……うむ、そうか。一応手加減したつもりだったのだがな」
あれで手加減だと?
嘘つけ絶対してないだろ!
「難しいな……ちょっと待っていてくれ」
とそう言い残し道場を出ていくエルザ。
そして暫く待っていると、何かを手に持って帰ってきた。
「これならどうだ!」
そう言ったエルザが手に持って居たのは、木の棒だった。
「これは特殊な加工をした木でな、
このように……フニフニとしていて折れないのだ! 凄いだろう!」
と、説明し両手でその木の棒をクネクネさせるエルザ。
「そんなモノがあるなら最初からそれ使ってよ!!」
「……アスフィの言う通りだよ」
「アスフィの『ヒール』があれば必要ないと思っていたのだ。……これはある騎士の要望で作られた木でな――」
と説明するエルザ。
どうやらこの木の棒には歴史があるらしい。幼少期のエルザに修行相手に、と道場でボコボコにされた騎士がその日の夜逃げ出し、それを追いかける少女エルザに恐怖を覚えたからだそうだ。
……恐るべし幼少期エルザ。
確かに逃げても追いかけられるのならこのような武器を開発してもおかしくない……か。
「――とまぁそういう経緯で作られた所謂おもちゃだ」
「その騎士不憫すぎる……おいたわしや」
「でもこれでレイラ達、怪我しなくて済みそうだね」
確かに。柔らかいのなら骨が折れることは無さそうだ。
ほらほら~とエルザが再び自慢げに柔らかさを自慢してくる。
「……よし! では再開だ!」
こうして俺達の鬼教官エルザ副団長にしごかれる日々が始まった。