第14話 「初めての戦い?」

文字数 4,902文字

 そして再び話はワイバーン討伐に戻る。
 ワイバーン討伐クエストへの同行。
 俺たちが部屋で休んだあとの次の日だ。
 
「ワイバーンってどんなの?」
「うむ、あいつらは群れで行動するドラゴンみたいなやつだ」
「え、ドラゴン!? それも群れ!? 大丈夫なのそれ」
 
 俺は心配になってきた。
 エルザがいくら強いとはいえ、団長であるエルザパパが居ない。
 あの人無しで大丈夫なのか……。
 クエストに向かうメンバーは、
 
 ・エルザ
 ・レイラ
 ・俺
 
 どう考えても厳しい気がする。
 おれはほとんど戦力にならない。
 レイラは強いがまだ剣の特訓はしていない。
 エルザ曰く、
『実践を見てから剣の特訓をしよう! その方が早い!』
 との事だ。
 つまり俺達はあくまで見学、同行という事だ。
 
「そういえばエルザって冒険者になってまだ浅いよね」
「うむ、一年も経っていないな」
 
 十五歳になったばかりのエルザ。
 冒険者になれるのは十五歳からだ。
 日が浅いのも当然ではある。それ故に俺は心配なのだった。
 
「このクエスト推奨ランクA級でしょ? ……僕ら戦力ならないよ?」
「心配するな! 私はS級だ!」
「「……えっ」」
 
 俺とレイラは当然驚いた。
 日が浅いのにS級!? 俺の父さんはA級……それよりも上!?
 どういうことだよ!?
 
「S級って師匠より強いよ……」
「うむ、アスフィの父か。確かA級だったか」
「うん、僕の父さんはA級だよ。冒険者歴もエルザより長い」
「……恐らくそれが私が貰った『祝福』だ。あと……お、おじいちゃんの特訓のせいかも……」
 
 エルザはおじいちゃんの話になると弱々しくなる。
 どんだけ怖いんだよ先代の王!
 しかし、『祝福(さいのう)』はこうも人の人生を変えるのか。
 どれだけ冒険者歴が長かろうと、『祝福(さいのう)』の前では意味が無いのか。
 
「それでいうとレイラ。君も相当だ。
 恐らくだが、しっかりとした実践と訓練を重ねれば、
 私と同じくらい強くなってもおかしくは無い」
「……ゃった」
「えーーーいいなぁ、僕は?」
「アスフィは……分からん! ヒーラーはそもそも役割が違う」
「ちぇ」
 
 なんだか俺だけ仲間はずれみたいだ。
 たしかにヒーラーは回復するだけだ。
 ましてや俺は支援魔法すら使えない。
 本当の意味で回復するだけしかできないヒーラー。
 
「……だがアスフィ、君は他のヒーラーを遥かに凌駕する治癒力を持つ。それは国の宝とも言える程に。故にランクなどでは測ることは出来ない」
 
 ヒーラーは評価されにくい。
 父が優秀と評価する母さんもそうだったように。
 
「今回僕達は何もしなくていいの?」
「ああ! 見ているだけで構わない!」
「……レイラも戦う」
「いや、君はまだダメだレイラ。ワイバーン個々はBランク相当。私から見るに今のレイラもBランク相当だが、ワイバーンはさっきも言った様に群れで行動する。それ故に推奨ランクはAなのだ」
 
 なるほど、レイラはもうBランク相当なのか。
 凄いな。流石うちのレイラだ。
 俺はきっとEランクが妥当ってとこか。
 もしくは最低ランクのGも有り得る。
 
 そうこうしているうちに目的地に着いた。
 
「えもしかして……飛んでるあれ全部?」
「ああ、そうだ。あれがワイバーンだ」
「……多いね」
 
 ワイバーンの数は目視出来るだけでも二十体は居た。
 Bランク相当が二十体以上……たしかに推奨ランクAなのは頷ける。
 
「では見ていてくれ」
 
 そういうとエルザは一人でワイバーンの群れがいる方へ、
 走っていった。
 
 推奨ランクとは、冒険者協会が定めているクエストの難易度を示しているもの。
 例えば推奨ランクAなら、
 Aランク者が数人いてクエストに行くことになる。
 決まりではなく、あくまで死なない為に。
 だが、ルールがない訳では無い。
『クエストに一人で行くことなかれ』
 これは冒険者協会が掲げているルールだ。
 昔、ある人物が一人でクエストに向かい死亡した事から、
 このルールが設立されたもの。
 
 つまり本来なら今回のクエストに行くことはできない。
 俺達は冒険者ですらないただの同行者なのだから。
 これは実質エルザ一人のクエスト。
 
 ただしそのルールが適用されるのはあくまでA級まで。
 S級の冒険者にはそれは適用されない。
 なぜなら――
 
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 
 強いから。
 
 ---
 
 エルザは一人でワイバーンの群れを相手にしていた。
 支援魔法は一切ない。俺が使えないから当然だ。
 だが、エルザは魔法とは違う固有の強化手段を使っている。
 
「『超身体強化(ハイブースト)』!」
 
 そう唱えた瞬間、エルザのスピードが格段に上がった。
 目で追うことが難しいほどに。いや、ほとんどのものは見ることが出来ないないだろう。おれもその一人。
 ただしレイラを除いて――
 
「レイラ見えるの?」
「……うん、ギリギリだけどね」
 
 エルザは空高くジャンプし、
 空にいるワイバーンをたたき落とした。
 まるでハエでも落とすかのように。
 
「すげぇや……」
「……だね」
 
 エルザは俺たちの想像以上に強かった。
 Sランクというのも頷ける強さだ。
 
 剣術の才能に恵まれたものは、
 時々魔法とは違う強化手段を得ることがある。
 あの盗賊のリーダーハンベルも使っていたものだ。
 ただしこれは全員が使えるものでは無い。
 才能と努力が必要不可欠。
 
 そしてエルザが使っていた『超身体強化(ハイブースト)』は、
 盗賊のリーダーが使うものとは次元が違うものだった。
 これは彼女固有の『強化技術(・・・・)』だ。
 
「ふう、いやぁ疲れたよ」
「凄いね! 本当に強かったんだエルザ」
「……うん、すごい」
「ハッハッハ! 当然さ! 私はパパ……団長より強いからな!」
 
 もうそこまで言ったんならパパでいいだろう。
 
「これで終わり?」
「ああ、全部倒した。後は帰って報告するのみだ」
「……なんかあっけなかったねアスフィ」
「そうだね、参考にならないよこれ」
「そうとは限らない、
 レイラには私の動きが追えていたようだが?」
「……うん」
 
 戦闘しながら俺達の様子を伺う余裕まであったのか。
 Sランク冒険者はここまで強いのか。
 SSの勇者辺りはどんだけバケモンなんだ……?
 
「さて! 帰ろう!」
「これって報酬でるの?」
「……出ないな!!」
「ええーなんで!?」
「……そんなの……おかしい」
「君達は戦っていないからな……」
 
 ぐうの音も出ない。
 でも一応危険なクエストに同行したのだから、
 なにかしらの報酬は欲しいとこだ。
 
「……うーん、不満そうだな。ならこうしよう。
 ワイバーンを一匹討伐してみよう!」
「ワイバーンを?」
「そうだ! 君達二人で協力してね!」
「……で、でもワイバーンはもう居ないよ」
「レイラの言う通りだよ」
「……そういうかと思ってな。1匹残しておいた」
 
 地面に転がっているワイバーンの死体の山にまだ生き残っていたものがいた。
 
「私が君たち用に叩き落としておいた一匹だ!
 あいつはもうしばらく飛ぶ力はない。だが、君たちからすれば強敵だろう」
 
 俺達が不満を言うとこまでお見通しだったのな。
 どこまでもいってもこいつはエルザ・スタイリッシュだった。
 
「レイラ、やるよ!」
「……うん、アスフィ」
 
 俺達は戦闘態勢に入る。
 ワイバーンも俺たちをターゲットと認識したようだ。
 こいつは強い。エルザがバッサバッサと簡単に斬っていたが、
 それはあくまでエルザだからだ。
 俺達はまだ冒険者ではない。
 そんな俺たちからすればワイバーンは一体と言えど強敵であるのは間違いない。
 
「レイラ、こいつBランク相当らしいけど……いける?」
「……頑張る、よ」
 
 そして――
 ワイバーンが勢いよく俺たちに向かって突進してきた。
 飛べないのになんて速さしてやがるんだ!
 
「レイラ!」
「……うん!」
 
 レイラのショートソードと、ワイバーンの爪がぶつかり合う。
 
「う、……押し返せない!!」
「頑張れレイラ!」
 
 レイラとワイバーンがぶつかり合っているのに、
 俺は応援ぐらいしか出来ない。
 回復魔法しか使えない俺は。
 
 【簡単だろ? 】
 
(全然簡単じゃねぇ……)
 
 また声だ。なんなんだ一体。
 
「どうすればいい……レイラの助けになるには……」
「アスフィよ、君はヒーラーだ。何をすべきなのかは明白だろう」
「何って、回復しか使えないんだよ」
 
 ……そうだ。回復しか使えないヒーラー。
 俺は母さんのように支援魔法を使える訳では無い。
 
「回復魔法があるじゃないか」
「回復、魔法……ハッそうか!」
 
 俺はエルザの言葉に気が付いた。自分が何をすべきかを。
 俺の『ヒール』は大体どんなものでも癒せる。
 それはダメージだけでは無い。
 
「レイラ! 頑張れ!」
「う、うん……!!」
「『ヒール』!」
 
 レイラの体が淡く光り輝く。
 
「はああああああああああああ」
 
 レイラは押され気味だったが、一気に押し返した。
 
「ギャゥゥゥゥゥ」
 
 ワイバーンを一刀両断。
 
 俺は支援魔法を使った訳では無い。
 レイラのスタミナを回復した。
 スタミナを回復したレイラと、既にエルザ戦で手負いのワイバーン。消耗戦となればレイラのスタミナを回復すればこっちの勝ちという訳だ。
 
「流石だ、君達は期待を裏切らないね! アスフィ、レイラ!」
「ま、まぁね……『ヒール』」
 
 俺は自分にヒールをかけスタミナと魔力を回復した。
 
「……アスフィ、君が『ヒール』で治せないものはなんだ?」
「うーん、なんだろう」
「……そうか。では、本当に帰るとしよう!」
 
 こうしてワイバーン討伐クエストは無事クリアした。
 初めての戦いに勝てた俺は少し嬉しかった。
 
「まぁほとんどなにもしてないけど……」
「……何言ってるの。アスフィのお陰で勝てたんだよ……ありがとう」
「レイラ……こっちこそありがとう」
「ハッハッハ! 本当に仲がいいな君達は! ……あ、そういえば、パパが君たちに相応しい部屋を用意したと言っていたが、どんな部屋だったのだ? 私も遊びに行っていいか!?」
 
 エルザよここは王室ではないのにパパと言っているぞ。
 副団長の設定はどうしたんだ。
 
「部屋? ……あ」
「……よかったよ。アスフィが大はしゃぎしてた」
「そうか! なら今度私も遊びに行くとしよう!」
 
 エルザが遊びに来る……ガラス張りの風呂……ハッ!
 俺は気づいてしまった。
 
「大歓迎だよ! エルザ!! 是非遊びに来てよ!」
「おお! そうか! そんなに歓迎してくれるとは思わなかった! では今度メイド達に隠れてお忍びで行くとしよう!」
「ああ! 是非!! あ、お風呂は入ってこないでね」
「ん? ああ! 分かった!」
「……アスフィまさか……」
「どうしたのレイラ? 早く帰ろう!」
「……うん」
 
 俺はまた新たな楽しみが増えた。早速今日の夜が楽しみだ! 今度こそレイラのレイラを! しかも今回はエルザも……!
 
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「アスフィどうしたのだ急に」
「早く帰ろう! 僕は疲れたから寝たい!」
「君は『ヒール』で回復できるじゃないか」
 
 そんな正論聞きたくない。
 
「……もう『ヒール』じゃ治せないくらい疲れたんだ!」
「早速君に治せないものが判明したな! ならパトリシアを呼ぼう」
「……また乗れるの?」
 
 どうやらレイラはパトリシアが気に入ったようだ。
 たしかにあの白馬は乗り心地がいい。
 ……あれ? でもパトリシアに乗って来てないよね今回。
 どうやって? と聞く前にエルザが大声を上げた。
 
「パーーーーーートリーーーーシアーーーーーーーーー」
 
 まさかの原始的な呼び方!!
 そんなんで来るわけ……と思って五分ほど待っていたら――
 白い白馬が走ってきた。
 
「え、そんなんでくるの?」
「パトリシアは私の相棒だ! 私いる所にパトリシア、アリだ!」
「すごい……」
 
 レイラは感心し、パトリシアを撫でていた。
 
「では帰るとしよう!」
「よし帰ろう! 今すぐ帰ろう!」
「……うん!」
 
 それぞれが違う思惑で大はしゃぎし、
 白馬でミスタリス王国に帰ることになった。
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登場人物紹介

・アスフィ・シーネット 主人公。

12歳 ヒューマン 戦士顔に茶髪。


{回復魔法しか使えない……。何故だ……。


・レイラ・セレスティア 

13歳。

獣人 黒髪猫耳の女の子 胸が大きい

・エルザ・スタイリッシュ 

ミスタリス王国の女王

金髪 黄色目 ヒューマン

副団長 冒険者等級 S級認定 15歳


・ルクス・セルロスフォカロ 

21歳 身長、胸共に小さい女の子。

エルザと同じくS級認定。

ただし稀に『僕っ娘』になる。白髪。赤目。


・ゼウス・マキナ

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