第42話「覚醒」
文字数 4,432文字
レイラが死んだという報せ。
そしてエルザが救援を求めている。
向こうでは、俺たちが離れたあと一体何があったんだ。
手紙に書いてあった『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』という名前。キャルロットが言っていた名前だ。
俺は信じられなかった。俺たちがミスタリスから離れてまだ二週間程しか経っていない。
「……ルクス。俺は戻る」
「アスフィ、今から行っても……」
「そんなことはどうでもいいっ!!!!」
「ごめん、なさい……」
「……落ち着きたまえアスフィ殿。ルクス殿に当たっても仕方なかろう」
落ち着けだと? これが落ち着いていられるか!
大事なレイラが死んだんだぞ……?
大切な家族同然の彼女を……俺は喧嘩別れで……。
俺がそばにいてやればこんなことにはならなかったかもしれない。全て俺のせいだ。俺の責任だ。
「アスフィ殿。では、僕が連れていこうじゃないか」
「……なに?」
「僕なら君を一日でミスタリスへ連れていくことができる」
「王子キャルロット! それは不可能かと! 私たちはミスタリスを離れ一週間歩き、そこからエルフの森からフォレスティアまで三日かかりました。それを一日!? 無茶です!」
ルクスはキャルロットに発言する。
しかしキャルロットはチッチッチと指を振る。
「それは君たちだからだ、ルクス殿。僕を誰だと思っている。僕はこの国フォレスティアの王、キャルロット・アルトリウスだ。この森に一番詳しいのは僕であり、この大陸で一番速く移動できるのも僕。つまり」
キャルロットは続けた。
「――僕だから出来る『技 』だよ」
キャルロットは自慢げに言う。
「……本当にいけるのか?」
「もちろん。しかし、そうなると今から出ることになる。覚悟はいいかい?」
「……ああ、もちろんだ。早く行こう」
「分かった。アスフィ殿、ルクス殿、石門の前で待ち合わせだ。直ぐに合流する」
そうしてキャルロットは準備をすると言い王室を後にした。
残された俺達も王室を出ることにする。
「……アスフィ」
「……分かってる。大丈夫だ…………今はな」
ルクスは怒りで震える俺の手を握る。
全て俺が悪い……。レイラを殺した、
『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』とかいうやつらを、
俺は絶対に許しはしない。エルザはあれでも強い。まだやられてはいないだろう。一刻も早くミスタリスに向かわなければ……あのエルザが救援を求めるということはそれ程の事態だということだ。
俺たちは王室を後にし、合流地点である石門に向かった。
「やぁ、待っていたよ。では行こうか」
既にキャルロットが待機していた。
なんて仕事の速さだ。まだ五分くらいしか経っていない。
しかもキャルロットの横には大きな虎がいる。
「……これは?」
「この子達は『虎車』と言ってね。君たちヒューマンの馬車のようなものだ。馬車よりも力強く、速いのさ」
キャルロットはそう自慢げにいいながら、虎の頭を撫でていた。
「キャルロット様なぜここに!?」
という声が街のあちらこちらで聞こえてくる。
王が直々に外出するのだ。当たり前の反応だろう。
そんな民達に向かって、王は――
「やぁ君たちーーーー! 僕は少しここを離れる。なに、要件を済ませたら直ぐに戻ってくる。僕のいない間、君たちにフォレスティアを任せるよーーー!」
といい、キャルロットは片手をあげる。
すると、獣人達は歓声を上げる。
「分かりましたー!」「任せてくださいっ!」
など様々な声が聞こえてくる。
流石は王だ。そういえばエルザも騒がれていたか……。
王というのも苦労しそうだ。
「では、いこう!」
「待ってくれ! コレイとコルネがいない!」
俺たちを案内してくれた彼女達はどこへ……
「――私達はここにいます、客人」
「姉様の言う通りここにおります、客人」
お前たちは行かないのか? というと、彼女たちは――
「私たちが行っても足でまといになりますので。どうかお気をつけて、客人」
「いってらっしゃいませ、客人」
俺とルクスはコレイとコルネに頭を下げた。
ありがとうと。ただ一言。彼女達には世話になった。
彼女達が居なければ、フォレスティアに来ることは出来なかっただろう。
「……もういいかい」
「ああ、頼む」
「お願いします」
俺とルクスはキャルロットの用意した『虎車』に乗った。
そしてフォレスティアの門が開く。
「いけ!」
ただそれだけを発したキャルロット。
その瞬間『虎車』は勢いよく走り出す。
振り落とされれば死ぬかもしれない。そんな速さだ。
だが、この速さで順調に進めば確かに一日で着くというのも頷ける。
***
俺達は来た道の森を走る。道中もちろん魔獣が出る。
だが、先頭を走るキャルロットが見えない太刀筋でそれらを斬り伏せ、道を開いてくれる。
まるで何も居なかったかのように魔獣は切り刻まれる。
やはりこの王子……只者じゃなかった。
エルザと同等かそれ以上かもしれない。俺とルクスはそう思った。
「……厄介なものが出たね」
と、虎の足を止めるキャルロット。
後ろを走っていた俺達も同じく足を止める。
『(銀色の熊シルバーベア)』だ。
物理攻撃が効かない魔獣。流石のキャルロットもキツいか。
仕方ないここは俺の出番だ。
「俺がやる」
「『死を呼ぶ回復魔法(デスヒール)』」
『(銀色の熊シルバーベア)』は静かに倒れた
「……流石だよアスフィ殿、頼もしいね。……しかし、なぜコイツがここにいるんだ? 僕はこの森に一番詳しいが、ここでコイツを見たのは初めてだ」
不思議そうな顔をするキャルロット。
「……っといけない、先を急ごう! 行けっ!!!」
虎は再び走り出す。
それから暫く同じような出来事が起きた。
キャルロットが道を切り開き、『(銀色の熊シルバーベア)』が出たら俺が対処する。ルクスは黙って着いてくる。
そんな状況を察したのかルクスが口を開いた。
「何も出来ず、すみません」
「何をいってるのさ、ルクス殿。これは僕達が適任だっただけの事。それぞれ役割があるのさ。君はミスタリスに着いた時の為に力を温存しておきたまえ。恐らく激しい戦いになる」
「そうだよルクス。ルクスが気に病むことは無い」
「……分かりました。力を温存しておきます」
こうして三日かけやってきた森を、
俺達は僅か一時間足らずで森を抜けエルフの村に着いた。
エルフの村の石門を開けるキャルロット。
門を開けるとそこには村長が立っていた。
村長は無言で頷いた。それに対しキャルロットも頷く。
恐らくもう話は済んでいるのだろう。使い鳥で。
流石はキャルロット、やること全ての手際がいい。
俺とルクスは虎に乗ったまま村長に礼をする。
村長もまたそれに返す。俺を見る村長の目は来た時とは違った。そして村長は俺に口を開いた。
「………無事でな」
「……ありがとう」
そして俺たちはエルフの森を後にした。
エルフの村を出た後、門番のトレイに出会った。
「……話は聞いております。こちらです」
とトレイが立っていた。
俺達はまたしても虎に乗ったまま会釈する。
トレイもまた、
「……ご無事で」
とただ一言。
「……ああ」
俺もまた一言で返す。
俺達は長い付き合いじゃない。
なんなら殺されかけた仲で、恐怖された仲だ。
そんな俺達だが、今だけは「友」であった。
ついに森を完全に抜けた。
ここまでで約二時間。早すぎる。
俺達が三日かけたところだ。
そしてここでキャルロットが口を開く。
「ここからは少し長くなるぞ」
「……どれくらいかかりそうだ?」
日が昇っていた。現在の時刻は、
時間にして朝の十時といったところだ。
「そうだね、到着は夜になるだろう」
「分かった。できる限り早めで頼む」
「お願いします、王子キャルロット」
もちろんだ! とキャルロットは虎を走らせる。
俺達はその後へと続く。
……
…………
………………
俺達がミスタリスを出て、
徒歩で一週間かけたところからのスタート。
ついに見えてきたミスタリス王国。
現在、時刻にして夜の八時と言った所だ。だというのにミスタリス王国が明るい。
「……ああ、なんてことでしょうか」
「………思っていたより最悪な状況だね」
「……レイラ………くそっ」
それぞれが口にする。それも無理は無い。
ミスタリス王国の灯り。それは賑わっているからではない。
それは炎だった。炎がミスタリス王国を明るく照らす。
そして俺達は到着した。
門は開かれたままだった。門番の二人は頭がない。
頭があったとされる体には惨たらしく大量の矢が刺さっていた。矢を放ち、隙ができた所で首を落とした……といったところか。
「………いこう」
「ああ」
「はい」
開いた門の中へと入る。それは地獄のような光景だった。
住民の悲鳴すら聞こえない。
その住民たちは、入口の門番と同じく、矢を刺され死んだ者、首を落とされた者、背中にナイフを刺された子供まで。
奇襲を受けたようなその惨劇から俺たちは怒りに満ち溢れた。手紙にあった通り、本当に突然だったんだろう。
キャルロットもルクスも体が震えていた。もちろん俺もだ。
城へと向かう。
その道端には黒いフードを被った者や住民の死体があった。
戦ったような形跡もある。抵抗したのだろう。
だが、ここの住民は戦えない。殆どが商人達だからだ。
戦いのプロに素人が勝てるわけが無い。
そして俺達は城の前で大量の血痕を見つけた。
血はあるのに遺体がない。
「……」
俺は走った。
その血痕の後を辿った。
その血痕は見覚えのある道へと繋がっている。
ひたすら走る。何度も転びそうになりながら、必死に走る。
――そしてその血痕の主を見つけた。
「……はぁ……はぁ……………レイラ」
レイラは安らかに眠っていた。
大量の血をベッドに流しながら。
「あ……ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「落ち着いてください! アスフィ!!!! 壊れてしまうにはまだ早いです!!」
ルクスは頭を抱え嘆く俺を後ろから抱きしめる。
レイラ……レイラレイラレイラ……
おれはまだ仲直りしていない。
こんな形で別れるなんてやだよ。どうしてレイラ……
「殺す」
「アスフィ……?」
「殺してやる。絶対に殺す。確実に殺す」
俺は怒りの感情に支配される。
俺の周りからは黒い瘴気が漂っていた。
目は赤黒くなり、髪は母さん譲りの茶から白髪へと変わり、また身長も高くなる。
「………アスフィ……なん……ですか?」
「……ああ、俺だよルクス。ちょっと待っててくれ。すぐ片付けてくる」
俺はルクスの手を解き、部屋を後にした。
「………許さん」
そしてエルザが救援を求めている。
向こうでは、俺たちが離れたあと一体何があったんだ。
手紙に書いてあった『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』という名前。キャルロットが言っていた名前だ。
俺は信じられなかった。俺たちがミスタリスから離れてまだ二週間程しか経っていない。
「……ルクス。俺は戻る」
「アスフィ、今から行っても……」
「そんなことはどうでもいいっ!!!!」
「ごめん、なさい……」
「……落ち着きたまえアスフィ殿。ルクス殿に当たっても仕方なかろう」
落ち着けだと? これが落ち着いていられるか!
大事なレイラが死んだんだぞ……?
大切な家族同然の彼女を……俺は喧嘩別れで……。
俺がそばにいてやればこんなことにはならなかったかもしれない。全て俺のせいだ。俺の責任だ。
「アスフィ殿。では、僕が連れていこうじゃないか」
「……なに?」
「僕なら君を一日でミスタリスへ連れていくことができる」
「王子キャルロット! それは不可能かと! 私たちはミスタリスを離れ一週間歩き、そこからエルフの森からフォレスティアまで三日かかりました。それを一日!? 無茶です!」
ルクスはキャルロットに発言する。
しかしキャルロットはチッチッチと指を振る。
「それは君たちだからだ、ルクス殿。僕を誰だと思っている。僕はこの国フォレスティアの王、キャルロット・アルトリウスだ。この森に一番詳しいのは僕であり、この大陸で一番速く移動できるのも僕。つまり」
キャルロットは続けた。
「――僕だから出来る『
キャルロットは自慢げに言う。
「……本当にいけるのか?」
「もちろん。しかし、そうなると今から出ることになる。覚悟はいいかい?」
「……ああ、もちろんだ。早く行こう」
「分かった。アスフィ殿、ルクス殿、石門の前で待ち合わせだ。直ぐに合流する」
そうしてキャルロットは準備をすると言い王室を後にした。
残された俺達も王室を出ることにする。
「……アスフィ」
「……分かってる。大丈夫だ…………今はな」
ルクスは怒りで震える俺の手を握る。
全て俺が悪い……。レイラを殺した、
『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』とかいうやつらを、
俺は絶対に許しはしない。エルザはあれでも強い。まだやられてはいないだろう。一刻も早くミスタリスに向かわなければ……あのエルザが救援を求めるということはそれ程の事態だということだ。
俺たちは王室を後にし、合流地点である石門に向かった。
「やぁ、待っていたよ。では行こうか」
既にキャルロットが待機していた。
なんて仕事の速さだ。まだ五分くらいしか経っていない。
しかもキャルロットの横には大きな虎がいる。
「……これは?」
「この子達は『虎車』と言ってね。君たちヒューマンの馬車のようなものだ。馬車よりも力強く、速いのさ」
キャルロットはそう自慢げにいいながら、虎の頭を撫でていた。
「キャルロット様なぜここに!?」
という声が街のあちらこちらで聞こえてくる。
王が直々に外出するのだ。当たり前の反応だろう。
そんな民達に向かって、王は――
「やぁ君たちーーーー! 僕は少しここを離れる。なに、要件を済ませたら直ぐに戻ってくる。僕のいない間、君たちにフォレスティアを任せるよーーー!」
といい、キャルロットは片手をあげる。
すると、獣人達は歓声を上げる。
「分かりましたー!」「任せてくださいっ!」
など様々な声が聞こえてくる。
流石は王だ。そういえばエルザも騒がれていたか……。
王というのも苦労しそうだ。
「では、いこう!」
「待ってくれ! コレイとコルネがいない!」
俺たちを案内してくれた彼女達はどこへ……
「――私達はここにいます、客人」
「姉様の言う通りここにおります、客人」
お前たちは行かないのか? というと、彼女たちは――
「私たちが行っても足でまといになりますので。どうかお気をつけて、客人」
「いってらっしゃいませ、客人」
俺とルクスはコレイとコルネに頭を下げた。
ありがとうと。ただ一言。彼女達には世話になった。
彼女達が居なければ、フォレスティアに来ることは出来なかっただろう。
「……もういいかい」
「ああ、頼む」
「お願いします」
俺とルクスはキャルロットの用意した『虎車』に乗った。
そしてフォレスティアの門が開く。
「いけ!」
ただそれだけを発したキャルロット。
その瞬間『虎車』は勢いよく走り出す。
振り落とされれば死ぬかもしれない。そんな速さだ。
だが、この速さで順調に進めば確かに一日で着くというのも頷ける。
***
俺達は来た道の森を走る。道中もちろん魔獣が出る。
だが、先頭を走るキャルロットが見えない太刀筋でそれらを斬り伏せ、道を開いてくれる。
まるで何も居なかったかのように魔獣は切り刻まれる。
やはりこの王子……只者じゃなかった。
エルザと同等かそれ以上かもしれない。俺とルクスはそう思った。
「……厄介なものが出たね」
と、虎の足を止めるキャルロット。
後ろを走っていた俺達も同じく足を止める。
『(銀色の熊シルバーベア)』だ。
物理攻撃が効かない魔獣。流石のキャルロットもキツいか。
仕方ないここは俺の出番だ。
「俺がやる」
「『死を呼ぶ回復魔法(デスヒール)』」
『(銀色の熊シルバーベア)』は静かに倒れた
「……流石だよアスフィ殿、頼もしいね。……しかし、なぜコイツがここにいるんだ? 僕はこの森に一番詳しいが、ここでコイツを見たのは初めてだ」
不思議そうな顔をするキャルロット。
「……っといけない、先を急ごう! 行けっ!!!」
虎は再び走り出す。
それから暫く同じような出来事が起きた。
キャルロットが道を切り開き、『(銀色の熊シルバーベア)』が出たら俺が対処する。ルクスは黙って着いてくる。
そんな状況を察したのかルクスが口を開いた。
「何も出来ず、すみません」
「何をいってるのさ、ルクス殿。これは僕達が適任だっただけの事。それぞれ役割があるのさ。君はミスタリスに着いた時の為に力を温存しておきたまえ。恐らく激しい戦いになる」
「そうだよルクス。ルクスが気に病むことは無い」
「……分かりました。力を温存しておきます」
こうして三日かけやってきた森を、
俺達は僅か一時間足らずで森を抜けエルフの村に着いた。
エルフの村の石門を開けるキャルロット。
門を開けるとそこには村長が立っていた。
村長は無言で頷いた。それに対しキャルロットも頷く。
恐らくもう話は済んでいるのだろう。使い鳥で。
流石はキャルロット、やること全ての手際がいい。
俺とルクスは虎に乗ったまま村長に礼をする。
村長もまたそれに返す。俺を見る村長の目は来た時とは違った。そして村長は俺に口を開いた。
「………無事でな」
「……ありがとう」
そして俺たちはエルフの森を後にした。
エルフの村を出た後、門番のトレイに出会った。
「……話は聞いております。こちらです」
とトレイが立っていた。
俺達はまたしても虎に乗ったまま会釈する。
トレイもまた、
「……ご無事で」
とただ一言。
「……ああ」
俺もまた一言で返す。
俺達は長い付き合いじゃない。
なんなら殺されかけた仲で、恐怖された仲だ。
そんな俺達だが、今だけは「友」であった。
ついに森を完全に抜けた。
ここまでで約二時間。早すぎる。
俺達が三日かけたところだ。
そしてここでキャルロットが口を開く。
「ここからは少し長くなるぞ」
「……どれくらいかかりそうだ?」
日が昇っていた。現在の時刻は、
時間にして朝の十時といったところだ。
「そうだね、到着は夜になるだろう」
「分かった。できる限り早めで頼む」
「お願いします、王子キャルロット」
もちろんだ! とキャルロットは虎を走らせる。
俺達はその後へと続く。
……
…………
………………
俺達がミスタリスを出て、
徒歩で一週間かけたところからのスタート。
ついに見えてきたミスタリス王国。
現在、時刻にして夜の八時と言った所だ。だというのにミスタリス王国が明るい。
「……ああ、なんてことでしょうか」
「………思っていたより最悪な状況だね」
「……レイラ………くそっ」
それぞれが口にする。それも無理は無い。
ミスタリス王国の灯り。それは賑わっているからではない。
それは炎だった。炎がミスタリス王国を明るく照らす。
そして俺達は到着した。
門は開かれたままだった。門番の二人は頭がない。
頭があったとされる体には惨たらしく大量の矢が刺さっていた。矢を放ち、隙ができた所で首を落とした……といったところか。
「………いこう」
「ああ」
「はい」
開いた門の中へと入る。それは地獄のような光景だった。
住民の悲鳴すら聞こえない。
その住民たちは、入口の門番と同じく、矢を刺され死んだ者、首を落とされた者、背中にナイフを刺された子供まで。
奇襲を受けたようなその惨劇から俺たちは怒りに満ち溢れた。手紙にあった通り、本当に突然だったんだろう。
キャルロットもルクスも体が震えていた。もちろん俺もだ。
城へと向かう。
その道端には黒いフードを被った者や住民の死体があった。
戦ったような形跡もある。抵抗したのだろう。
だが、ここの住民は戦えない。殆どが商人達だからだ。
戦いのプロに素人が勝てるわけが無い。
そして俺達は城の前で大量の血痕を見つけた。
血はあるのに遺体がない。
「……」
俺は走った。
その血痕の後を辿った。
その血痕は見覚えのある道へと繋がっている。
ひたすら走る。何度も転びそうになりながら、必死に走る。
――そしてその血痕の主を見つけた。
「……はぁ……はぁ……………レイラ」
レイラは安らかに眠っていた。
大量の血をベッドに流しながら。
「あ……ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「落ち着いてください! アスフィ!!!! 壊れてしまうにはまだ早いです!!」
ルクスは頭を抱え嘆く俺を後ろから抱きしめる。
レイラ……レイラレイラレイラ……
おれはまだ仲直りしていない。
こんな形で別れるなんてやだよ。どうしてレイラ……
「殺す」
「アスフィ……?」
「殺してやる。絶対に殺す。確実に殺す」
俺は怒りの感情に支配される。
俺の周りからは黒い瘴気が漂っていた。
目は赤黒くなり、髪は母さん譲りの茶から白髪へと変わり、また身長も高くなる。
「………アスフィ……なん……ですか?」
「……ああ、俺だよルクス。ちょっと待っててくれ。すぐ片付けてくる」
俺はルクスの手を解き、部屋を後にした。
「………許さん」