第29話「おめでとう」
文字数 2,959文字
次の日の朝。
いつものように朝食を食べに部屋を出ると、扉の前にエルザ親子がいた。
「おめでとうアスフィ」
「おめでとう! アスフィ!!」
ドアを開けると手をパチパチと叩きながら、親子揃って祝福してきた。それもエルザに至っては、付け髭なんか付けている。アンタら一体いつから居たんだ……。 まさかずっとドアに聞き耳立てていたんじゃないだろうな。相変わらずよく似ている親子だ。
……
…………
………………
朝食中、エルザ親子はずっとニヤニヤしていた。
めちゃくちゃ腹が立つ顔だ。すごく殴りたい……。
だが、仮にも女王とその父親だ。
殴ったら俺の首がとびそうなのでグッとこらえる。
「あ、あの――」
「どうしたんだい? アスフィ」
「食べにくいのであんまりそのニヤケヅラで見ないで貰えますか?」
「……いやぁ、だって……ねぇ?」
「ねぇ~? パパ」
うっぜーーーーーー!! 本当にこの親子腹が立つ。
一発殴ってやろうか。と後ろを見ると、メイドが微笑ましい顔でこっちを見ていた。どうやら俺とレイラのやりとりは全部筒抜けだったらしい。城中に響き渡る声で叫んでいたんだ。筒抜けなのも仕方ない。
もうヤダ……城に居ずらい。その間レイラはというと……
「アスフィ、口汚れてるよ」
「あ、ああ……ありがと」
レイラがハンカチで口元を吹いてくれた。
あれ……俺汚れていた? 食べ方にだけは気をつけなさいと母さんからキツく言われていたから気を付けていたんだけど。
そしてまた親子がニヤニヤしている。こいつら……。
レイラは距離がかなり近い。もはやくっつきそうな勢いだ。
嫌では無いがずっとこれだと流石に周りに見られた時に恥ずかしい……。まあ既に城の人間には周知の事実だが。
「ねぇ、レイラ?」
「なに? アスフィ」
「もう少しだけ離れてくれない?」
「アスフィはレイラが嫌いなの?」
「そんなことはないよ? ……でもほら、あの親子の顔を見てごらんよ。今にも殴りたくなる顔をしているだろ? だから――」
「レイラは気にしてないよ」
「……僕が気にするんだよ……」
レイラはアスフィが言うなら仕方ないと離れてくれた。
さて、これからどうしようか……。城には居ずらいなぁ。
***
朝食を終えると剣術だ。今日の師範はエルザだった。
あの食べにくい朝食のときに発表されたのだ。
『じゃじゃーん! 今日は私が師範だ! 嬉しいだろう!』
と。もちろん全然嬉しくなどなかった。
剣術のときもニヤニヤしてんだろうなぁ。
「どうしたレイラ! もっと私を楽しませろ!」
「うるさい! 今やってる!!」
「ハッハッハ! アスフィ! 君も回復したのならかかってこい!」
全然ニヤニヤなどしていなかった。
それどころかいつもの鬼副団長であった。
エルザは切り替えが出来るやつだった……。
……
…………
………………
そして昼。ルクスとの魔法勉強会の時間だ。
いつも俺の部屋で行っている。厳密には俺とレイラの部屋だが。
部屋に向かうと既にルクスが部屋で待っていた。
なんで俺のベッドの上で寝転がってるの……?
「……あ、帰ってきましたか。では始めましょう」
「う、うん」
「それと……お、おめでとうございます」
ルクスにも情報が流れていた。あの親子の仕業だろう。
いつかきっと仕返ししてやる……今は負けるからやらないけどな!
そうして魔法のお勉強が始まった。
今回は詠唱についてのお勉強だ。ルクス曰く詠唱は正直なんでもいいとの事。大事なのは込める魔力と集中力だそうだ。
「ってことはルクスのあの長い詠唱は自分で考えたの?」
「いえ、違います。あれは『ある人』が使っていたのを真似ただけです。自分で考えるのは苦手なので」
ある人、か。気になるな。ルクスの師匠かなんかだろうか。
俺は聞いてみることにした。
「その『ある人』って?」
「言っても分からないと思いますよ?」
「うんいいよ」
「名は、レイモンド・セレスティア。勇者のメンバーです」
セレスティア? レイラと同じ名前じゃないか……!
なにかレイラと関係する人なんだろうか?
「レイラと同じ名前だね」
「レイラ……さんは確か……」
「レイラ・セレスティアだよ」
「え!?」
ルクスは驚いた顔だ。そして俺に聞いてきた。
「レイラ……さんに父親はいますか?」
「え? ああ、うん居るよ。ほとんど家に居なかったみたいだけどね」
「ああ、そんな。私はなんてことを……」
「……どうしたの?」
俺がそう聞くと、ルクスは俺の両肩に手を置き――
「よく聞いてください……恐らくレイラ……さんの父親は勇者のメンバーです」
「……ええ!??」
ルクスは衝撃の爆弾を投下した。
レイラの父親が勇者のメンバー!?
「レイモンドさんはよく言っていました。『俺には娘がいる。だが、今は帰ることが出来ない』」と。
ってことはレイラの父親の確率高いじゃん!
どうしよう……これってレイラに言った方がいいのかな。
「いいですかアスフィ、この事はレイラ……さんには内緒です」
「な、何で?」
「自分を放ったらかしにしていた父親が、勇者のメンバーだなんて聞いてもレイラさんは嬉しくないと思います」
「でも、知っておいた方が良くない? 後々知ることになるより今知っておく方がさ」
「……私はレイラ……さんとは仲が良くありませんので、その点はアスフィに任せます。ただ、私が言っていたとは言わない方が吉です。せっかく仲良くなったのに私の名前を出すとまた喧嘩をすることになるでしょう」
確かに……ただそれをルクス本人の口から言わせてしまうのは少し心が痛むな。
「分かったよ。考えておくよ」
「はい、お願いします。……では続けましょう」
***
「で、では私はこれで。遅くなると怒られてしまいますので」
「う、うん。ありがとうルクス。いつも悪いね」
「いえ。では失礼します」
そう言ってルクスは部屋をそそくさと出ていった。
いつも気を遣わせてしまって申し訳ないなぁ。
あの二人早く仲直りしてくれないかなー。そういえば、ルクスはどこに泊まっているのだろう。
少し気になった。
……
…………
………………
しばらくしてもレイラは全然帰ってこない。
恐らく剣術の特訓が長引いているのだろう。最近、よくあることだ。俺は時間もあるのでルクスがどこに泊まっているのか、エルフォードに聞いてみることにした。
俺はエルフォードがいつも入り浸っている城の書庫に向かった。
「ん? ルクスか? ルクスなら君たちのすぐ隣の部屋だが?」
「…………え?」
いやすぐ隣だったのかよ!! はっ!! ま、まさか……そうか……だから知っていたのか……だからおめでとうございますだったのか!?
俺はルクスを問い詰めることにした。
「……まさか本当にすぐ隣の部屋だったとは」
ご丁寧にドアに『セルロスフォカロ様』と書いてあった。
いつもルクスと呼んでいたからフルネームを忘れていた。
「長いし覚えづらい!」
俺はコンコンとノックをした。
「はい? どうぞ」
「………ど、どうも」
「……どうしました? アスフィ」
俺はルクスと魔法の勉強以外で、
初めて二人っきりで話すことになった。
いつものように朝食を食べに部屋を出ると、扉の前にエルザ親子がいた。
「おめでとうアスフィ」
「おめでとう! アスフィ!!」
ドアを開けると手をパチパチと叩きながら、親子揃って祝福してきた。それもエルザに至っては、付け髭なんか付けている。アンタら一体いつから居たんだ……。 まさかずっとドアに聞き耳立てていたんじゃないだろうな。相変わらずよく似ている親子だ。
……
…………
………………
朝食中、エルザ親子はずっとニヤニヤしていた。
めちゃくちゃ腹が立つ顔だ。すごく殴りたい……。
だが、仮にも女王とその父親だ。
殴ったら俺の首がとびそうなのでグッとこらえる。
「あ、あの――」
「どうしたんだい? アスフィ」
「食べにくいのであんまりそのニヤケヅラで見ないで貰えますか?」
「……いやぁ、だって……ねぇ?」
「ねぇ~? パパ」
うっぜーーーーーー!! 本当にこの親子腹が立つ。
一発殴ってやろうか。と後ろを見ると、メイドが微笑ましい顔でこっちを見ていた。どうやら俺とレイラのやりとりは全部筒抜けだったらしい。城中に響き渡る声で叫んでいたんだ。筒抜けなのも仕方ない。
もうヤダ……城に居ずらい。その間レイラはというと……
「アスフィ、口汚れてるよ」
「あ、ああ……ありがと」
レイラがハンカチで口元を吹いてくれた。
あれ……俺汚れていた? 食べ方にだけは気をつけなさいと母さんからキツく言われていたから気を付けていたんだけど。
そしてまた親子がニヤニヤしている。こいつら……。
レイラは距離がかなり近い。もはやくっつきそうな勢いだ。
嫌では無いがずっとこれだと流石に周りに見られた時に恥ずかしい……。まあ既に城の人間には周知の事実だが。
「ねぇ、レイラ?」
「なに? アスフィ」
「もう少しだけ離れてくれない?」
「アスフィはレイラが嫌いなの?」
「そんなことはないよ? ……でもほら、あの親子の顔を見てごらんよ。今にも殴りたくなる顔をしているだろ? だから――」
「レイラは気にしてないよ」
「……僕が気にするんだよ……」
レイラはアスフィが言うなら仕方ないと離れてくれた。
さて、これからどうしようか……。城には居ずらいなぁ。
***
朝食を終えると剣術だ。今日の師範はエルザだった。
あの食べにくい朝食のときに発表されたのだ。
『じゃじゃーん! 今日は私が師範だ! 嬉しいだろう!』
と。もちろん全然嬉しくなどなかった。
剣術のときもニヤニヤしてんだろうなぁ。
「どうしたレイラ! もっと私を楽しませろ!」
「うるさい! 今やってる!!」
「ハッハッハ! アスフィ! 君も回復したのならかかってこい!」
全然ニヤニヤなどしていなかった。
それどころかいつもの鬼副団長であった。
エルザは切り替えが出来るやつだった……。
……
…………
………………
そして昼。ルクスとの魔法勉強会の時間だ。
いつも俺の部屋で行っている。厳密には俺とレイラの部屋だが。
部屋に向かうと既にルクスが部屋で待っていた。
なんで俺のベッドの上で寝転がってるの……?
「……あ、帰ってきましたか。では始めましょう」
「う、うん」
「それと……お、おめでとうございます」
ルクスにも情報が流れていた。あの親子の仕業だろう。
いつかきっと仕返ししてやる……今は負けるからやらないけどな!
そうして魔法のお勉強が始まった。
今回は詠唱についてのお勉強だ。ルクス曰く詠唱は正直なんでもいいとの事。大事なのは込める魔力と集中力だそうだ。
「ってことはルクスのあの長い詠唱は自分で考えたの?」
「いえ、違います。あれは『ある人』が使っていたのを真似ただけです。自分で考えるのは苦手なので」
ある人、か。気になるな。ルクスの師匠かなんかだろうか。
俺は聞いてみることにした。
「その『ある人』って?」
「言っても分からないと思いますよ?」
「うんいいよ」
「名は、レイモンド・セレスティア。勇者のメンバーです」
セレスティア? レイラと同じ名前じゃないか……!
なにかレイラと関係する人なんだろうか?
「レイラと同じ名前だね」
「レイラ……さんは確か……」
「レイラ・セレスティアだよ」
「え!?」
ルクスは驚いた顔だ。そして俺に聞いてきた。
「レイラ……さんに父親はいますか?」
「え? ああ、うん居るよ。ほとんど家に居なかったみたいだけどね」
「ああ、そんな。私はなんてことを……」
「……どうしたの?」
俺がそう聞くと、ルクスは俺の両肩に手を置き――
「よく聞いてください……恐らくレイラ……さんの父親は勇者のメンバーです」
「……ええ!??」
ルクスは衝撃の爆弾を投下した。
レイラの父親が勇者のメンバー!?
「レイモンドさんはよく言っていました。『俺には娘がいる。だが、今は帰ることが出来ない』」と。
ってことはレイラの父親の確率高いじゃん!
どうしよう……これってレイラに言った方がいいのかな。
「いいですかアスフィ、この事はレイラ……さんには内緒です」
「な、何で?」
「自分を放ったらかしにしていた父親が、勇者のメンバーだなんて聞いてもレイラさんは嬉しくないと思います」
「でも、知っておいた方が良くない? 後々知ることになるより今知っておく方がさ」
「……私はレイラ……さんとは仲が良くありませんので、その点はアスフィに任せます。ただ、私が言っていたとは言わない方が吉です。せっかく仲良くなったのに私の名前を出すとまた喧嘩をすることになるでしょう」
確かに……ただそれをルクス本人の口から言わせてしまうのは少し心が痛むな。
「分かったよ。考えておくよ」
「はい、お願いします。……では続けましょう」
***
「で、では私はこれで。遅くなると怒られてしまいますので」
「う、うん。ありがとうルクス。いつも悪いね」
「いえ。では失礼します」
そう言ってルクスは部屋をそそくさと出ていった。
いつも気を遣わせてしまって申し訳ないなぁ。
あの二人早く仲直りしてくれないかなー。そういえば、ルクスはどこに泊まっているのだろう。
少し気になった。
……
…………
………………
しばらくしてもレイラは全然帰ってこない。
恐らく剣術の特訓が長引いているのだろう。最近、よくあることだ。俺は時間もあるのでルクスがどこに泊まっているのか、エルフォードに聞いてみることにした。
俺はエルフォードがいつも入り浸っている城の書庫に向かった。
「ん? ルクスか? ルクスなら君たちのすぐ隣の部屋だが?」
「…………え?」
いやすぐ隣だったのかよ!! はっ!! ま、まさか……そうか……だから知っていたのか……だからおめでとうございますだったのか!?
俺はルクスを問い詰めることにした。
「……まさか本当にすぐ隣の部屋だったとは」
ご丁寧にドアに『セルロスフォカロ様』と書いてあった。
いつもルクスと呼んでいたからフルネームを忘れていた。
「長いし覚えづらい!」
俺はコンコンとノックをした。
「はい? どうぞ」
「………ど、どうも」
「……どうしました? アスフィ」
俺はルクスと魔法の勉強以外で、
初めて二人っきりで話すことになった。