第40話 「ミスタリス王国陥落」【レイラ視点】

文字数 3,010文字

 アスフィが居なくなった。
 レイラに黙って居なくなった、許せない。
 
 でも、レイラも悪かったんだ。
 怒りすぎた……でもアスフィもアスフィだ。
 自分を殺そうとした女にデレデレして……。
 私にあんな事までしたのに、すぐ他の女に目移りする。
 でもアスフィは出会った時からからそうだ。
 そういう男の子だった。レイラが悪い。
 今度あったら謝ろう……。
 
 ……
 …………
 ………………
 
 アスフィが帰ってこない。
 なんで? なんでアスフィ帰ってこないの?
 レイラのことそんなに嫌いなのかな?
 アスフィがあんなに大事にしていた母親の杖まで置いて。
  
 アスフィはどうやらあのルクスとかいう女と出ていったようだ。
 
 もうアスフィなんか知らない……!!
  
 早く帰ってきてよ……アスフィ。
  
 城の中がやけに騒がしい。
 どうしたんだろう。
 
 エルザの声がする。
 エルザだけじゃない、城全体から声がする。
 これは……悲鳴? 何かあったのかな? 
 
 ――すると部屋のドアが勢いよく開いた。
 
「貴様が、レイラ・セレスティアだな。悪いが死んでもらう」
 
 え……なんで? 誰この人。
 この人の格好……黒いフード?
 そういえば、アスフィのお母さんを『呪い』にかけた人達は黒いフードを被っていたって言ってた。それに、アスフィを奪ったあの泥棒女が着ているフードにも似ている。
 
「レイラ……! 逃げろ!!」
「貴様! エルザ・スタイリッシュかっ!? がはっ!」
 
 エルザがやってきた。黒いフードの人が切り伏せられた。
 レイラは血が苦手だ。血を見ると、アスフィが盗賊に襲われた時を思い出す。アスフィが真っ二つに切られたあの感覚を……
 
「オエッ……」
「レイラっ!? 大丈夫か?!」
「……へ、平気。少し吐き気がしただけ」
「そうか……レイラ、ミスタリスを、この国を出ろ」
「……どうしたの? なにかあったの?」
「賊の襲撃にあった!」
「なら、レイラも戦う!」
「ダメだっ! 君になにかあってはアスフィに合わせる顔がない! ……くそっ! もう来たか!」
 
 エルザは早く逃げろと言ってくる。でも、レイラだって剣士だ。今まで剣術修行だってしてきた。魔獣も倒してきた。
 人は……斬ったことないけど、だけどこの国にはお世話になった。ならレイラも戦わなくちゃ。
 
「……エルザ・スタイリッシュ。お前に用は無い。そこをどけ」
「それは聞けないな。貴様らの狙いはなんだ」
「お前には関係ない、どけ」
「……レイラ! 何をしている! さっさと逃げろっ!!」
「嫌! レイラも戦う!」
「この分からず屋が!! …… 『超身体強化(ハイブースト)』!」
「なに!? 消えた……!? がはっ」
 
 エルザがワイバーンの時に使った技を使った……?
 全然見えなかった……これがエルザの本気なの?
 これがエルザ固有の『強化技術』というもの ……?
 
「仕方ない、一緒に出るぞ! パパが今賊のリーダーと戦っている! パパだけでは不安なのだ! 早く私もそっちに合流したい! レイラをこの国から出した後、私はもう一度ここへ戻る。レイラはアスフィの所へいけ! 分かったな!?」
「で、でも……」
「うるさい!!! 今の私に余裕は無い!! 言うことを聞け!」
「わ、分かったよ……」
 
 エルザは激怒していた。
 レイラはエルザがこんなに怒っているとこを初めて見た。
 エルザの後ろを着いていき、レイラ達は城を出た。
 黒いフードの人達が何人かいたけど、全てエルザがあっという間に切り伏せた。
 
 そして城を出たレイラ達。
 レイラは立ち尽くした。その惨劇に。
 
 辺りが燃えている……家が街が全てが。
 壊れて、燃えて、崩壊している。
 そして――
 
「オェェェェェェェェ――」
「レイラ!?」
 
 レイラはその惨劇に吐いてしまった。
 
 ミスタリスの住人が死んでいた。大量に。そこら中で。
 
 首がない。足がない。体が……ない。
 レイラは頭が真っ白になった……。
 
「おい! しっかりしろレイラっ!! こんなとこで立ち止まってはダメだ!!」
 
 エルザが私に向かって叫んでいた。
 だけど、レイラは動けない。何も考えられない。考えたくない。今まで仲良くしてきた人達が死んでいる。
 
 レイラ達に声をかけ、店を紹介してくれた商人のおじさん。
 アスフィがデートにと買ってくれた服屋の店の店員さん。
 レイラが仲良くした街の人達が……惨たらしく死んでいる。
 
「レイラ……いいかよく聞け。君は死んではダメだ。アスフィが……好きな人がいるのだろう。ならこんなとこで死んではダメだ」
「エルザ……エルザは大丈夫なの? エルフォードさん助けたら帰ってくるよね? また皆で、レイラとアスフィとエルザとエルフォードさんでまた皆で……ご飯食べられるよね?」 
「ああっ! もちろんだっ!!!」
 
 エルザはレイラにとびっきりの笑顔で答えてくれた。
 レイラはその言葉を信じる事にした。だってその笑顔はいつものエルザだったから。 夜にレイラとアスフィの部屋にゲームをしよう! と言ってくるあの時の笑顔だ。これ以上にない安心感だよ。
 
「うん……! 分かった! レイラ、エルザのこと信じて――」
  
 ……
 …………
 ………………
 
「レイラ………? レイラァァァァァァァァァァァ」
「……ターゲット処分確認。引き上げるぞ」 
「おまえらぁぁぁぁぁぁぁぉぉぁぁぁぁぁぁぉぉぁ」
「なっ! エルザ・スタイリッシュ!? なぜここに! がはっ」
 
 レイラは……アスフィになにかしてあげられたかな……?
 
「あああああああそんな……レイラ死ぬな!!」
「………………死ぬ……の? レイラ……まだアスフィに……」
 
 そっかアスフィと喧嘩したまま死んじゃうのか。
 最後に謝りたかったな……レイラまだアスフィとなにもしてないのに……キスだけしかしてない。
 その先のことまだなんにもしてないのに。
 アスフィ……ごめんね。アスフィ………………会いたいよ。
 
 
「ああああくそ! 血が止まらない! どうしてだ!! やめてくれ! 死ぬなレイラァァァ!!」
「エルザ…………アスフィ……に」
 
 せめてエルザに伝えてもらおう。
 アスフィに……レイラの言葉を。
 
「やめろ喋るな!! アスフィの『ヒール』なら助かる! そうだ……! アスフィの『ヒール』は私の腕も治したんだ! だから――」
 
 エルザってばなんて顔してるの……
 レイラはもう死ぬ……そんなのはレイラが一番よく分かってる。アスフィはここには居ない。それにもう間に合わないよ。
 
 エルザは色んな人を巻き込む人だった……アスフィとの大事な時間を台無しにする時もあった。けど、エルザはレイラの大切な『友達』だ。  
 
「アス……フィに……ごめんねって……言っといて……」
 
 血が止まらない。視界がぼやけてきた。
 
「レイラ……? そんな………………私はアスフィになんて言えば……」
 
 ごめんね、エルザ。最後に大変な役目を押し付けちゃって。
 エルザがアスフィの事を好きなのはレイラも知ってるよ?
 皆、アスフィが大好きなんだ。だからこんな形でお別れするのは嫌だよ……
 
 《アスフィ。ごめんね》 
 
「わた……私は…………すまないアスフィ」 
 
 ミスタリス王城前にて。
 レイラ・セレスティアは黒フードの男に大剣を投擲(とうてき)された。それが腹部に命中した。
 
 レイラ・セレスティアは齢十四にしてその人生の幕を閉じた。
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登場人物紹介

・アスフィ・シーネット 主人公。

12歳 ヒューマン 戦士顔に茶髪。


{回復魔法しか使えない……。何故だ……。


・レイラ・セレスティア 

13歳。

獣人 黒髪猫耳の女の子 胸が大きい

・エルザ・スタイリッシュ 

ミスタリス王国の女王

金髪 黄色目 ヒューマン

副団長 冒険者等級 S級認定 15歳


・ルクス・セルロスフォカロ 

21歳 身長、胸共に小さい女の子。

エルザと同じくS級認定。

ただし稀に『僕っ娘』になる。白髪。赤目。


・ゼウス・マキナ

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