第9話 「『死を呼ぶ回復魔法』」
文字数 2,537文字
俺たちは騎士団の護衛の元、
ミスタリス王国まで行けることになった。
「ありがとうございます、護衛までして頂いて」
「あ……ありがとう、ござ……ございます」
「いいさ……俺の名はハンベルだ。コイツらの……リーダーだ」
「僕はアスフィ・シーネットです。こっちはレイラ・セレスティアです。この子人見知りなので気にしないでください」
「……どうも」
騎士団長ハンベルか。なかなか気が利く良い奴だな。
さすがは王国騎士団だ。
「騎士団の皆さんはこんな所でなにしていたんですか?」
「ん? あぁ~、ちょっと人探しをしていてな」
「人探しですか? 実は僕達もなんです」
「そうか、奇遇だな。まぁ俺たちはもう見つけたんだがな」
「そうなんですか! 羨ましいです……僕達はこれからでして……」
そんな話をしながら騎士団長と歩いていた。
レイラは相変わらず人見知りを発動しなにも喋らない。
喋らないどころか顔が険しい。
そんなに大人数は苦手なのか。
たしかに、この騎士団は団長ハンベルを含め六人居る。
これ程の人数だ。レイラは初めての経験で緊張しているのだろう。
……とか考えているとようやくレイラが口を開いた。
「……ねぇ、おじさん達。これほんとにミスタリス王国に向かってるの?」
「……嬢ちゃん。勘がいいねぇ」
「アスフィ!! こいつら騎士団なんかじゃ――」
「動くな! その剣を抜いたらお前の手足を切り落とす」
なんだなんだ? こいつら騎士団じゃないのか!?
ハンベルはレイラの口を後ろから手で塞ぎ、
剣を首元に当てている。
「もう少し人目のつかない離れたところが良かったんだが……仕方ないここらでいいだろう。ここら辺も人はいねぇはずだ」
「おい! レイラを離せ!!」
「ガキは黙ってろ! てめぇに用はねぇんだ……おいお前らそのガキを殺せ! 俺はこの獣人のガキをたっぷり楽しんでるからよぉ。俺が楽しんだ後、お前らにも楽しませてやる。まぁ、このガキが俺のブツに耐え切れるかどうかって所だがな」
ハンベルはニヤリと笑い、口元からは涎が垂れていた。
「ケッヘッヘ! 流石兄貴だぜ! 最高にイカれてやがる! でもそこが痺れる憧れるぅー!」
「くっそぉ! 騙したなぁ!! ゲスがァァァァァァー!!」
「ガキ。 お前の相手は俺たちだ。兄貴の後は俺たちが貰う……ヒッヒッ! 久しぶりの亜人だぜぇ。しかも獣人の娘ときた! 楽しみだなぁ! 俺は別に死体でも構わねぇ! あぁ楽しみだなぁ!」
こいつらは騎士団ではなかった。
騎士団のフリをした盗賊だった。
鎧が汚れていたのは、どこかの騎士を襲撃して追い剥ぎでもしたのだろう。盗賊ならしそうなことだ。
「動くなよぉ~? 動いたらこの手足切り落とすからよ? ……にしてもお前なかなか発育がいいなぁ? これは楽しめそうだぜぇ」
レイラがハンベルに抵抗できず衣服を脱がされかけていた。
助けに入りたいが、俺の前には五人の下っ端共が立ち塞がる。
「おまえーーー!!! レイラに手を出したらどうなるか分かってんだろうなぁ!!? 殺すぞぉぉぉぉぉ」
俺は人生でここまで怒ったことは無い。人生で……そうだ。無いはずだ。ここまで怒りの感情がむき出しになったのは初めてのはず……だよな?
俺はこの時のことをあまり覚えていない。
「『ヒール』」
「は? オイオイまさか俺たちを回復してくれんのか?
ハッハッハ!! ありがとよガキ……うっ……ガハッ」
「『ヒール』」
「……おい……ガキぃぃぃぃぃぃテメェ俺に何をしたぁぁぁぁぁ」
「『ヒール』」「『ヒール』」 「『ヒール』」 「『ヒール』」
「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール……」
口や目から血を吹き出し倒れていく鎧の男たち。
本来対象者の身を淡い光が包み込む『ヒール』だが、
この時の『ヒール』はドス黒いものだったらしい。
これは後にある人物から聞いた話だ。
「アス……フィ?」
そんな俺の姿を見たレイラは身震いしていた。
「な!? お前らぁ! どうした!? ガキ一人に何してんだよぉ!! ……ガキテメェの仕業か。どうやらおめェから先に殺さなきゃこの後、楽しめそうにねぇみてぇだな~?」
「アスフィ逃げてっ!! こいつ強いよ!!!」
レイラは声を上げた。しかし、その声が届いた頃にはもう遅い。
アスフィの右腕は体から離れ、地面に落ちていた。
「へッ!! ガキが調子に乗るからだ!」
「アスフィィィィィィィィ!!!!」
……
…………
………………
「……『ヒール』」
「な!? バカな! 確かに腕を切り落とした筈だ!? なんでだ!? たかが『ヒール』みてぇな初級回復魔法で癒せる傷じゃねぇぞ!!」
「『ヒール』」
「グハッ!! て、てめぇ……ただのガキじゃねぇな……その赤い目……まさか『神マキナ 』の……バケモンが……」
ハンベルは口から大量の血を吐きながらも未だ立っていた。
「へっ! だがこう見えて俺も剣術の『祝福』を持つ者……ガキなんかにやられてたまるかっ! 俺はそいつら雑魚とは違ぇ! 『 身体強化 』!! 死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
ハンベルがそう唱えると体が一回り大きくなる。そして勢いよく切り掛る。先程よりも速さが増したハンベルを捉える事が出来ず、アスフィの体は地面に落ちる。
「どうだ!? 真っ二つにしてやったぜ!! ギャッハハハハ! 例え『神マキナ』の申し子だとしてもこれでもう終いだ……さてかなり疲れたんだ。俺を癒してくれよお嬢ちゃん?」
ハンベルは倒れたアスフィの元を通り過ぎ、ゆっくりとレイラに近づいていく。
「アスフィィィィィィィィ………そんな……」
レイラは大粒の涙を流し、泣き叫ぶ。そして膝から崩れ落ちた。
旅は始まったばかり。まだ、なにも成し遂げられてはいない。
彼女は自分の弱さを呪った ……。
「『ハイヒール』」
「……な、に?」
倒れていたはずアスフィ。しかし、彼は何事も無かったかのように立ち上がり唱える――
『 死を呼ぶ回復魔法 』
その瞬間、ハンベルは白目を向き、血を吐くことも無く、ただ意識を失ったかのようにその場に倒れ死んだ。
そしてアスフィもまた力なく倒れた――。
ミスタリス王国まで行けることになった。
「ありがとうございます、護衛までして頂いて」
「あ……ありがとう、ござ……ございます」
「いいさ……俺の名はハンベルだ。コイツらの……リーダーだ」
「僕はアスフィ・シーネットです。こっちはレイラ・セレスティアです。この子人見知りなので気にしないでください」
「……どうも」
騎士団長ハンベルか。なかなか気が利く良い奴だな。
さすがは王国騎士団だ。
「騎士団の皆さんはこんな所でなにしていたんですか?」
「ん? あぁ~、ちょっと人探しをしていてな」
「人探しですか? 実は僕達もなんです」
「そうか、奇遇だな。まぁ俺たちはもう見つけたんだがな」
「そうなんですか! 羨ましいです……僕達はこれからでして……」
そんな話をしながら騎士団長と歩いていた。
レイラは相変わらず人見知りを発動しなにも喋らない。
喋らないどころか顔が険しい。
そんなに大人数は苦手なのか。
たしかに、この騎士団は団長ハンベルを含め六人居る。
これ程の人数だ。レイラは初めての経験で緊張しているのだろう。
……とか考えているとようやくレイラが口を開いた。
「……ねぇ、おじさん達。これほんとにミスタリス王国に向かってるの?」
「……嬢ちゃん。勘がいいねぇ」
「アスフィ!! こいつら騎士団なんかじゃ――」
「動くな! その剣を抜いたらお前の手足を切り落とす」
なんだなんだ? こいつら騎士団じゃないのか!?
ハンベルはレイラの口を後ろから手で塞ぎ、
剣を首元に当てている。
「もう少し人目のつかない離れたところが良かったんだが……仕方ないここらでいいだろう。ここら辺も人はいねぇはずだ」
「おい! レイラを離せ!!」
「ガキは黙ってろ! てめぇに用はねぇんだ……おいお前らそのガキを殺せ! 俺はこの獣人のガキをたっぷり楽しんでるからよぉ。俺が楽しんだ後、お前らにも楽しませてやる。まぁ、このガキが俺のブツに耐え切れるかどうかって所だがな」
ハンベルはニヤリと笑い、口元からは涎が垂れていた。
「ケッヘッヘ! 流石兄貴だぜ! 最高にイカれてやがる! でもそこが痺れる憧れるぅー!」
「くっそぉ! 騙したなぁ!! ゲスがァァァァァァー!!」
「ガキ。 お前の相手は俺たちだ。兄貴の後は俺たちが貰う……ヒッヒッ! 久しぶりの亜人だぜぇ。しかも獣人の娘ときた! 楽しみだなぁ! 俺は別に死体でも構わねぇ! あぁ楽しみだなぁ!」
こいつらは騎士団ではなかった。
騎士団のフリをした盗賊だった。
鎧が汚れていたのは、どこかの騎士を襲撃して追い剥ぎでもしたのだろう。盗賊ならしそうなことだ。
「動くなよぉ~? 動いたらこの手足切り落とすからよ? ……にしてもお前なかなか発育がいいなぁ? これは楽しめそうだぜぇ」
レイラがハンベルに抵抗できず衣服を脱がされかけていた。
助けに入りたいが、俺の前には五人の下っ端共が立ち塞がる。
「おまえーーー!!! レイラに手を出したらどうなるか分かってんだろうなぁ!!? 殺すぞぉぉぉぉぉ」
俺は人生でここまで怒ったことは無い。人生で……そうだ。無いはずだ。ここまで怒りの感情がむき出しになったのは初めてのはず……だよな?
俺はこの時のことをあまり覚えていない。
「『ヒール』」
「は? オイオイまさか俺たちを回復してくれんのか?
ハッハッハ!! ありがとよガキ……うっ……ガハッ」
「『ヒール』」
「……おい……ガキぃぃぃぃぃぃテメェ俺に何をしたぁぁぁぁぁ」
「『ヒール』」「『ヒール』」 「『ヒール』」 「『ヒール』」
「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール……」
口や目から血を吹き出し倒れていく鎧の男たち。
本来対象者の身を淡い光が包み込む『ヒール』だが、
この時の『ヒール』はドス黒いものだったらしい。
これは後にある人物から聞いた話だ。
「アス……フィ?」
そんな俺の姿を見たレイラは身震いしていた。
「な!? お前らぁ! どうした!? ガキ一人に何してんだよぉ!! ……ガキテメェの仕業か。どうやらおめェから先に殺さなきゃこの後、楽しめそうにねぇみてぇだな~?」
「アスフィ逃げてっ!! こいつ強いよ!!!」
レイラは声を上げた。しかし、その声が届いた頃にはもう遅い。
アスフィの右腕は体から離れ、地面に落ちていた。
「へッ!! ガキが調子に乗るからだ!」
「アスフィィィィィィィィ!!!!」
……
…………
………………
「……『ヒール』」
「な!? バカな! 確かに腕を切り落とした筈だ!? なんでだ!? たかが『ヒール』みてぇな初級回復魔法で癒せる傷じゃねぇぞ!!」
「『ヒール』」
「グハッ!! て、てめぇ……ただのガキじゃねぇな……その赤い目……まさか『
ハンベルは口から大量の血を吐きながらも未だ立っていた。
「へっ! だがこう見えて俺も剣術の『祝福』を持つ者……ガキなんかにやられてたまるかっ! 俺はそいつら雑魚とは違ぇ! 『
ハンベルがそう唱えると体が一回り大きくなる。そして勢いよく切り掛る。先程よりも速さが増したハンベルを捉える事が出来ず、アスフィの体は地面に落ちる。
「どうだ!? 真っ二つにしてやったぜ!! ギャッハハハハ! 例え『神マキナ』の申し子だとしてもこれでもう終いだ……さてかなり疲れたんだ。俺を癒してくれよお嬢ちゃん?」
ハンベルは倒れたアスフィの元を通り過ぎ、ゆっくりとレイラに近づいていく。
「アスフィィィィィィィィ………そんな……」
レイラは大粒の涙を流し、泣き叫ぶ。そして膝から崩れ落ちた。
旅は始まったばかり。まだ、なにも成し遂げられてはいない。
彼女は自分の弱さを
「『ハイヒール』」
「……な、に?」
倒れていたはずアスフィ。しかし、彼は何事も無かったかのように立ち上がり唱える――
『
その瞬間、ハンベルは白目を向き、血を吐くことも無く、ただ意識を失ったかのようにその場に倒れ死んだ。
そしてアスフィもまた力なく倒れた――。