第12話 「3分ショッキング」

文字数 4,770文字

 時は少し遡る。
 エルザが騎士団入団を命じた
 
「ええ! なんで?!」
「……意味わかんないよ」
 
 俺とレイラはどうやら騎士団入隊を命じられたらしい。
 そのあまりの急すぎる展開に俺たちは動揺する。
 
「私は一度決めたことは覆さない! 故に君たちが騎士団に入団することは決定事項だ!」
「いや、そもそも理由を教えてよ」
「……うん」
「ああ! そうだ! 忘れていた」
 
 彼女は本当になにがしたいんだろう。
 
「理由は3つ――」
 
 と、女王は三本指を立て長々と話し始めた。
 
「まず一つ。私は外に出たい。城は窮屈でたまらん」
 
 なんだよ、ただの私情かよ。
 てかそれ俺たちが騎士団に入隊するのに関係あるのか?
 俺達がいなくても外に出てんだろと言いたいところを我慢した。後ろにメイドが居たからだ……。
 
「二つ。レイラのいう怖カッコイイヒーローを見つけたい。その為には目撃者であるレイラと行動を共にする必要がある」
 
 これはちゃんとした理由だった。
 確かに俺もその人物が気になっていた。
 だが、まだそれだけでは俺たちは納得できない。
 なぜなら俺たちはこの国の騎士団になりにきたのではないのだから。
 
「そして3つ。せっかく友が出来たのだ! 友達と一緒に冒険をしたいじゃないか!」
 
 声高らかにそう宣言するエルザ女王。
 三つ中、二つが王の私情であった。
 そんな高らかな声を聞き付けたのか、
 王室の大きな扉が開き一人のメイドが入ってきた。
 
「いけません!! エルザ様! これ以上、王に外に出られると私達も困ります! 仕事が……なにより団長に怒られるんですぅぅぅうぇぇぇぇぇぇん」
 
 いきなり入ってきて泣き出すメイド。
 
「なんだパパのことか。大丈夫だ。私から言っておく。パパは私の言うことは守るからな! 怒るなと言っておく! 心配するな!」
「それいつも言ってますけど、全然意味ありませんからぁ~」
 
 また泣き出すメイド。
 やはりエルザは度々無断で外出しているみたいだ。
 すると今回もそうなんだろう。
 外出のプロだな。何回も抜けられるってメイド達のセキュリティが悪いのか、エルザの忍び能力が高いのか。
 なんにせよメイドからすると迷惑な話だろう。
 
「えっと……団長ってエルザの父さん?」
「ああそうだ! エルフォード・スタイリッシュ。それが騎士団団長であり私のパパだ!」
 
 驚きの事実なのは間違いないのだろうが、
 メイドが泣いているし、そのメイドを宥めるレイラに、
 
「お構いなく……大丈夫ですいつものことですから」
 
 と他のメイドがその泣いているメイドを分かる分かる……と共感し宥める。
 はっきり言って現場はめちゃくちゃだった。
 
「ふむ、少し騒がしいな」
「誰のせいだよ」
「誰だ?」
 
 お前だよ! とツッコミたくなるがメイドがいるから俺はあえてそれ以上何も言わなかった。
 
「さて、どうだ? 納得したか?」
「納得は……できない」
「それはなぜだ?」
「理由は三つ」
 
 俺もエルザが提案してきたように三つに分けて理由を話してやることにした。
 
「うむ、聞こうじゃないか」
「一つ。僕は騎士団に入隊しに来たんじゃない。母の呪いを解くために『解呪の才能』を持つものを探しているから」
 
 そして続ける。
 
「二つ。僕はまだ十二歳、レイラは十三歳だ。冒険者になれるのは十五歳から。だから冒険に出ることはできない」
 
 そして再び続ける。
 
「そして三つ。僕はヒールしか使えない。だから騎士なんて器じゃない」
 
 言ってやった。
 これは全て本当のことだ。
 冒険者になれるのなら俺たちは既に冒険者になっている。
 しかし、年齢の都合上なれないからこそ冒険者ではなくあくまで『旅』として人探しをしている最中なのだ。
 それを騎士団に入団? 冒険者ですら年齢制限があるのに、騎士団入団は年齢制限がないのか? と思った。
 
「なるほど……アスフィ、君の言い分は承知した。……だが残念だな! 先も言ったが私は一度言ったことは覆さない!!」
「な!!?」
 
 エルザは話が通じないやつだった……。
 
「それに一つ目の話だが、騎士団に入団するのはもちろんメリットがある」
「それはなに?」
「強くなれる。君たちはまだ弱い。少なくとも私より。レイラは騎士団の騎士たちと同等かそれ以上かもしれない。
 だがそれでも私より弱い」
 
 レイラは顔を歪ませる。
 
「なんだレイラ、悔しいか?」
「……べ、別に」
 
 レイラはどうやら気に入らないようだ。
 しかし、場をわきまえているのかそれ以上言葉を発さない。
 
「それに、騎士団に入れば母親の件も探しやすいだろう。私とクエストに同行することが出来るし、先も言ったが私の耳にはこの国の全ての情報が入ってくるからな! なにか情報が入れば君に伝えると約束する」
 
 エルザは自信満々に言い放った。
 確かにそれは一理ある……。
 
「そして、二つ目だが確かに冒険者には十五歳からという年齢制限がある。騎士団も同様に十五歳という制限がある……だが――」
 
 そしてエルザは再び椅子から立ち上がり両手を大きく広げ言い放った。それは今までの話なんてどうでもよくなるくらい大きな発言力。女王エルザ・スタイリッシュにしか発せない言葉だ。
 
「そんなもの私の王の権力でどうにでもなる!!!!!」
 
 無駄に広い王室が一気に静まり返った。
 
「………それはもう反則じゃん」
「なんとでもいうがいい!! ハッハッハ!!」
 
 その後最後の三つ目についてエルザは言及した。
 
「あと、最後の三つ目だがな、ヒールのみと言ったな」
「ああ」
「なら私を治療してみろ」
「なにを言って――」
 
 俺が理解する前に事件は起きた。
 
 エルザの左腕が落ちた。
 左腕から大量の血が地面に垂れ流しになっていた。
 エルザはあろうことか自ら左腕を剣で切り落とした。
 とても正気とは思えない行動に一瞬場が静まり返る。
 そして――
 
 メイド達は悲鳴をあげる。
 レイラはなにかのトラウマがよみがえったのかうずくまって、
 口を押えていた。
 
「おい! なにしてるんだよ!!!」
「こ、これを治してみろ」
「何を言って――」
「早く……してくれ……さすがの私もこの状態が続けば死んでしまう。この王室に『ヒール』を使えるものはいないのだ」
「だったらなんで……」
「私はお前の回復の力を信じているから……」
 
 そう言ったエルザは片足をつき右手で左腕を抑えていた。
 足元には大量の血。このままでは本当に死んでしまう。
 
「バカやろう!!」
 
 俺はエルザの元に駆け寄り、
 落ちている左腕を拾い上げ切れた部分に繋げるように、それをあてる。
 
『ヒール』……じゃだめそうだな。
 しかし落ちた左腕を治すなんてそんなことが出来るのだろうか。俺はそんなことを考えていた。初めての出来事に俺も動揺が隠せなかった。
 
「『ハイヒール』」
 
 エルザの左腕があわい光で包み込まれた。
 そして――
 
「……ふぅ、助かった。ありがとうアスフィ」
「……助かったじゃねーよ!! お前バカなのか!!? 俺が切った左腕を治せるなんて保証どこにもないのになにしてんだよ!! 馬鹿だよ! お前は大馬鹿者だよ!!!」
 
 俺は言葉遣いがいつもより乱暴になっていた。
 俺の怒声は王室に響き渡っていた。
 俺が女王を怒鳴りつける声にメイドは……怒らなかった。
 メイドも同じくそう感じていたからだろう。
 今はメイドたちも安堵している。
 失神している者、泣き崩れている者、何かを唱えている者。
 レイラはまだ口を押えてうずくまっていた。
 俺は怒りが収まらなかった。
 
「本当にすまない。いや、本当だ。許してくれ。
 ……こうして人に怒られたのは何年ぶりだろうか……」
「……いやこっちこそすまん。でももう二度とこんなことをするな」
「ああ、分かった。誓うよ」
 
 こうしてエルザの奇行もとい、時間にして三分のショッキングな出来事は終了した。
 
 ---
 
「しかし、アスフィ。やはり君、猫を被っているな?」
「どうゆうことだよ」
「アスフィ君、『僕』じゃあなかったのかい?」
 
 【そうか……やっぱりね……】
 
 また誰かの声が聞こえた気がした。
 
「いやいや、別に君の勝手だ。好きにしてくれて構わないさ!」
「……アスフィ怖かった」
「ごめん、レイラ」
 
 レイラに『ヒール』をかけてあげた。
 何とか落ち着いたみたいだ。良かった。
 
「君の『ヒール』は傷を癒すだけじゃないのか」
「そうだよ。でもだからってもうあんなことは――」
「――しないしない、さっき誓っただろ?」
 
 俺は正直トラウマになりかけていた。
 この場にいる全員がきっとそうだ。ショッキング過ぎた。
 こいつ、エルザは良い奴だそれは間違いない。
 しかし、なにをしでかすか分かったもんじゃない。
 メイドの日々の苦労が伺える。
 
「……騎士団入隊の件。分かった」
「本当かい!? 正直迷惑を掛けてしまったから強制するつもりはなかったんだが……」
「エルザを野に放つ訳には行かない」
「……私を魔獣かなにかと勘違いしているのか?」
「魔獣の方がまだマシだよ」
「ヒドイな!!?」
 
 まあそんなのは建前だ。
 本当の理由は――
 
「レイラを強くしてやってほしい。自分の身を守れるくらいに」
「……なるほど。それはもちろんだ」
「……アスフィ」
 
 俺はまだまだ弱い。
 今の俺はきっと魔物や魔獣が出てもレイラを守ることは出来ないだろう。怖カッコイイヒーローが来てくれない限り。
 母の件を解決するためにも、レイラにはもっと強くなって欲しい。
 
「レイラをドラゴンが出ても自分の身を守れるくらいに強くしてやってくれ」
「……善処しよう。だが、もしドラゴンが出ても私が倒してしまうがな!」
 
 エルザは笑う。
 
「……約束だ」
「ああ! ……だが、君はどうする?」
「俺は騎士なんて器じゃない。剣の才能がある訳でもないし」
「イヤ」
 
 ここでようやくレイラがいつものレイラに戻った。
 
「アスフィが騎士団に入らないなら、レイラも騎士団に入らない!」
 
 そう我儘なんだようちのレイラは。
 だけど、その気持ちは嬉しいものだ。
 
「そう言われても、僕は剣の才能ないしなぁ」
「……師匠の言葉忘れたの?」
 
 ああそういえば言っていたな。
 ヒーラーといえど自分の身は自分で守れるに越したことはないだろう……だったか。
 確かに忘れていた。ここ最近色々あったし何だか昔の出来事のようだ。まぁ実際あれ初めて言われたの五歳の頃だったしなぁ。
 昔と言えば昔だな。
 
「今思い出したよ……分かった。僕も入隊する」
「ありがとう! ではこれからよろしく頼む!
 アスフィ・シーネット、レイラ・セレスティア!」
 
 こうして俺たちは騎士団に入隊することになったのだ。
 
「そういえばエルザって何歳なの?」
「私か? 私は十五になるな」
「そうなんだ……って三つしか変わんねぇのかよ!!!」
「うむ? そうだが、私を一体いくつだと思っていたんだ?」
 
 エルザは妙に大人っぽかった。外見だけだが……。
 この世界では十五歳から大人だ。
 つまり大人になったばかりということだ。
 それにしてももっと上だと思っていた。
 エルザは背丈が高く、スタイルもいい。
 胸はレイラの方があるが決して引けを取らないくらいにはある。
 
「じーーーー」
「どうした? 私の胸になにかついているか?」
「いや、別になにもついてないよ」
「…………アスフィのえっち」
 
 この一件で俺たちは出会った時より仲良くなった。
 この一件という言葉で片付けられるような出来事ではなかったかもしれない。あまりにも衝撃的な出来事だ。
 だが、お互いがどんな人物なのかはだいたい把握することが出来た。今はそれだけで十分だろう。
 
 この後、『エルザ片腕切り落とし事件』
 を聞きつけたエルザパパがやってきた。
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登場人物紹介

・アスフィ・シーネット 主人公。

12歳 ヒューマン 戦士顔に茶髪。


{回復魔法しか使えない……。何故だ……。


・レイラ・セレスティア 

13歳。

獣人 黒髪猫耳の女の子 胸が大きい

・エルザ・スタイリッシュ 

ミスタリス王国の女王

金髪 黄色目 ヒューマン

副団長 冒険者等級 S級認定 15歳


・ルクス・セルロスフォカロ 

21歳 身長、胸共に小さい女の子。

エルザと同じくS級認定。

ただし稀に『僕っ娘』になる。白髪。赤目。


・ゼウス・マキナ

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