第15話 「安息の夜」
文字数 3,575文字
ワイバーンの討伐を終え、
ミスタリス王国に戻った俺達は、
いつもの無駄に広い部屋で一息ついていた。
いつものと言ってもまだ二回目だけど。
「……疲れたぁ」
「アスフィも疲れるんだね」
「まぁね。『ヒール』を使えば、疲れも癒せるけどあまりそうポンポン使いたくないんだよね」
「なんで? 便利なのに」
「……うーん、人間じゃ無くなる気がしてさ。……意味わからないよねごめん」
「ううん、そんなことないよ」
俺達はソファに座ってそんな会話をしていた。
俺の『ヒール』はケガだけでなく気持ちや疲れなんかも癒せる。それはレイラの吐き気で実証済みだ。
俺が今『ヒール』で回復できる実証済みのものは、
・『ケガ』
・『精神的なものの疲れ(気持ち)』
・『疲れ(スタミナ)』
・『眠気』
・『魔力』
・『エルザの左腕』
こんな所だろう。
最後のは『ハイヒール』ではあるが、あまり変わらない。
眠気に関しては、エルザパパとの初対面の時にこっそり使った。半信半疑ではあったがしっかりと効果があった。
あの時、レイラに眠気があり俺になかったのはその為だ。
そして、魔力だ。
本来魔法とは魔力を消費することになる。
それはどの魔法使いも例外ではない。
しかし、俺の場合は魔力を『ヒール』で回復できる。
魔力を消費し『ヒール』を発動。
消費した魔力以上に魔力を回復する。
プラマイゼロどころか、むしろプラスになる。
この通り俺は大抵のものは回復できることが分かった。
母の『呪い』を除いて……。
そして俺は回復の多用について悩んでいた。
このままだと俺はやろうと思えば寝ずに活動する事もできる。
そうなってしまえば人間ではなくなる気がした。
【よく言うよ。人間じゃないじゃないか】
(またか。誰だお前は)
……当然返事は無い。
「……はぁ……僕もう寝るよ」
「アスフィお風呂入らないの?」
「ああ、もう疲れ……待って。レイラこそ入らないの?」
「レイラも疲れた……もう寝るね」
「いや、それはダメだ! レイラは入るべきだよ!」
色々悩んでいてすっかり忘れていた。
俺が早く帰ろうとしていた理由を。
「……アスフィ? なんで?」
「い、いやだって女の子だし。今回はレイラも結構頑張ったでしょ? 汚れたまま寝ると衛生的にも悪いからさ!」
「……アスフィがそういうなら分かった。入る」
「うん。行ってらっしゃい」
よし! 上手く誘導することが出来た。
疲れ? そんなものとっくに吹っ飛んでいる!
今日こそ俺はレイラの胸を見るんだ。
「じゃあ僕はその間出かけているから安心して入ってね」
「うん……ありがとアスフィ」
ごめんよレイラ。扉の前で待機してシャワーの音が聞こえたらすぐ帰ってくる。よし、これでいこう。俺はここ最近頑張ったと思う。ご褒美は必要だと思う。
「ではごゆっくり~」
そうして部屋を出ようと部屋の扉を開けた瞬間-――
「やあ! アスフィ……来ちゃった」
最悪のタイミングで空気の読めないお嬢様が来客に来た。
「どちら様ですか? ……そういうの要らないので。では」
俺は扉を閉めようとした。
それをお嬢様はガシッと扉を掴んで離さない。
流石S級馬鹿力お嬢様。俺の力なんかでは扉がビクともしない。
「おいおい! つれないでは無いか! 私たちの仲だろう? それに大歓迎と言っていたでは無いか!!」
いや大歓迎だけど今じゃないの!
今先約が入ってるからその次に……ってこんな話をしてる場合じゃない。どうにかこのお嬢様を追い出さなければ、レイラをゆっくり堪能出来ない!
「今ちょっとレイラの具合が悪くてね。また今度お願いするよ」
「うむ、なんだそうだったのか……それは残念だ……ん? シャワーの音がするが、具合が悪いのにレイラは風呂に入っているのか?」
「え? あ、ああそう! シャワー浴びたら元気出るかも……ってね」
「うむ……シャワーを浴びれるくらいなら大丈夫だな! お邪魔する!!」
エルザは扉を無理やりこじ開け入ってきた。
ああー! こんな時に空気読めないの発動しないでくれよ。
今レイラが入ってるのに、エルザが居ると覗けないじゃないか!
「おおー! これは中々にいい部屋を貰ったではないか! 私もここに住もうか……うん? おいアスフィ――」
「なんだい?」
「レイラが丸見えだぞ」
「そうだね」
「丸見えなのに鼻歌を歌っているぞ」
「……そうだね」
「……これはパパに相談しないと。不埒だ」
待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
やめてぇぇぇ! 部屋変えるとか言わないよね?
「ねぇエルザ? こんな言葉を知っているかい?」
「なんだ?」
「それは言うだけ野暮ってもんだよ」
「……レイラは知っているのか?」
「もちろん! だってほら!」
おれはガラス張りのレイラが入っている風呂を指さしながら言う――
「レイラは僕たちに気づいていないだろう? あんなにもガラス張りなのに!」
「うーんそれは曇っているからでは無いのか?」
「曇っていても見えるものだよ普通は」
「たしかに」
「つまりレイラも承知の上なのさ!」
「……そう、なのか。私が変なのか」
「そうだよ! 世間をもっと知ろう? ね? エルザ」
俺は必死だった。
部屋を変えるなんて言われたらたまったもんじゃない。
そんなことになったら俺はもうレイラの裸体を見ることが出来なくなる。
実はこのシャワー室。内側からは見えなくなっている。
外側からはめちゃくちゃ見えるのに。
逆マジックミラー仕様なのだ。
つまり今のレイラは俺達が居ることに気づいていない。
「……しかしレイラは私より年下なのにかなり大きいな」
エルザはガラス張りの向こうのレイラをまじまじと見ていた。
「でしょ!? 凄いよね~ほんと、びっくりだようん」
エルザも共感してくれたのが少し嬉しかった。
エルザももちろん悪くは無い。
だが、レイラの胸はそれ以上だ。
「だが、ここまで近づいていても気づかないものなのか」
「……そうだね。レイラはお風呂に入ってる時集中するタイプだからね」
「でも、こんなに手を振っても気づかないものなのか……どれ一度声でも掛けて――」
「――エルザ! それは良くない! シャワー中に声をかけるとレイラ物凄くキレるんだよ!」
「そ、そうなのか。せっかく友になれたのに嫌われたくは無いな……うむ、やめておこう」
ふう。危ない。
ここでこの部屋に俺がいる事が知られたら俺が嫌われてしまう。それどころか口すら聞いて貰えなくなるかもしれない。
流石にそれだけは絶対に避けたい。
「……で、何しに来たのさエルザ」
「何って遊びに来たのだ。アスフィが来てもいいと言ったのだろう?」
一国の王がなにしてるんだよ。
メイドさんたちセキュリティ甘すぎだ!
もしくはエルザパパが甘やかして黙認しているのか……。
いや誘ったの俺だけど今じゃないんだよなぁ。
「今日は帰ってくれない?」
「えー! せっかく来たのにそれはないだろう!」
「一応僕より歳上だよね? 一応! 年下のお願いは聞くもんだよ? エルザ」
「一応とは何だ! むしろ年上の言うことは聞いて欲しいものだな!」
たしかにエルザは身長も胸も大きい。
故に見た目で言えば大人と言うのはわかる。
実際俺達も十五とは思っていなかったしな。
もう少し上だと思っていた。
だけど、精神年齢がそれに伴っていないんだよなぁ。
「……アスフィ、君がそう言うなら私は切り札をだす」
「な、なんだよ切り札って」
「アスフィ・シーネットよ! 我、女王エルザ・スタイリッシュが命ず! ……私と遊べ!」
うわ汚ねぇー!!
ただ遊ぶだけで王の権力使ってきやがったこの女王!
私情でそんなん使うとか卑怯だろ!
「おい! それは汚いぞ!」
「なんとでも言うがいい! さぁ早く私と遊ぼう!」
「……なら僕も切り札を出す」
「なんだ? 言ってみろ」
「エルザのパパを呼ぶ」
「構わない。パパにはちゃんと友達と遊んでくると伝えてある」
やっぱりあの父親黙認どころか容認していたのかよ!
娘にとことん甘いなあの父親!!
「……はぁもう分かったよ、僕の負けでいいよ」
「よし! ならゲームをしよう。最近庶民の間では流行っているというゲームだ。一度やってみたくてな」
「なんて言うゲームなの?」
「王様ゲームというやつだ!」
「一人でやってろっ!!」
この後レイラがシャワーから出てきて、
俺達は正座をさせられ怒られた。
そして案の定しばらく口を聞いてくれなかった。
***
「……ねぇレイラ……ごめんって」
「ハッハッハ! アスフィも馬鹿なヤツだ! 不埒なことを考えるから悪い!」
「エルザのせいだよ! このバカ女王!」
「な!? 不敬ぞ!」
「………二人とも黙って」
「「ごめんなさい」」
ミスタリス王国に戻った俺達は、
いつもの無駄に広い部屋で一息ついていた。
いつものと言ってもまだ二回目だけど。
「……疲れたぁ」
「アスフィも疲れるんだね」
「まぁね。『ヒール』を使えば、疲れも癒せるけどあまりそうポンポン使いたくないんだよね」
「なんで? 便利なのに」
「……うーん、人間じゃ無くなる気がしてさ。……意味わからないよねごめん」
「ううん、そんなことないよ」
俺達はソファに座ってそんな会話をしていた。
俺の『ヒール』はケガだけでなく気持ちや疲れなんかも癒せる。それはレイラの吐き気で実証済みだ。
俺が今『ヒール』で回復できる実証済みのものは、
・『ケガ』
・『精神的なものの疲れ(気持ち)』
・『疲れ(スタミナ)』
・『眠気』
・『魔力』
・『エルザの左腕』
こんな所だろう。
最後のは『ハイヒール』ではあるが、あまり変わらない。
眠気に関しては、エルザパパとの初対面の時にこっそり使った。半信半疑ではあったがしっかりと効果があった。
あの時、レイラに眠気があり俺になかったのはその為だ。
そして、魔力だ。
本来魔法とは魔力を消費することになる。
それはどの魔法使いも例外ではない。
しかし、俺の場合は魔力を『ヒール』で回復できる。
魔力を消費し『ヒール』を発動。
消費した魔力以上に魔力を回復する。
プラマイゼロどころか、むしろプラスになる。
この通り俺は大抵のものは回復できることが分かった。
母の『呪い』を除いて……。
そして俺は回復の多用について悩んでいた。
このままだと俺はやろうと思えば寝ずに活動する事もできる。
そうなってしまえば人間ではなくなる気がした。
【よく言うよ。人間じゃないじゃないか】
(またか。誰だお前は)
……当然返事は無い。
「……はぁ……僕もう寝るよ」
「アスフィお風呂入らないの?」
「ああ、もう疲れ……待って。レイラこそ入らないの?」
「レイラも疲れた……もう寝るね」
「いや、それはダメだ! レイラは入るべきだよ!」
色々悩んでいてすっかり忘れていた。
俺が早く帰ろうとしていた理由を。
「……アスフィ? なんで?」
「い、いやだって女の子だし。今回はレイラも結構頑張ったでしょ? 汚れたまま寝ると衛生的にも悪いからさ!」
「……アスフィがそういうなら分かった。入る」
「うん。行ってらっしゃい」
よし! 上手く誘導することが出来た。
疲れ? そんなものとっくに吹っ飛んでいる!
今日こそ俺はレイラの胸を見るんだ。
「じゃあ僕はその間出かけているから安心して入ってね」
「うん……ありがとアスフィ」
ごめんよレイラ。扉の前で待機してシャワーの音が聞こえたらすぐ帰ってくる。よし、これでいこう。俺はここ最近頑張ったと思う。ご褒美は必要だと思う。
「ではごゆっくり~」
そうして部屋を出ようと部屋の扉を開けた瞬間-――
「やあ! アスフィ……来ちゃった」
最悪のタイミングで空気の読めないお嬢様が来客に来た。
「どちら様ですか? ……そういうの要らないので。では」
俺は扉を閉めようとした。
それをお嬢様はガシッと扉を掴んで離さない。
流石S級馬鹿力お嬢様。俺の力なんかでは扉がビクともしない。
「おいおい! つれないでは無いか! 私たちの仲だろう? それに大歓迎と言っていたでは無いか!!」
いや大歓迎だけど今じゃないの!
今先約が入ってるからその次に……ってこんな話をしてる場合じゃない。どうにかこのお嬢様を追い出さなければ、レイラをゆっくり堪能出来ない!
「今ちょっとレイラの具合が悪くてね。また今度お願いするよ」
「うむ、なんだそうだったのか……それは残念だ……ん? シャワーの音がするが、具合が悪いのにレイラは風呂に入っているのか?」
「え? あ、ああそう! シャワー浴びたら元気出るかも……ってね」
「うむ……シャワーを浴びれるくらいなら大丈夫だな! お邪魔する!!」
エルザは扉を無理やりこじ開け入ってきた。
ああー! こんな時に空気読めないの発動しないでくれよ。
今レイラが入ってるのに、エルザが居ると覗けないじゃないか!
「おおー! これは中々にいい部屋を貰ったではないか! 私もここに住もうか……うん? おいアスフィ――」
「なんだい?」
「レイラが丸見えだぞ」
「そうだね」
「丸見えなのに鼻歌を歌っているぞ」
「……そうだね」
「……これはパパに相談しないと。不埒だ」
待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
やめてぇぇぇ! 部屋変えるとか言わないよね?
「ねぇエルザ? こんな言葉を知っているかい?」
「なんだ?」
「それは言うだけ野暮ってもんだよ」
「……レイラは知っているのか?」
「もちろん! だってほら!」
おれはガラス張りのレイラが入っている風呂を指さしながら言う――
「レイラは僕たちに気づいていないだろう? あんなにもガラス張りなのに!」
「うーんそれは曇っているからでは無いのか?」
「曇っていても見えるものだよ普通は」
「たしかに」
「つまりレイラも承知の上なのさ!」
「……そう、なのか。私が変なのか」
「そうだよ! 世間をもっと知ろう? ね? エルザ」
俺は必死だった。
部屋を変えるなんて言われたらたまったもんじゃない。
そんなことになったら俺はもうレイラの裸体を見ることが出来なくなる。
実はこのシャワー室。内側からは見えなくなっている。
外側からはめちゃくちゃ見えるのに。
逆マジックミラー仕様なのだ。
つまり今のレイラは俺達が居ることに気づいていない。
「……しかしレイラは私より年下なのにかなり大きいな」
エルザはガラス張りの向こうのレイラをまじまじと見ていた。
「でしょ!? 凄いよね~ほんと、びっくりだようん」
エルザも共感してくれたのが少し嬉しかった。
エルザももちろん悪くは無い。
だが、レイラの胸はそれ以上だ。
「だが、ここまで近づいていても気づかないものなのか」
「……そうだね。レイラはお風呂に入ってる時集中するタイプだからね」
「でも、こんなに手を振っても気づかないものなのか……どれ一度声でも掛けて――」
「――エルザ! それは良くない! シャワー中に声をかけるとレイラ物凄くキレるんだよ!」
「そ、そうなのか。せっかく友になれたのに嫌われたくは無いな……うむ、やめておこう」
ふう。危ない。
ここでこの部屋に俺がいる事が知られたら俺が嫌われてしまう。それどころか口すら聞いて貰えなくなるかもしれない。
流石にそれだけは絶対に避けたい。
「……で、何しに来たのさエルザ」
「何って遊びに来たのだ。アスフィが来てもいいと言ったのだろう?」
一国の王がなにしてるんだよ。
メイドさんたちセキュリティ甘すぎだ!
もしくはエルザパパが甘やかして黙認しているのか……。
いや誘ったの俺だけど今じゃないんだよなぁ。
「今日は帰ってくれない?」
「えー! せっかく来たのにそれはないだろう!」
「一応僕より歳上だよね? 一応! 年下のお願いは聞くもんだよ? エルザ」
「一応とは何だ! むしろ年上の言うことは聞いて欲しいものだな!」
たしかにエルザは身長も胸も大きい。
故に見た目で言えば大人と言うのはわかる。
実際俺達も十五とは思っていなかったしな。
もう少し上だと思っていた。
だけど、精神年齢がそれに伴っていないんだよなぁ。
「……アスフィ、君がそう言うなら私は切り札をだす」
「な、なんだよ切り札って」
「アスフィ・シーネットよ! 我、女王エルザ・スタイリッシュが命ず! ……私と遊べ!」
うわ汚ねぇー!!
ただ遊ぶだけで王の権力使ってきやがったこの女王!
私情でそんなん使うとか卑怯だろ!
「おい! それは汚いぞ!」
「なんとでも言うがいい! さぁ早く私と遊ぼう!」
「……なら僕も切り札を出す」
「なんだ? 言ってみろ」
「エルザのパパを呼ぶ」
「構わない。パパにはちゃんと友達と遊んでくると伝えてある」
やっぱりあの父親黙認どころか容認していたのかよ!
娘にとことん甘いなあの父親!!
「……はぁもう分かったよ、僕の負けでいいよ」
「よし! ならゲームをしよう。最近庶民の間では流行っているというゲームだ。一度やってみたくてな」
「なんて言うゲームなの?」
「王様ゲームというやつだ!」
「一人でやってろっ!!」
この後レイラがシャワーから出てきて、
俺達は正座をさせられ怒られた。
そして案の定しばらく口を聞いてくれなかった。
***
「……ねぇレイラ……ごめんって」
「ハッハッハ! アスフィも馬鹿なヤツだ! 不埒なことを考えるから悪い!」
「エルザのせいだよ! このバカ女王!」
「な!? 不敬ぞ!」
「………二人とも黙って」
「「ごめんなさい」」