第26話 「泣いて泣いて泣いて」
文字数 3,054文字
気がつくと俺はいつもの天井を見ていた。
俺たちが借りている城の部屋だ。
「……あれ、模擬戦は?」
「あ、起きた! アスフィ!」
レイラがベッドの上で横になっている俺を抱きしめてきた。
抱きしめているレイラの体は少し震えていた。
……そうか、俺負けたのか。
「アスフィ……レイラ、死んだかと思った」
「……ごめんレイラ」
レイラの声は涙声になっていた。
目からは涙が溢れていた。
するといつもの部屋からは聞きなれない声がする。
「……謝るのは私の方です。すみません」
その言葉の主はルクスだ。
ルクス……彼女は凄く強かった。
俺はまた何度もあの炎に焼かれる感覚を思い出した。皮膚が爛れ落ち、再生する。その繰り返しの感覚を。
「うっ……」
「大丈夫!? アスフィ!?」
なんだろう。今日のレイラはやけに心配性だなぁ。
俺が怪我をするのなんてそんなに珍しいことじゃないだろうに。いつもエルザのサンドバッグにされているんだ。
怪我なんていつもの事じゃないか。
「私のせいです……アスフィ……あなたには大変失礼なことを……謝罪させて下さい」
ルクスが頭を下げてきた。
「大丈夫ですよ、もう平気なので。頭を上げてください……にしてもルクスさん強いですね! 僕なんかじゃ勝てるわけがありません――」
俺は自分でも何を喋っているのかよく分からない。
ただ、意味の無い言葉を羅列していた。
「あんな魔法あるなら先に言っといて下さいよ! 僕もうホントびっくりしたんですから! そうだ! 僕初めて詠唱を見たんですよ! 僕の母さんは詠唱をしなくても魔法を使うんですよ! 僕の自慢の母さんなんです――」
「……大丈夫、アスフィ」
レイラが涙を流しながら強く抱き寄せてきた。
「もう心配しないで……大丈夫だから」
「え? なにが? レイラどうしたの? 今日はやけに心配性だね! でもそんなレイラも可愛いね! ほら胸が当たってるよ! また触っちゃうよ~ほらほら――」
「いいよ、アスフィが触りたいならいくらでも……」
「どうしたの……さ……僕は何とも………………こわかった」
俺は炎に焼かれる感覚が消えなかった。
ダメージは既に完治している。
だが、あの何度も炎に炙られる感覚、皮膚が焼けただれる感覚がどうしても消えてくれないい。何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……。
その感覚が消えてくれない。
これはきっと俺の記憶を消さない限り、忘れることは無いだろう。
「僕は……俺は…………怖かったんだよ……レイラ」
「…………うん、分かってる」
「……何度も炎に焼かれる感覚が消えないんだ。何度も死にたいと思ったんだ! でも……母さんが俺を引き留めてくれた。死ぬなって……」
「……うん」
「だから俺は……俺は生きることに……した」
俺はレイラの胸で泣いていた。周りなんて気にせずに。
ただただ、レイラの胸でひたすら泣いた。
ルクスは申し訳なさそうな声で一言言う。
「………本当にすみませんでした」
***
ひとしきり泣いてようやく落ち着いた。
レイラの胸は柔らかくて暖かい。なんだかすごく落ち着く。
ずっとこうしていたいな……。
「――そのニヤケヅラに戻ったということは、落ち着いたかな、アスフィ?」
エルザが口を開いた。
「……え!? いつから居たの!?」
「……うむ、ずっといたぞ」
なんてことだ。レイラの豊満な胸で泣いていたのが見られていた。
めちゃくちゃ恥ずかしい……!!
し、死にたい……。
「……まぁなんだ、泣きたい気持ちは分かる。私も昔はよく泣いていたものだ。だから私は何も言わない。その柔らか~い胸で今日は休むといい」
「うん、そうするよ。なんだか今日はレイラが優しいからこの胸で休むことにする……」
「……アスフィがそうしたいなら……いいよ」
あれ? いいの?
なんだか今日のレイラは本当に変だなぁ。
いつもなら殴られるとこなんだけど……。
「……あの……アスフィ……すみませんでした」
ルクスがまた謝ってきた。もういいのに。
と思っていたらレイラが部屋に響きわたる声で言い放った。
「アスフィに近づくなっ!!!!!!!!!」
レイラは俺の頭を胸に抱きながら、『獣化』しルクスに言い放つ。
「お前のせいでアスフィがこんなことになったんだ!!!! お前はアスフィに近づくな!!! さっさと出てけ!!!」
レイラは怒鳴り散らした。その怒号は城全体に響き渡る。
そういえば、レイラが怒っているところを見たのはいつぶりだろうか。俺が剣術の才能がないからと弱音を吐いたあの時以来じゃないだろうか。レイラ、怒ると怖いんだよなぁ……。
「お、落ち着いて、レイラ。僕はもう平気だから……」
「……大丈夫だよ、アスフィ。アスフィはレイラが守るから。心配しないで」
そういってレイラは俺を強く抱き締めた。
「うん、気持ちはありがたいけど、ルクスさんも悪気があってやったことじゃないみたいだしさ。許してあげよ? 僕はもう気にしてないから」
「……ウソツキ。アスフィ体が震えてる」
どうやら俺は体が震えていたらしい。自分でも気づかなかった。何度死にたくても死ねない時間。何度も何度も焼かれては回復する。それが体に、頭に記憶に……深く刻み込まれた。
「……ルクスを許してやってくれレイラ」
そう発言したのはエルザだった。
「……確かに彼女は手加減を知らない」
お前が言うな!!! お前が!!
「だが、アスフィもまた私が止めなければ、ルクスを殺していたところだ。……痛み分けというところではどうだろうか」
エルザはルクスも悪いが俺も悪い。痛み分けという案を提示してきた。たしかに、このままだと埒が明かないしな……。
「……そうだよ、レイラ。僕はもう大丈夫。だから許してあげて?」
「……レイラはまだこの女を許さない。……でもアスフィがいいならレイラはもう何も言わない……」
許せはしないが理解はしたようだ。ありがとう、レイラ。
心配してくれるその気持ちが俺は嬉しいよ。
「……ありがとうございます。レイラさん」
「……別に許したわけじゃない」
レイラは最後までレイラだった。
「よし! では仲直りできたということで! 早速本題に入ろう!」
エルザがパンッ! と手を叩き話し始めた。
切り替えが早いんだよなぁ。まぁすごく空気が重かったから、いいけど。空気の読めないエルザが今はただただありがたい。
「今回の模擬戦、勝者はアスフィだ! よってルクスはアスフィに魔法を教える! いいね?」
「……あ、そうですね……でも私に教えられるものなんて」
「僕はルクスさんの魔法をもっと知りたいです。使えなくても構いません。この世界にどんな魔法があるのか……それを知るだけでも価値があります。実際僕は今回の魔法を初めて見ましたし」
今回の喰らった魔法はトラウマになったかもしれない。
だが、この世界の攻撃魔法を知れば、次にまた同じ攻撃魔法を使う者に会った時対策が錬れるかもしれない。俺は今まで、攻撃魔法を使える人物に出会わなかった。そもそも母さん以外の魔法使いに会った事すら無かった。それが今回の模擬戦で仇となったわけだ。
「……分かりました。私は敗者の身……教えましょう」
「ありがとうございます!」
こうしておれは、ルクス・セルロスフォカロから魔法を教えてもらうことになった。
あれ? ……俺勝ったの?
俺たちが借りている城の部屋だ。
「……あれ、模擬戦は?」
「あ、起きた! アスフィ!」
レイラがベッドの上で横になっている俺を抱きしめてきた。
抱きしめているレイラの体は少し震えていた。
……そうか、俺負けたのか。
「アスフィ……レイラ、死んだかと思った」
「……ごめんレイラ」
レイラの声は涙声になっていた。
目からは涙が溢れていた。
するといつもの部屋からは聞きなれない声がする。
「……謝るのは私の方です。すみません」
その言葉の主はルクスだ。
ルクス……彼女は凄く強かった。
俺はまた何度もあの炎に焼かれる感覚を思い出した。皮膚が爛れ落ち、再生する。その繰り返しの感覚を。
「うっ……」
「大丈夫!? アスフィ!?」
なんだろう。今日のレイラはやけに心配性だなぁ。
俺が怪我をするのなんてそんなに珍しいことじゃないだろうに。いつもエルザのサンドバッグにされているんだ。
怪我なんていつもの事じゃないか。
「私のせいです……アスフィ……あなたには大変失礼なことを……謝罪させて下さい」
ルクスが頭を下げてきた。
「大丈夫ですよ、もう平気なので。頭を上げてください……にしてもルクスさん強いですね! 僕なんかじゃ勝てるわけがありません――」
俺は自分でも何を喋っているのかよく分からない。
ただ、意味の無い言葉を羅列していた。
「あんな魔法あるなら先に言っといて下さいよ! 僕もうホントびっくりしたんですから! そうだ! 僕初めて詠唱を見たんですよ! 僕の母さんは詠唱をしなくても魔法を使うんですよ! 僕の自慢の母さんなんです――」
「……大丈夫、アスフィ」
レイラが涙を流しながら強く抱き寄せてきた。
「もう心配しないで……大丈夫だから」
「え? なにが? レイラどうしたの? 今日はやけに心配性だね! でもそんなレイラも可愛いね! ほら胸が当たってるよ! また触っちゃうよ~ほらほら――」
「いいよ、アスフィが触りたいならいくらでも……」
「どうしたの……さ……僕は何とも………………こわかった」
俺は炎に焼かれる感覚が消えなかった。
ダメージは既に完治している。
だが、あの何度も炎に炙られる感覚、皮膚が焼けただれる感覚がどうしても消えてくれないい。何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……。
その感覚が消えてくれない。
これはきっと俺の記憶を消さない限り、忘れることは無いだろう。
「僕は……俺は…………怖かったんだよ……レイラ」
「…………うん、分かってる」
「……何度も炎に焼かれる感覚が消えないんだ。何度も死にたいと思ったんだ! でも……母さんが俺を引き留めてくれた。死ぬなって……」
「……うん」
「だから俺は……俺は生きることに……した」
俺はレイラの胸で泣いていた。周りなんて気にせずに。
ただただ、レイラの胸でひたすら泣いた。
ルクスは申し訳なさそうな声で一言言う。
「………本当にすみませんでした」
***
ひとしきり泣いてようやく落ち着いた。
レイラの胸は柔らかくて暖かい。なんだかすごく落ち着く。
ずっとこうしていたいな……。
「――そのニヤケヅラに戻ったということは、落ち着いたかな、アスフィ?」
エルザが口を開いた。
「……え!? いつから居たの!?」
「……うむ、ずっといたぞ」
なんてことだ。レイラの豊満な胸で泣いていたのが見られていた。
めちゃくちゃ恥ずかしい……!!
し、死にたい……。
「……まぁなんだ、泣きたい気持ちは分かる。私も昔はよく泣いていたものだ。だから私は何も言わない。その柔らか~い胸で今日は休むといい」
「うん、そうするよ。なんだか今日はレイラが優しいからこの胸で休むことにする……」
「……アスフィがそうしたいなら……いいよ」
あれ? いいの?
なんだか今日のレイラは本当に変だなぁ。
いつもなら殴られるとこなんだけど……。
「……あの……アスフィ……すみませんでした」
ルクスがまた謝ってきた。もういいのに。
と思っていたらレイラが部屋に響きわたる声で言い放った。
「アスフィに近づくなっ!!!!!!!!!」
レイラは俺の頭を胸に抱きながら、『獣化』しルクスに言い放つ。
「お前のせいでアスフィがこんなことになったんだ!!!! お前はアスフィに近づくな!!! さっさと出てけ!!!」
レイラは怒鳴り散らした。その怒号は城全体に響き渡る。
そういえば、レイラが怒っているところを見たのはいつぶりだろうか。俺が剣術の才能がないからと弱音を吐いたあの時以来じゃないだろうか。レイラ、怒ると怖いんだよなぁ……。
「お、落ち着いて、レイラ。僕はもう平気だから……」
「……大丈夫だよ、アスフィ。アスフィはレイラが守るから。心配しないで」
そういってレイラは俺を強く抱き締めた。
「うん、気持ちはありがたいけど、ルクスさんも悪気があってやったことじゃないみたいだしさ。許してあげよ? 僕はもう気にしてないから」
「……ウソツキ。アスフィ体が震えてる」
どうやら俺は体が震えていたらしい。自分でも気づかなかった。何度死にたくても死ねない時間。何度も何度も焼かれては回復する。それが体に、頭に記憶に……深く刻み込まれた。
「……ルクスを許してやってくれレイラ」
そう発言したのはエルザだった。
「……確かに彼女は手加減を知らない」
お前が言うな!!! お前が!!
「だが、アスフィもまた私が止めなければ、ルクスを殺していたところだ。……痛み分けというところではどうだろうか」
エルザはルクスも悪いが俺も悪い。痛み分けという案を提示してきた。たしかに、このままだと埒が明かないしな……。
「……そうだよ、レイラ。僕はもう大丈夫。だから許してあげて?」
「……レイラはまだこの女を許さない。……でもアスフィがいいならレイラはもう何も言わない……」
許せはしないが理解はしたようだ。ありがとう、レイラ。
心配してくれるその気持ちが俺は嬉しいよ。
「……ありがとうございます。レイラさん」
「……別に許したわけじゃない」
レイラは最後までレイラだった。
「よし! では仲直りできたということで! 早速本題に入ろう!」
エルザがパンッ! と手を叩き話し始めた。
切り替えが早いんだよなぁ。まぁすごく空気が重かったから、いいけど。空気の読めないエルザが今はただただありがたい。
「今回の模擬戦、勝者はアスフィだ! よってルクスはアスフィに魔法を教える! いいね?」
「……あ、そうですね……でも私に教えられるものなんて」
「僕はルクスさんの魔法をもっと知りたいです。使えなくても構いません。この世界にどんな魔法があるのか……それを知るだけでも価値があります。実際僕は今回の魔法を初めて見ましたし」
今回の喰らった魔法はトラウマになったかもしれない。
だが、この世界の攻撃魔法を知れば、次にまた同じ攻撃魔法を使う者に会った時対策が錬れるかもしれない。俺は今まで、攻撃魔法を使える人物に出会わなかった。そもそも母さん以外の魔法使いに会った事すら無かった。それが今回の模擬戦で仇となったわけだ。
「……分かりました。私は敗者の身……教えましょう」
「ありがとうございます!」
こうしておれは、ルクス・セルロスフォカロから魔法を教えてもらうことになった。
あれ? ……俺勝ったの?