第１８話　「デート」

　ここ最近ずっと剣術修行の日々だ。
　相手はエルザの日とエルフォードさんの日で分かれている。
　エルザの日は本当に憂鬱でしかない。
　ほぼ俺たちはサンドバッグである。いや、レイラは違うか。
　しかし、着実に強くなっていた。俺もレイラも。
　
　――そんなある日。
　
　今日は剣術修行が久しぶりのオフの日だ。
　いつぶりだろうか。
　久しぶりの休みでどう過ごせばいいか分からない様になっていた。
　確か以前は街に出て『呪いの解呪』について、
　聞き込みをしたりなんかしていたっけか。
　ここに来てだいぶ経つ。半年は経つだろう。
　もちろん父さんには手紙を書いておいた。元気にしているという事と、無事ミスタリス王国に辿り着いたという旨を。
　
「……ねぇレイラ」
「なに？」
「デートしよっか」
「……え？」
　
　レイラは飲んでいたお茶を吹きだした。
　
　＊＊＊
　
　ミスタリス王国は広い。
　剣術修行をする前にも見て回ったが、
　やはり何回見ても飽きないものだ。
　だが、聞き込みをしていたから店についてはまだ一度も入ったことは無い。
　
「レイラはどこか行きたいとこある？」
「……アスフィに任せる……よ」
　
　任されてしまった。
　とは言っても俺も分からないんだよなぁ。
　レイラはさっきから俯いてばかりだ。
　やはり、大人数が居るところは苦手なのだろう。
　だが今日はリフレッシュしてもらうのが目的だ。
　ここ最近ずっとレイラは頑張っている。
　もちろん俺も努力を怠ってはいない。
　しかしレイラは『獣化』を着実にモノにしている。
『獣化』は使う度に疲労が凄いらしい。
　俺の『ヒール』で回復はしているが、
　それでもリフレッシュは大事だ。
　そう思って今回レイラとデートに来ているのだ。
　
「お！　君達はエルザ様と一緒にいた子供達じゃないか」
　
　商人のおじさんが話しかけてきた。
　確か、初めてここに来た時だったな。
　エルザと城に向かう途中いろんな者に声をかけられた。
　主にエルザだが。その道中俺は軽く会釈をしていた。
　その人物の一人なのだろう。俺は全く覚えていないが。
　
「あ、どうも」
「お？　君達デートかい？　若いねぇ」
「はい、今日はお休みなのでお出かけしています」
「ほう？　そりゃいいな！　そこのお嬢ちゃんもえらくべっぴんさんじゃあねぇか！　彼女か？　はっはっは！」
「でしょ？　僕の妻です」
　
　俺は自慢げにレイラを紹介した。
　レイラはまた下向いている。冗談のつもりで言ったんだが、
　そんなに嫌だったのだろうか……。
　
「えっと、おじさん」
「なんだい？」
「僕達外から来ていて、まだこの街について詳しくないんです。デートにオススメのお店とかありますか？」
「うーん、デートにか……」
　
　商人のおじさんは顎に手をやり考え始めた。
　このおじさんはどうやら悪い人では無さそうだ。
　小太りで口元に髭を生やしている。
　いかにも商人って感じだ。そしておじさんは指を指し、
　
「……そうだね、あそこにある店に行ってみるといい」
「あそこは？」
「あの店は服やアクセサリーなんかが売っている。今君たちが着ている服ももちろん素敵だが、デートならもうすこしラフな格好でもいいんじゃないかい？」
　
　俺たちはいつもの服だ。
　俺は黒のスーツのようなもの。
　レイラは白を基調としたドレスのようなものだ。
　これはここミスタリスに来て入団祝いとして、
　エルザがくれたものだ。
　エルザいわく騎士団の装いとの事だが、
　他の団員達は鎧を着ていた。
　まあ俺たちはまだ子供だし、
　鎧を着れないとかそういう事だろうか？
　とはいえ確かにレイラはともかく俺はデートにしては堅苦しい装いというのは一理ある。
　
「分かりました！　教えて頂きありがとうございます！」
「いいってことさ、楽しんでおいで」
　
　レイラはまだ人見知りが治っていない。まだ無言のままだ。
　そして商人のおじさんが教えてくれた店に着いた。
　
「うわぁ凄い！　いろんな服があるねレイラ！」
「……うん」
「どうしたの？　さっきから何も話さないけど具合でも悪いの？」
「……だいじょう、ぶ」
　
　俺たちは店に入ることにした。
　店には沢山の服やアクセサリー類なんかが置いてある。
　中には値段が張るものも……。だが、お金なら一応ある。
　ワイバーンの一件でエルザから少し分けてもらった。
　少しとは言われたものの、その金額はウチにいた頃のお小遣いとは比べ物にならない額ではあるが。
　
　――と、俺はある服に着目した。
　
「お、おおおお」
　
　見たことがある服だ。そう、これは確かレイラの母親が良く着ていたモノにそっくりだ。この胸のやたら開けたワンピースの様なもの。こ、これは……
　
「ねぇ、レイラ？」
「なに、アスフィ」
「こ、このワンピースなんてどう――」
「――嫌だよ？」
　
　いい切る前に即答された。
　
「ですよねー」
　
　絶対似合うと思ったのになぁ。
　試着だけでもいいからして欲しかったなー。
　俺は他の服を見て回ることにした。
　
「うーん……あ、これなんてどうかな！」
　
　俺はどこか懐かしく感じる服を見つけた。
　上下ピンクでフリフリな服。
　俺とレイラが初めてあった時にレイラが来ていた服にそっくりだ。
　
「……これなんか懐かしいよね……どう？　レイラ」
「うん……可愛い」
　
　どうやらお気に召した様だ。
　よし、これを買おう。
　
「すみません、これ下さい」
　……
　……
　…………
　
「凄く似合っているよ！　レイラ」
「……そう？　ありがとうアスフィ」
　
　レイラは元気を取り戻した様だ。良かった良かった。
　まだお金が余っているなぁ。使い切らなくてもいいのだが、
　次いつオフの日があるか分からない。
　俺は今を楽しむと決め、色々見て回ることにした。
　しかし、特に欲しい物は見つから無く、気づけば夜になっていた。
　
「そろそろ帰ろっかレイラ」
「……うん、そうだね」
　
　――と俺はある大事なことを忘れていた。
　
「あ、そうだ！　レイラ、ちょっとここで待ってて！」
「え？　うん分かった」
　
　俺は最初に入った服屋にもう一度寄り、
　ある物を買った。
　
「……おまたせレイラ！　じゃあ帰ろっか」
「うん」
　
　こうして『デート』は終わりを迎え帰ることにした。
　城に帰る俺達はもう門番相手にも顔パスで入れる。
　メイド達も最初の方こそ苦手だったが、
　今では俺の尊敬するランキングの四位に入っている。
　このメイド達はこの城のほぼ全ての仕事を任されている。
　なんせトップがアレ(・・)だ。苦労が絶えないだろう。
　数十人いるメイド達とも話す機会が増えた。大体顔も覚えた。
　世間話なんかをするような仲になったのだ。
　
「いつもご苦労さまです」
「いえいえ、なんて事ないですよ……いつもの事ですから」
　
　俺はメイドに労いの言葉をかけた。
　その後、俺たちはエルザ達と食事を済ませ部屋に戻った。
　
「……ふぅ、久しぶりのお出かけ楽しかったね！」
「……うん」
　
　あ、そうだこれを渡さなければ。
　
「はい、これ！」
「なに？　これ」
「プレゼントだよ、レイラ今日誕生日でしょ？」
「……アスフィ覚えてて、くれたんだ」
「もちろん！　もう付き合いも結構長いからね」
「……ありがとうアスフィ」
　
　俺がレイラにプレゼントしたのは、猫の形をした髪飾りだ。
　最初にあの店に入った時、レイラに似合いそうだと思っていたのだ。だが、この髪飾り結構な値段がした。
　俺は他にいいプレゼントになるようなものがないかと、
　色々見て回ったが結局これに落ち着いたのだ。
　おかげでワイバーンで得た金はほとんど無くなったが、
　レイラが喜んでいるのを見て、俺は買った甲斐があったと思った。
　
「付けてみてもいい？」
「もちろん！」
「……どう、かなアスフィ」
「うん！　すごく似合っているよ！　素材がいいからね！」
　
　レイラはまた下を向いていた。俺は世界一可愛いと思った。
　
「今日はもう疲れたし部屋に戻って、シャワー浴びて寝ようか」
「……うん」
　
　その後、シャワーを浴びベッドに入った。
　
　……
　…………
　………………
　　
「……ねぇアスフィ……体がアツい」
　
　そう言ってレイラが俺のベッドに入ってきた。