第41話 「ミスタリス王国陥落2」【エルザ視点】

文字数 3,775文字

 レイラが死んだ。私はどうしたらいい……。
 教えてくれアスフィ…………『()』なら……。
 
「エルザちゃん! ここに…………そうか」
 
 城の前でレイラを抱え竦んでいる私の前に、パパがやってきた。どうやらパパは全部を察したみたいだ。
 パパ……私はどうしたらいいの。
 
「……エルザちゃん、彼女のことは残念だ。だけどね、エルザちゃん。パパもピンチなんだ。助けてくれないか?」
「…………パパ……私……」
「………気持ちは分かる。私はエルザちゃんより冒険者歴が長い。このような経験は何度もしてきた。だからパパはあえて
 こう言うよ――」
 
 
 
「立て、エルザスタイリッシュ。そなたはまだやるべき事があるはずだ! レイラ・セレスティアの為にも!!」
 
 パパが初めて私をエルザと呼び捨ててで呼んだ。
 もしかすると、初めてでは無いかもしれない。
 だがこんな顔で言われたのは初めてだ。
 
 そうだ。まだこのまま……負けたままではいられない。
 私達は大事な友達を……民を……『宝』を奪われた。
 奪われたままでは終わらせない……!
 ありがとう、パパ。立ち上がる勇気をくれて。
 
(やっぱり私のパパだ。私はまだまだ子供だな……)
 
「……パパ、もう少しだけ待ってて貰える? 私、レイラを寝かせてあげなくちゃ。こんな冷たい所に寝かせるのは可哀想なの」
「……ああ、そうしてやりなさい」
 
 私は城の中へと戻った。
 中にはまだ『やつら』の残党がいた。
 
「邪魔だァァァァァァァァァァァァァァァ」
 
 私は両手でレイラを抱き抱えながら、斬っていく。
 刀を口に咥え、ただただ斬って前進する。
 
(レイラ、少し揺れるが、我慢してくれ……)
 
 私はアスフィとレイラの部屋へと走った。
 何度も何度も立ち塞がる敵を斬りながら前へ進んだ。
 そして辿り着いた。アスフィとレイラの部屋だ。
 
「………はぁ……はぁ………着いたぞ、レイラ……」
 
 レイラの血がポタポタと滴っている。
  
「………………レイラ、おやすみ。友よ」
 
 私はレイラをベッドに寝かせた。
 これでレイラは安からに眠れることだろう。
 笑っている……きっといい夢でも見ているのだろう。
 
(そうだ、アスフィに手紙を書こう)
 
 私は手紙を書く事にした。
 
「……手紙など、久しぶりだ。なんて書こうか」
 
 まずは敵の情報だ! そしてこのミスタリスに起きた事、その現状……それと……
 
「あああああああああああくそぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 
 分からない! なんて書けばいいのか分からない……!
 君の大事な人を死なせた……? 本当にすまない……?
 どれも間違っていない。書きたいこと、言いたい事は沢山ある。しかし、私はこの国の王。王がすべき事は国を守る事だ。
 民は大勢死んだ。しかしまだ、生き残っている者も居る。
 なら私はその者達を守る義務がある……!
 
「…………なんて……ただの見栄だな」
 
 それでも、どうしても謝りたい。そして、あわよくば助けに――
 
 ……
 …………
 ………………
 
 使い鳥を呼び、足に手紙を括りつけた。
 
「……頼んだぞ、渡す相手はフォレスティアに住む、王子キャルロットだ。最速で頼む」
 
 使い鳥は物凄い速さで飛んで行った。
 
(さて……私はパパの元にいかなければ)
 
 私は城を出た。パパと賊のリーダーらしき男が戦っていた。
 黒いフードを被っていて顔がよく見えない。
 その手には剣を持っていた。剣士だ。
 
 パパが必死に戦っている……。
 
「はぁ……はぁ……」
「どうやら、お疲れのようだなエルフォード・スタイリッシュよ」
「……私はな……だがここからは親子一緒に戦うことにしよう」
「なに……!? エルザ・スタイリッシュ!?」
 
 こいつが今回の首謀者? 生かしては置けない。
 
「待たせてごめんね、パパ。コイツは私がやる。下がってて」
「……エルザちゃん、ごめんよ」
「……うん、任せてパパ」
 
 パパはボロボロだった。
 左手はちぎれかかっていて、今にも落ちそうだ。
 体中、血で滲んでいた。
 
(パパ……ありがとう。ここからは私に任せて休んでてね)
 
「……エルザ・スタイリッシュ。通称『狂人のエルザ』。……お前と戦えることを誇りに思うぞ。エルブレイドの孫よ。はっはっは!」
「…………お前たちは何者だ」
「……私達は『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』」
「…… 『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』……そうかやはりお前達がそうなのか」
 
 (アスフィに宛てた手紙には記しておいたが、どうやら正解だったようだな)
 
 パパからその名前を聞いたことがある。
 パパも昔、現役の冒険者でパーティを組んでいた時、ダンジョンでコイツらに襲われたことがあったと聞いた。まさかそんな連中がくるとは。
 
「お前たちの目的はなんだ」
「目的は既に達成した……」
「……レイラか」
 
 レイラを殺すのがこいつらの目的。
 なぜ、レイラなのだ。あいつが何をしたというのだ。
 
「……だが、俺は決めた。ターゲットは始末した。裏切り者の血族には相応しい死だっただろう。しかし、俺はこの国を徹底的に潰すことにする」
「……なに?」
「『狂人のエルザ』よ。貴様が生きていては(いず)れ、俺達の計画の障害になりそうだ。よってこの国と共に死んでもらう。貴様にもしこの先『子』でも遺されたら面倒だ」
「……それは安心しろ。私のお腹にまだ『子』は居ない。未来の旦那は既に決めてあるんでな」
「……そうか。だが、貴様を殺すことに変わりは無い。エルブレイドの孫である以上、早めにその才能の芽を摘んでおくに越したことは無いからな」
「ならやってみるがいい。この恵まれた才能の芽やらを存分に味あわせてやる」
 
 私だって貴様らを許すわけが無い。
 友を殺されたのだ。どこへ逃げようとも追いかけて確実に殺してやる。でなければ、私の気が済まない。
 
「『超身体強化』(ハイブースト)!」
「貴様の力は承知の上だ。『身体強化解除(ディスペルブースト)』」
「な!?」
 
 なんだ……私の『超身体強化(ハイブースト)』が消えた?
 どういうことだ? 魔法使いでもないのにどうしてこんな真似が……?
 
「はっはっはっ! 驚いただろう。……あまり我らを甘く見てもらっては困るぞ『狂人のエルザ』」
 
 まさかあいつが手に持っている『赤い玉』……あれのせいか?
 だが、あんなマジックアイテム聞いたことがないぞ!
 なるほど、パパはこれにやられたのか。
 パパがこんな連中に負けるはずがないとは思っていたが、
 こんなものをやられては勝てるはずがない。
『剣士』泣かせのマジックアイテムだ……。
 
「……これは厳しいな……ははは」
「俺は剣術の才能がある。元々『()()()()()』を使わなくても貴様に負ける気など無いのだ。しかし、確実に貴様を殺すためには仕方ない。手段など選んでられん」
「よく言う。だったらハナからそんなものを使わず正々堂々戦え。それが出来ないのは自らの弱さを認めているからだろう」
「……確かに、俺は剣の腕ではお前に負けているだろう。だが、俺の十八番は剣の腕では無い。あまり俺を舐めるなよ? ガキが」
「……言ってくれるな。お前もあまり私を舐めないで欲しいものだ。『狂人のエルザ』の異名の由来をその体に教えてやる」
 
 そうだ。私はエルザ・スタイリッシュ。
 エルフォード・スタイリッシュの娘であり、
 最強の師であり、最恐の祖父であるエルブレイド・スタイリッシュの孫だ。『超身体強化(ハイブースト)』が封じられたからなんだ。思い出せ……私本来の力を。私本来の本性を。
 
 
 ***
 
 
 どれくらい経っただろうか……。もう覚えちゃいない。
 もう痛みもほとんど消えた。今はただコイツを……
  
 
「エルザちゃあああああああああああああああん」
 
 パパの声だ。
 
「はぁ……はぁ……なんだコイツは何故まだこうも動ける……」
「……………………………………」
「……なるほどコイツは確かに『狂人のエルザ』だ。両腕が無いのにここまで食らいついてくるとは思っていなかった」
「エルザちゃん…………」
「仕方ない……お前達いぃぃぃぃぃ! 増援を呼べぇぇぇ!」
「な……なに……」
 
 増援だと。まだそんな数がいるのか。
 既にこのミスタリスには百を超える『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』が居る。
 そのほとんどはパパが倒した。
 
 なのにその上まだ仲間を呼ぶ気かコイツら……!
 もう十分だろう……やめてくれ。
 これ以上この国を……傷つけないでくれ……
 もう十分すぎる程、傷ついた。
 
(おじいちゃんがいれば……こんなヤツら……) 
 
 せめて、こいつだけでも……
 こいつを生きて返さない。こいつらは『悪だ』。
 レイラの分まで……相打ちでもいい。
 ああ……そうだ……相打ちになったらレイラに会えるな。
 レイラに会ったら謝ろう……。アスフィに伝えることは出来なかったと。
 
(パパごめんなさい……私はコイツを道連れにレイラに会いに行きます。先逝く不幸をお許し下さい)
 
 
「同じ者を好きになったもの同士天国で語ろうではないか」
   
 アスフィ。最後に君の顔を見たかった。 
 
「――それなら尚更生きていて貰わなければ困るよエルザ」
   
 
 ……聞き慣れた声だ。私はこの瞬間凄く安心した。
 もう大丈夫だと。もう休んでいいと。
  
 そして私は静かに眠りについた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

・アスフィ・シーネット 主人公。

12歳 ヒューマン 戦士顔に茶髪。


{回復魔法しか使えない……。何故だ……。


・レイラ・セレスティア 

13歳。

獣人 黒髪猫耳の女の子 胸が大きい

・エルザ・スタイリッシュ 

ミスタリス王国の女王

金髪 黄色目 ヒューマン

副団長 冒険者等級 S級認定 15歳


・ルクス・セルロスフォカロ 

21歳 身長、胸共に小さい女の子。

エルザと同じくS級認定。

ただし稀に『僕っ娘』になる。白髪。赤目。


・ゼウス・マキナ

???

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み