第28話 「接近」
文字数 3,585文字
俺は今大ピンチである。
レイラに、ルクスとレイラどっちが大事なの?
と、聞かれている。俺は正直に答えたはずなんだ。
「レイラに決まってるじゃないか! だってほら! ……胸! そう! 胸だって触った仲だよ? ルクスのはまだ触ってないから!」
俺はどうやら言葉選びを間違ったらしい。女心は難しい……。
「……『まだ』? ……ふーん。ってことは触るつもりなんだねアスフィ」
「いや! 違うよ?! いや、まぁ気にならないと言えば嘘になるかもしれないけど――」
どうやら俺も嘘はつけないらしい。
レイラに殴られた。それも女の子が男の子の顔面にグーパンだ。俺は鼻から血を流し、軽く吹っ飛んだ。レイラはそのまま部屋を出ていった。殴られた箇所を『ヒール』にて治すが、流石に相手の気持ちを癒す事は出来ない。
「……『ヒール』も万能じゃないんだよなぁ」
そして暫く口をきいてくれなくなった。
***
そしてしばらく経った。
レイラが口をきいてくれない以外はいつも通りだ。
朝は剣術、昼は魔法。夜は部屋にいるのが気まずいので、街で時間を潰す日々だ。
「……俺なんか間違ったこと言ったかなぁ」
「君は大体間違えているぞ、アスフィ!」
街の中央にある噴水広場近くの椅子に座っていると、
エルザが話しかけてきた。寝巻き姿である。思わず俺は見蕩れてしまった。相手はあの野蛮なエルザなのに……。
「どの辺が?」
「……うーん大体だ!」
「いやだからどの辺だよ!」
相変わらずエルザは考え無しに喋るヤツだ。
今はエルザ副団長ととしてではなく、お嬢様仕様だ。
服装がピンクの水玉の部屋着になっている。
そんな格好で仮にもこの国の女王が街に出てくるなよ……。
それで騒ぎにならないこの国も国だが。
「……レイラと喧嘩でもしたのかい?」
「まぁね」
「なるほど! アスフィ、君は今部屋に居づらくて、こんなところで時間を潰しているのか!」
「そうだよ! ……いちいち言わなくていいよ……」
エルザは変に勘が鋭い。勘が鋭いだけで気が利くヤツではないが。それがまたタチが悪いのだ。
「……私はこの国の女王だ。君たちの恋愛事情は分からない」
「なんだよ、急に」
「レイラはアスフィ、君のことを好いている」
「……うーんどうなんだろうね。僕らまだ子供だし」
「子供で子供を作ろうと……?」
「……」
こいつはいちいち癇に障るやつだ。
正論ばかり言ってくる。
「まぁそれだけじゃないさ。レイラも、アスフィも、そして……私も。恋愛というのがよく分かっていないのだろうな」
「……らしくないね」
「私も恋する年頃だ。恋で悩むことくらいあるさ」
「ふーん……そうなんだ」
エルザも恋するのか……相手はどんなやつなんだろう? きっと俺なんかより身長が高くて、カッコイイ魔法使いと結婚するんだろうな。
「だから君たちはもっとイチャイチャするべきだ!」
なぜそうなる……今の話からなぜ。
「だが、程々にしたまえよ?」
「……なにが?」
「イチャイチャするのは構わんが、する時はひに――」
「分かった分かった! しないよ!」
このお嬢様は何を言っているのやら。
そもそも俺らはまだ子供だ。
そういうのは大人のすることだ。まだダメだ……そうだよな?
「ま、要するに謝って仲直りしろということだ!」
「何回も謝ってるよ……でも許してくれない」
「近づいて謝ってみたらどうだ? レイラもそれを望んでいるはずだ」
近づいて……か。
確かに今まで謝った時はベッドの上で座っているレイラに、
扉の入口付近から謝っていた。つまり距離が離れていた。
それをエルザに伝えると――
「……バカか君は!!!」
と怒られた。エルザに怒られる日が来るなんて……。
なんだか少し悔しい。
「だって殴られるの嫌だし……痛いし……血だって出るし」
「気味が悪いんだから殴られる覚悟くらいするべきだろう? それにアスフィ、君には『ヒール』があるだろう」
ぐっ……ぐぅのねも出ない。
「いいか? 次はちゃんと近くで目を見て謝ってやれ」
「わ、分かったよ……ありがとうエルザ」
「礼などいいさ! ……それに、アスフィもレイラも私の〝友達〟だ。友人同士がこのまま喧嘩をしたままなんていうのは、私は嫌なのだ……」
エルザは夜空を見上げていた。その横顔にいつもの野蛮なエルザの面影は無かった。
「…………ルクスも、レイラと仲直りして欲しいものだな」
エルザは悲しげな顔でポツリと呟いた。
こうしてエルザとの夜会を終えた俺は、
部屋に戻ってレイラにもう一度謝ることにした。
そういえば、エルザと二人っきりで喋ったのは初めてかもしれないな。いつもレイラが近くにいた気がする。
***
早速扉の前で緊張する俺。
いつも気にせず入る部屋なのに今日はやけに緊張する。
だが、こんなところでじっとしていても始まらない。
よし、呼吸を整え……開ける!
「――レイラ! この前はごめん! ……あれ?」
レイラは風呂に入っていた。
昔と違ってガラス張りではないから、覗く事は出来ない。
「……なんだ風呂かぁ」
俺は待つことにした。レイラは風呂が好きみたいで、いつも長い。だが、俺はこのレイラが風呂に入っている時間が嫌いじゃない。妄想が捗るからだ。
「……って何を考えてんだ俺は!! ……おっとまずいまずい」
俺は時々自分を抑えられない節があるな。妄想は程々にしておかなければ。
【妄想は俺の十八番だ】
……
…………
………………
しばらくするとレイラが風呂から出てきた。
「や、やぁレイラ。……風呂は気持ちよかったかい?」
「………」
無視……! まぁ分かりきったことだ。
ここ最近ずっとこうだ。話しかけても返事がない。まるでただの屍のようだ。って違う違う、エルザの言っていたことを思い出せ俺――
レイラはベッドの上に座って本を読んでいた。
これはレイラのルーティンだ。
「……その本おもしろいかい?」
「……」
相変わらず無視だ。本に集中しているからではなく、
意図的な無視である。こうなったら仕方ない……! 実力行使だ! 俺はエルザの言っていた近くで目を見て話すを実行した。
「レイラ……!」
俺はベッドの上で本を読んでいるレイラの近くに行き、
レイラを真正面から見つめた。レイラとの距離は僅か二十センチ。
「うわっ! ……な、なに?」
レイラは本で顔を隠している。
これじゃエルザが言っていた目を見て話すというのが実行出来ない。そう思った俺は、本を取り上げる。
「こんなの今は必要ない邪魔だ! えいっ!」
俺は本を放り投げた。
「ああ! なにするのアスフィ!!」
ちょっと怒っていたがこれで目を見れる。
俺はレイラに謝ることにした。
「――この前はごめん……レイラ! 僕はまたレイラを怒らせたみたいだ……本当にごめん」
その距離なんと十センチ。
「ち、近いよアスフィ……」
そんなこと知るかっ! とおれは話を続ける。
「僕はレイラが好きだ!」
「……え」
「レイラはどうなの?」
「……レイラも……アスフィが好き……だよ? でも――」
そしてレイラは話を続ける。
「これが恋愛としての好きなのかが分からないんだよ……」
と言われた。確かに俺も分からない。
恋愛とは一体何なんだろう。好きとは一体何なんだろう。
そんなことを考えていたらよく分からなくなってきた……。
「……正直僕もよく分からない……だから」
「……え?」
俺はレイラの胸に触れた。もちろん鼓動を確認する為だ。揉んではいない。……ほんとだよ?
「……どう? ドキドキしてる?」
「……うん。恥ずかしいしドキドキしてるよ」
「ならこれが好きって感情なんじゃないかな?」
「……そう……なの?」
それから暫くの沈黙が流れた。
そして俺は口を開く。
「僕達はまだ子供だ。その……そういうのはまだ出来ない。だからこれで許してよ」
俺はレイラの唇にキスをした。
「……アス……フィ?」
「……ごめん。嫌だったら謝るよ」
「……嫌なんかじゃない……嫌なんかじゃないよ!!」
と今度はレイラから押し倒され再びキスをされた。
それは初めてのキスで、それでいてとても濃厚なものだった。レイラは何度も求めてくる。それは獣人だからなのか、それともレイラだからなのかそれは分からない。
ガチャッ
と、扉が開く音。もちろんその正体は。
「――どうだいアスフィ! ちゃんと謝れ……た……かい」
またしても空気の読めないお嬢様が入ってきた。
「……パ、パ、パ」
パパパ? パーティでもするのだろうか?
「パパーーーーーー!! レイラとアスフィがいやらしいことしてるぅぅぅぅぅぅぅぅ」
なんか見覚えのある出来事だった。
レイラに、ルクスとレイラどっちが大事なの?
と、聞かれている。俺は正直に答えたはずなんだ。
「レイラに決まってるじゃないか! だってほら! ……胸! そう! 胸だって触った仲だよ? ルクスのはまだ触ってないから!」
俺はどうやら言葉選びを間違ったらしい。女心は難しい……。
「……『まだ』? ……ふーん。ってことは触るつもりなんだねアスフィ」
「いや! 違うよ?! いや、まぁ気にならないと言えば嘘になるかもしれないけど――」
どうやら俺も嘘はつけないらしい。
レイラに殴られた。それも女の子が男の子の顔面にグーパンだ。俺は鼻から血を流し、軽く吹っ飛んだ。レイラはそのまま部屋を出ていった。殴られた箇所を『ヒール』にて治すが、流石に相手の気持ちを癒す事は出来ない。
「……『ヒール』も万能じゃないんだよなぁ」
そして暫く口をきいてくれなくなった。
***
そしてしばらく経った。
レイラが口をきいてくれない以外はいつも通りだ。
朝は剣術、昼は魔法。夜は部屋にいるのが気まずいので、街で時間を潰す日々だ。
「……俺なんか間違ったこと言ったかなぁ」
「君は大体間違えているぞ、アスフィ!」
街の中央にある噴水広場近くの椅子に座っていると、
エルザが話しかけてきた。寝巻き姿である。思わず俺は見蕩れてしまった。相手はあの野蛮なエルザなのに……。
「どの辺が?」
「……うーん大体だ!」
「いやだからどの辺だよ!」
相変わらずエルザは考え無しに喋るヤツだ。
今はエルザ副団長ととしてではなく、お嬢様仕様だ。
服装がピンクの水玉の部屋着になっている。
そんな格好で仮にもこの国の女王が街に出てくるなよ……。
それで騒ぎにならないこの国も国だが。
「……レイラと喧嘩でもしたのかい?」
「まぁね」
「なるほど! アスフィ、君は今部屋に居づらくて、こんなところで時間を潰しているのか!」
「そうだよ! ……いちいち言わなくていいよ……」
エルザは変に勘が鋭い。勘が鋭いだけで気が利くヤツではないが。それがまたタチが悪いのだ。
「……私はこの国の女王だ。君たちの恋愛事情は分からない」
「なんだよ、急に」
「レイラはアスフィ、君のことを好いている」
「……うーんどうなんだろうね。僕らまだ子供だし」
「子供で子供を作ろうと……?」
「……」
こいつはいちいち癇に障るやつだ。
正論ばかり言ってくる。
「まぁそれだけじゃないさ。レイラも、アスフィも、そして……私も。恋愛というのがよく分かっていないのだろうな」
「……らしくないね」
「私も恋する年頃だ。恋で悩むことくらいあるさ」
「ふーん……そうなんだ」
エルザも恋するのか……相手はどんなやつなんだろう? きっと俺なんかより身長が高くて、カッコイイ魔法使いと結婚するんだろうな。
「だから君たちはもっとイチャイチャするべきだ!」
なぜそうなる……今の話からなぜ。
「だが、程々にしたまえよ?」
「……なにが?」
「イチャイチャするのは構わんが、する時はひに――」
「分かった分かった! しないよ!」
このお嬢様は何を言っているのやら。
そもそも俺らはまだ子供だ。
そういうのは大人のすることだ。まだダメだ……そうだよな?
「ま、要するに謝って仲直りしろということだ!」
「何回も謝ってるよ……でも許してくれない」
「近づいて謝ってみたらどうだ? レイラもそれを望んでいるはずだ」
近づいて……か。
確かに今まで謝った時はベッドの上で座っているレイラに、
扉の入口付近から謝っていた。つまり距離が離れていた。
それをエルザに伝えると――
「……バカか君は!!!」
と怒られた。エルザに怒られる日が来るなんて……。
なんだか少し悔しい。
「だって殴られるの嫌だし……痛いし……血だって出るし」
「気味が悪いんだから殴られる覚悟くらいするべきだろう? それにアスフィ、君には『ヒール』があるだろう」
ぐっ……ぐぅのねも出ない。
「いいか? 次はちゃんと近くで目を見て謝ってやれ」
「わ、分かったよ……ありがとうエルザ」
「礼などいいさ! ……それに、アスフィもレイラも私の〝友達〟だ。友人同士がこのまま喧嘩をしたままなんていうのは、私は嫌なのだ……」
エルザは夜空を見上げていた。その横顔にいつもの野蛮なエルザの面影は無かった。
「…………ルクスも、レイラと仲直りして欲しいものだな」
エルザは悲しげな顔でポツリと呟いた。
こうしてエルザとの夜会を終えた俺は、
部屋に戻ってレイラにもう一度謝ることにした。
そういえば、エルザと二人っきりで喋ったのは初めてかもしれないな。いつもレイラが近くにいた気がする。
***
早速扉の前で緊張する俺。
いつも気にせず入る部屋なのに今日はやけに緊張する。
だが、こんなところでじっとしていても始まらない。
よし、呼吸を整え……開ける!
「――レイラ! この前はごめん! ……あれ?」
レイラは風呂に入っていた。
昔と違ってガラス張りではないから、覗く事は出来ない。
「……なんだ風呂かぁ」
俺は待つことにした。レイラは風呂が好きみたいで、いつも長い。だが、俺はこのレイラが風呂に入っている時間が嫌いじゃない。妄想が捗るからだ。
「……って何を考えてんだ俺は!! ……おっとまずいまずい」
俺は時々自分を抑えられない節があるな。妄想は程々にしておかなければ。
【妄想は俺の十八番だ】
……
…………
………………
しばらくするとレイラが風呂から出てきた。
「や、やぁレイラ。……風呂は気持ちよかったかい?」
「………」
無視……! まぁ分かりきったことだ。
ここ最近ずっとこうだ。話しかけても返事がない。まるでただの屍のようだ。って違う違う、エルザの言っていたことを思い出せ俺――
レイラはベッドの上に座って本を読んでいた。
これはレイラのルーティンだ。
「……その本おもしろいかい?」
「……」
相変わらず無視だ。本に集中しているからではなく、
意図的な無視である。こうなったら仕方ない……! 実力行使だ! 俺はエルザの言っていた近くで目を見て話すを実行した。
「レイラ……!」
俺はベッドの上で本を読んでいるレイラの近くに行き、
レイラを真正面から見つめた。レイラとの距離は僅か二十センチ。
「うわっ! ……な、なに?」
レイラは本で顔を隠している。
これじゃエルザが言っていた目を見て話すというのが実行出来ない。そう思った俺は、本を取り上げる。
「こんなの今は必要ない邪魔だ! えいっ!」
俺は本を放り投げた。
「ああ! なにするのアスフィ!!」
ちょっと怒っていたがこれで目を見れる。
俺はレイラに謝ることにした。
「――この前はごめん……レイラ! 僕はまたレイラを怒らせたみたいだ……本当にごめん」
その距離なんと十センチ。
「ち、近いよアスフィ……」
そんなこと知るかっ! とおれは話を続ける。
「僕はレイラが好きだ!」
「……え」
「レイラはどうなの?」
「……レイラも……アスフィが好き……だよ? でも――」
そしてレイラは話を続ける。
「これが恋愛としての好きなのかが分からないんだよ……」
と言われた。確かに俺も分からない。
恋愛とは一体何なんだろう。好きとは一体何なんだろう。
そんなことを考えていたらよく分からなくなってきた……。
「……正直僕もよく分からない……だから」
「……え?」
俺はレイラの胸に触れた。もちろん鼓動を確認する為だ。揉んではいない。……ほんとだよ?
「……どう? ドキドキしてる?」
「……うん。恥ずかしいしドキドキしてるよ」
「ならこれが好きって感情なんじゃないかな?」
「……そう……なの?」
それから暫くの沈黙が流れた。
そして俺は口を開く。
「僕達はまだ子供だ。その……そういうのはまだ出来ない。だからこれで許してよ」
俺はレイラの唇にキスをした。
「……アス……フィ?」
「……ごめん。嫌だったら謝るよ」
「……嫌なんかじゃない……嫌なんかじゃないよ!!」
と今度はレイラから押し倒され再びキスをされた。
それは初めてのキスで、それでいてとても濃厚なものだった。レイラは何度も求めてくる。それは獣人だからなのか、それともレイラだからなのかそれは分からない。
ガチャッ
と、扉が開く音。もちろんその正体は。
「――どうだいアスフィ! ちゃんと謝れ……た……かい」
またしても空気の読めないお嬢様が入ってきた。
「……パ、パ、パ」
パパパ? パーティでもするのだろうか?
「パパーーーーーー!! レイラとアスフィがいやらしいことしてるぅぅぅぅぅぅぅぅ」
なんか見覚えのある出来事だった。