第0話「ヒーラーとしての第一歩」
文字数 1,709文字
剣と魔法が当たり前の世界。
――――俺はここで生まれた……はずだ。
というのも、俺には記憶が無い。気付けばそこに存在し、何故だか分からないが魔法が使える。ただし、全く記憶が無い訳じゃない。俺は誰かに呼ばれてここに来た気がする……。
生まれたのはこの世界の筈なのに、
まるで頭にモヤがかかって隠されている様な感覚。思い出せばそこに手が届きそうな身近で、それでいて曖昧な記憶。
時々、俺の中で知らない声がする。『思い出せ』……と。
思い出せと言われても、それが出来ないから困っているのに。
無理なものは無理だ。
色々考えた結果、俺は思い出す事を諦めた――。
……
…………
………………
「――おい! ヒーラーがでしゃばってんじゃねぇ!」
「す、すみません!」
俺がボーッとしていると誰かに怒鳴られた。
そうだ……冒険者になったんだ……俺
俺は自分が冒険者になった事を戦闘中なのにも関わらず忘れて、立ち尽くしていた。そりゃ、怒られるってもんだ。
***
冒険者になって初めてのクエスト。今日俺は初めて冒険する――。
この世界は
俺は昔から攻撃魔法が使えない。
人は産まれた時、なにかの才能を持って産まれてくる。
それは魔法や剣だけじゃない、他にも様々な才能がある。
そして才能がないものは
「はぁ……俺も攻撃魔法を使えればなぁ」
俺は
当時、両親は凄く喜んだそうだ。
才能を持たない者はこの世界で生き残るのは厳しい。そんな世界で俺は才能を持って生まれた。両親が喜ぶのも頷ける。
――だが、俺が生まれ持った才能はヒーラーとしての才能だった。
それも回復魔法以外が一切使えない。
魔法といえば攻撃魔法はもちろん防御魔法、
支援魔法、そして回復魔法などがある。
その中でも攻撃魔法や剣術に長けたものは、
特に冒険者として
一番火力に繋がるからだ。
「剣術の才能でもいいんだけどなぁ」
この世界は魔物や魔獣といったものが存在する。
こいつらはどこから生まれたのかは一切の謎とされている。
ある者は魔王が生み出していると言い、またある者は神が創ったとも言う。他にも様々な噂が飛び交っているが、それは明らかになっていない。
そして、この魔物や魔獣といった存在を倒すのを
しかし、その際に筆記試験と実技試験がある。
誰でも簡単になれる訳じゃないということだ。
俺は筆記試験が平均値以上、実技試験はギリギリ赤点回避というところだった。実技試験の内容は、用意された魔物と戦って得点を得るという至ってシンプルなもの。つまり、攻撃魔法や剣術の才能がある者が圧倒的に有利。
そんな中、何とかギリギリで冒険者になれたのが俺だ。
もちろん俺は実技試験において、魔物を倒せてはいない。生き残りはしたが、悪く言えば
生存していたという点を評価されただけである。
「筆記試験を頑張っておいて良かった……」
そして今日は冒険者になって初めてのクエスト。
ぶっちゃけヒーラーはパーティに一人いれば十分。つまり……
「冒険者になって初めてのクエスト早々パーティーが集まらない……」
ヒーラー
「いきなり詰んだ……」
と冒険者ギルドの端で立ち尽くしていると誰かが声をかけてきた。
「よ! お前ヒーラーか? なら俺達んとこに来いよ。報酬は二割だ。ヒーラーなら妥当だろ?」
「い、いやぁでもそれは少なすぎるんじゃ――」
「あ? ヒーラーなんて俺たちがダメージ喰らわなければ居ても居なくても変わんねーだろ? 二割保証してやってるだけでもありがたいと思え!!」
「す、すみません! ……ではお願いします」
こうして冒険者になって初めてのクエストが始まった。
――これから語るのは、俺が冒険者を始めるまでの話だ。