第13話 「エルフォード・スタイリッシュ」

文字数 4,160文字

  俺たちの元にエルザパパがやってきた。
 彼の名はエルフォード・スタイリッシュ。
 エルザと同じ金髪だが、髪はかなり短い。
 特徴的なのはその筋肉質で大柄な体格とちょび髭だ。
 
 エルザ・スタイリッシュの実の父であり、騎士団団長である。
 彼が纏うオーラは凄まじいものだ。只者ではない。
 そう思わせるものがあった。
 女王エルザとは違った威厳あるものがあったのだ。
 娘を見るまでは……。
 
「エルザちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
 
 王室の扉が空いたと思えば開口一番そんな言葉が王室に響き渡った。
 
「行けませんっ! 団長!! 娘……エルザ様がお客様とお話中です!!」
 
 メイドがエルフォードをなんとか抑ようとしてはいるが意味はなく、ズルズルと引きずられていた。
 
「パパ!?」
「エルザちゃん!! 大丈夫なのか!?」
「な、なにが?」
 
 エルザは誤魔化そうと必死だ。
 まぁ誤魔化せるわけがないのだが。
 
「聞いたぞ! エルザちゃん! 自分の腕を切り落としたそうじゃないか! だいじょう……ぶ……なのか?」
 
 父エルフォードは娘エルザの腕をまじまじと見るが、
 なにも異常がない。そこにはたしかに腕があった。
 
「あれ……? ……腕あるじゃん。ちょっとだれー!? 嘘ついた人ー! 君か? それとも君か??」
 
 エルフォードは周りにいるメイドに次々と聴取……? している。
 
「パパ! 腕はこの通りなんともないわ!」
「それは良かったんだけど、
 どうゆうこと? パバ心配したんだぞ?」
 
 この間、俺達はまだ一言も喋っていない。
 というか唐突すぎて把握し切れていない状況だ。
 エルザが片腕を切ったかと思えば、その父が出てきたのだ。
 状況がめちゃくちゃだ。
 
「私の腕はここにいるアスフィが治してくれたの!」
「ど、どうも、アスフィです……」
 
 やっと紹介された。
 紹介が雑な気がするが、それは俺の自己紹介もだ。
 正直なんて言ったらいいか分からなかったから。
 
「……君が娘の腕を治してくれたのか?」
「はい、一応」
「そうかそうか!! それはどうもありがとう! 馬鹿な娘ですまない」
「ほんとですよ。勘弁してください」
「んん?」
「い、いやぁ、まぁ治ってよかったです、はい」
 
 自分で馬鹿な娘と言うのはいいけど、
 他人から言われるのは嫌なのかよ。
 どんだけ親バカなんだこの父親は。
 
「……エルザちゃん。腕を切り落としたと聞いたが?」
「はいパパ。私は確かに自らの腕を切り落としました」
「しかし腕がある……ん? そこにあるのは血か?」
「……はい。私の血液ですパパ」
「ああああああああエルザちゃんの血ーーーーーー!!!!」
 
 その大量の血にエルフォードはその場で崩れ落ちた。
 やかましい男だが、その反応は父として当然のものだ。
 少し大袈裟でやかましいが。
 
「……もう大丈夫です。僕が治しました」
「……ふぅ、君はアスフィと言ったね」
「はい」
「改めて感謝を。まだ名乗っていなかったな」
 
 もうだいたい分かっているから自己紹介は別にいいんだけど。
 
「パパさんですよね」
「うんうんそうそう……って違う! いや違くないけども!」
 
 キレイなノリツッコミを披露した、
 エルフォード・スタイリッシュであった……。
 
「ゴホンッ……改めて自己紹介を。私はエルフォード・スタイリッシュ。ミスタリス王国騎士団団長である。団長として副団長の……娘の危機を救ってくれたこと感謝する」
 
 今更取り繕わなくてもいいのに。
 もう初っ端からキャラ崩壊しまくりだよ。
 一瞬入ってきた時はすごくオーラがある人物だと思ったのに。
 エルザを見た瞬間キャラ崩壊だ。
 だが、そのオーラは再び戻った。
 俺はそのオーラに威圧された。……強い。この人は。
 
「パパそのオーラ出すのやめて。みんな脅えるから」
「ああ、ごめんよエルザちゃん……」
 
 メイド達の中に立っているものはいない。
 それはオーラにあてられたというよりかは、
 この短い間に起きた出来事に対してだ。
 俺も正直凄く疲れた。
 
「アスフィよ……君は優秀なヒーラーなのだな。私も冒険者として長い。それ故驚いている。切り落とされた腕を治癒するヒーラーは見たことがない」
「そんなにすごいんですか?」
 
 素直にそう思った。
 俺はヒーラーなら治せて当たり前だと思っていた。
 まさか落ちた片腕を自分でも治せるとは思わなかったが。
 
「うむ、完全に切り離された部位を治すヒーラーは噂には聞いたことがある。だがあくまで噂だ。見たことは無い。ちなみにどんな魔法を使ったのかね」
「えーっと『ハイヒール』です」
「なに……?」
 
 エルフォードは驚いた顔をした。
 
「『ハイヒール』だと……? それは私も見たことがある! だが、そんな中級にあたる回復魔法で切断された部位を治せるものなのかね!?」
「アスフィはすごいのよパパ!」
 
 驚くエルフォードになぜかそれを自慢するエルザ。
 俺はそれが凄いのかどうかよく分かっていなかったが、
 冒険者をして長いというエルフォードが驚いている様子を見てこの時初めて、自分は普通の者とは少し違うと実感した。
 
「……ア、アスフィは凄いんだよ……」
 
 ようやく口を開いたかと思ったレイラも、
 俺の事を褒めだした。
 
「いやぁ照れるなぁ」
「でね! パパ! 私はこのアスフィとレイラこの二名を騎士団に入隊させることに決めたの!」
「……君はレイラと言うのか……うむ、強いな」
 
 この只者ではないエルフォードが言うんだ。
 レイラは本当に凄い。俺も鼻が高い。
 
「その歳でその強さ、将来が楽しみだ。独学で強くなったのかね」
「……い、いえ違い……ます」
「師匠の名は?」
「レイラの師匠は僕の父です」
 
 俺はエルフォードにそう提言した。
 
「その父の名は?」
「ガーフィ・シーネットです」
「……ガーフィ……シーネット……シーネットと言ったかね?」
「はい、ご存知ですか?」
「ああよく知っているとも! なるほどあやつが師匠とな。理解したよ」
 
 エルフォードは嬉しそうだ。
 そして話を続けた――
 
「あやつとは昔パーティを組んでいた」
「え!? そうなんですか!」
「あの問題児が師匠か……面白いこともあるものだ」
 
 エルフォードが俺の父さんの元パーティ仲間……。
 そんなことがあったのか。するとパーティメンバーは母さんを含めた三人だったのだろうか。
 
「あいつは今は亡き私の父が王の時、無礼を働きよってな」
 
 あ……それって母さんが言っていた父さんがタメ口聞いたとか言うやつか。するとそのフォローしてくれた騎士ってエルフォードのことだったのか! この人居ないと俺は産まれてなかった訳だ。一応感謝しておこう。
 
「あろうことか私の父にタメ口をききよってな! ハッハッハ! 面白いやつだよあやつは! 当時の父にタメ口をきけたやつはアイツぐらいだろう」
「お、おじいちゃんは怖い……うん」
 
 エルザは物凄く怖がっていた。
 あのエルザが怖がるなんてどんなじいちゃんだったんだ。
 だがその当時の王にタメ口をきく俺の父さんもまた凄い。
 
「エルザが怖がるのも無理は無い。エルザに剣を教えたのは私の父だ。そして私もまたその一人だ。……本当に父は強かったよ」
 
 懐かしむように話すエルフォード。
 
「ねぇパパそんな話今はいいの!」
「ええ!? いまからがいい話なのに!?」
 
 まだ続けるつもりだったのかよ。
 もうそろそろ休みたいよ……。
 レイラの目はもうウトウトしている。
 
「……立ち寝!?」
「無理もない! レイラは私の血を大量に見てしまったのだから! 疲れてしまったのだろう! ハッハッハ!」
「……エルザちゃん。今度やったらパパ怒っちゃうからね」
「……ごめんなさい」
 
 似たもの同士だなこの親子。
 
 そんなこんなで俺たちは騎士団に入隊することになった。
 騎士団見習いという形だ。
 
「君達も疲れただろう。部屋を用意する。……はいはーい! 君たちそんなとこで寝てないで仕事だよ~! は~い起きて起きて~!!」
 
 パンパンッ! と手を鳴らすエルフォード。
 ぐったりしていたメイドたちはその音に過敏に反応しすぐさま立ち上がる。
 
「はいっ! かしこまりました!」
 
 メイドたち過労死しないだろうか。
 よく見るとメイドたちの目の下にクマがあるようにも見える。
 
「……ここのメイドにだけはなりたくないや」
「……そう、だね」
 
 
 ---
 
 
 案内された部屋はすごく広いものだった。
 部屋であるのにうちの家より広い。
 ベッドも二つあり、風呂、トイレ全てがうちの家より広い。
 
「……なぜガラス張り?」
 
 風呂はなぜかガラス張りだった。
 
「アスフィ……見ないでね……」
「う、うん!? も、ももちろんだよ!? 何言ってるのさ!」
 
 そう言われて見ないわけが無いのである。
 だってだって、俺だって年頃な男の子だもの。
 見ない方がおかしい。
 ガラス張りにされているのは見ろということだろう?
 その部屋を案内したということはそういうことだ。
 
「王も粋な計らいをしてくれるね全く……ありがとう」
 
 俺は人生で尊敬する人ランキングを父さんより上にしようと思った。俺の中の尊敬ランキングは母さんが一位で、二位がゲンじいだ。一位は揺るぎないが二位は結構ぶれる。
 父さんの時もあれば、ゲンじいの時もある。
 俺のその時の気分次第だ。そして今の2位はエルフォードだ。
 
 さて、ここからが勝負だアスフィよ。
 レイラは今お風呂に入っている。しかもガラス張りときた。
 見ない訳にはいかないだろう。
 レイラは十三歳にしてはなかなかに大きいモノをお持ちだ。
 
「……ふぅ」
 
 呼吸を整えいざゆかん! 桃源郷(エリュシオン)へ!
 
「お、おおおおおおおおお」
 
 レイラの小柄ながらも大きな胸。
 その大きな胸から滴る水。
 
「俺はレイラの膝で眠っていた時、
 あの大きなモノで包まれていたのか……」
 
 初めて見るレイラの神秘的なカラダに、
 俺は興奮が収まらなかった。
 レイラのレイラが文字通り丸裸なのだから。
 だがガラス張り故のデメリット。
 ガラスが曇って一番見たい大事な部分がよく見えない。
 
「ああもう! なんであとちょっとなのにーーー!!」
 
 
 俺は無駄に広い部屋で一人嘆くのであった。
 
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登場人物紹介

・アスフィ・シーネット 主人公。

12歳 ヒューマン 戦士顔に茶髪。


{回復魔法しか使えない……。何故だ……。


・レイラ・セレスティア 

13歳。

獣人 黒髪猫耳の女の子 胸が大きい

・エルザ・スタイリッシュ 

ミスタリス王国の女王

金髪 黄色目 ヒューマン

副団長 冒険者等級 S級認定 15歳


・ルクス・セルロスフォカロ 

21歳 身長、胸共に小さい女の子。

エルザと同じくS級認定。

ただし稀に『僕っ娘』になる。白髪。赤目。


・ゼウス・マキナ

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