第25話 記憶
文字数 2,083文字
ロボットと結婚って虚しくね?
どうせ自分の好みに調整したロボット女だろ笑
セッ〇スどーするんだろう笑笑
俳優のアラタって、ロボット娶るさみしい奴だな
僕は世間に公表するつもりはなかった。しかし、もしもの場合に備えて時期を見て慎重に行動していたつもりだった。それなのに、どこからか情報は洩れた。最悪な形で。
僕のSNSのコメントには辛辣な言葉が湧き出るように並び、テレビではゴシップのように取り上げられた。マネージャーからは、この事態が収まるまで静かに様子を見ること、今後の仕事にも影響が出るかもしれないということを告げられた。
いくらAIロボットの存在が認められようとも、それは表面上の話なんだ。これが現実だと思った。
「ねぇ、私ね、ノートを読んで思い出したことがあるの。前にあなたのお義母様 が話していたよね。えっと、確か、お義母様のお義祖父様 の兄弟に俳優をしていた方がいたって。」
僕はそんなことあったっけ、というような顔をした。
「そうだよ。えっと、あ、思い出した!私が聞いたのは去年の夏だった。お義母様の具合が良くないとお義父様から連絡を受けて、あなたの実家へ行った時よ。その時、お義母様が昔話を聞かせてくれたの。」
妻は懐かしむように海の方を見ていた。そして「またお義母様に会いに行かなくちゃね。」と言った。
母さんのおじいちゃん、兄弟。
その単語で昔の記憶が浮かんできた。
僕が俳優を始めて間もなかった頃、母さんが話していたことだ。
『母さんのおじいちゃんの弟さんは舞台俳優だったの。舞台だけじゃなくて、テレビにも出てそれなりに名の知れた良い俳優さんだった。まだ母さんは幼かったけど、よく覚えているわ。あの頃、家にも来ることがあったのよ。』
僕はまた母さんの昔話が始まったと思って、へぇ~と適当に返事をしていた。
『おじちゃんはね、よく古いDVDを大切に持っていたのよ。手入れもちきんとして、いつでも再生できるようにね。幼い母さんはよく分からなくて、なんで古いDVDを持っているの?新しいもの買えばいいのに、と言ったの。不思議に思ったから聞いただけだった。子どもって素直で正直よねぇ、ほんとに。』
と母さんは苦笑いをしていた。幼い母さんの問いにおじちゃんは答えてくれたらしい。
『このDVDの映像を見ると、ある人を思い出すんだ。その人にはとても、とてもお世話になった。少し自信なさげな雰囲気を出しながらも、その奥には純粋さと素直さをしまい込んでいる素敵な人でね。おじちゃんはね、その人を忘れられなくて…。この初舞台の映像を見れば、またその人に会える気がして堪らないんだよ。』
僕が俳優を始めた頃、母さんはおじちゃんの話をしてくれた。そして、パンっと僕の背中を叩いて言ってくれた。
『あんたには母さんとおじちゃんがついている。あんたはきっと良い俳優になれる、いや、なるんだよ。思いっきりやってきな!』
『何だよ、おじちゃんとか会ったことないしっ。』と照れ隠しで反発してしまったが、母さんは僕の背中を押し、俳優活動を応援してくれた。それが嬉しかったのだ。
横にいる妻を見て、また思い出す。
『あなたの演技はとても素晴らしくって、その、あの、気持ちがぐわわぁぁってなるの!』
そういえば初めてあった時、語彙力ゼロの感想言われて驚いたなぁ。
胸の辺りから熱い何かが込み上げてくるのが分かった。
自分が良いと選んだことを知らない大勢の人たちから否定されて、世の中なんて最悪なものだと思っていた。自分のことを裏切った奴がいると思って、誰も信じられないと思っていた。
胸から込み上げたものは涙袋に溜まり、瞳を熱く潤ませる。涙がすうっと頬をつたった。一粒、また一粒と次から次へと溢れてきて止まらない。
俳優を始めてまだ左も右も分からず不安だったあの頃、母さんは応援してくれた。
『あんたには母さんとおじちゃんがついている。あんたはきっと良い俳優になれる、いや、なるんだよ。思いっきりやってきな!』
会ったことないけど、母さんの言う通りおじちゃんって良い俳優だったのかもしれないな。
手に温もりを感じて顔を上げると、涙を流す僕を見て、妻が僕の手を握っていた。妻の潤んだ瞳には僕が映っている。
「私ね、あなたのこと大好きよ。でも、私があなたの足を引っ張ってしまう存在になってしまうのなら、そうなら、私はっ。」
妻が最後まで言葉を言ってしまわないように、僕は妻の口をそっと手で抑えた。そして僕は「大丈夫。」と言って自分の涙を拭った。
「泣いたらなんだかスッキリしたよ。もう大丈夫さ。」
「でも…」
と妻は浮かない顔をして言う。僕はすっと立ち上がった。肩に乗っていた重りが取れてスッキリした気分だった。
「自分はどうしたいのか、今なら迷わず分かる気がするんだ。」
妻は真剣な目で僕を見ている。
「アキコ、きみには僕の側にいてほしい。でも今回みたいにこれからも君に迷惑をかけることもあるかもしれない…。それでも…それでも側にいてくれるかな…?」
アキコは瞳を潤ませながら「いるよ。」と力強く言った。
どうせ自分の好みに調整したロボット女だろ笑
セッ〇スどーするんだろう笑笑
俳優のアラタって、ロボット娶るさみしい奴だな
僕は世間に公表するつもりはなかった。しかし、もしもの場合に備えて時期を見て慎重に行動していたつもりだった。それなのに、どこからか情報は洩れた。最悪な形で。
僕のSNSのコメントには辛辣な言葉が湧き出るように並び、テレビではゴシップのように取り上げられた。マネージャーからは、この事態が収まるまで静かに様子を見ること、今後の仕事にも影響が出るかもしれないということを告げられた。
いくらAIロボットの存在が認められようとも、それは表面上の話なんだ。これが現実だと思った。
「ねぇ、私ね、ノートを読んで思い出したことがあるの。前にあなたの
僕はそんなことあったっけ、というような顔をした。
「そうだよ。えっと、あ、思い出した!私が聞いたのは去年の夏だった。お義母様の具合が良くないとお義父様から連絡を受けて、あなたの実家へ行った時よ。その時、お義母様が昔話を聞かせてくれたの。」
妻は懐かしむように海の方を見ていた。そして「またお義母様に会いに行かなくちゃね。」と言った。
母さんのおじいちゃん、兄弟。
その単語で昔の記憶が浮かんできた。
僕が俳優を始めて間もなかった頃、母さんが話していたことだ。
『母さんのおじいちゃんの弟さんは舞台俳優だったの。舞台だけじゃなくて、テレビにも出てそれなりに名の知れた良い俳優さんだった。まだ母さんは幼かったけど、よく覚えているわ。あの頃、家にも来ることがあったのよ。』
僕はまた母さんの昔話が始まったと思って、へぇ~と適当に返事をしていた。
『おじちゃんはね、よく古いDVDを大切に持っていたのよ。手入れもちきんとして、いつでも再生できるようにね。幼い母さんはよく分からなくて、なんで古いDVDを持っているの?新しいもの買えばいいのに、と言ったの。不思議に思ったから聞いただけだった。子どもって素直で正直よねぇ、ほんとに。』
と母さんは苦笑いをしていた。幼い母さんの問いにおじちゃんは答えてくれたらしい。
『このDVDの映像を見ると、ある人を思い出すんだ。その人にはとても、とてもお世話になった。少し自信なさげな雰囲気を出しながらも、その奥には純粋さと素直さをしまい込んでいる素敵な人でね。おじちゃんはね、その人を忘れられなくて…。この初舞台の映像を見れば、またその人に会える気がして堪らないんだよ。』
僕が俳優を始めた頃、母さんはおじちゃんの話をしてくれた。そして、パンっと僕の背中を叩いて言ってくれた。
『あんたには母さんとおじちゃんがついている。あんたはきっと良い俳優になれる、いや、なるんだよ。思いっきりやってきな!』
『何だよ、おじちゃんとか会ったことないしっ。』と照れ隠しで反発してしまったが、母さんは僕の背中を押し、俳優活動を応援してくれた。それが嬉しかったのだ。
横にいる妻を見て、また思い出す。
『あなたの演技はとても素晴らしくって、その、あの、気持ちがぐわわぁぁってなるの!』
そういえば初めてあった時、語彙力ゼロの感想言われて驚いたなぁ。
胸の辺りから熱い何かが込み上げてくるのが分かった。
自分が良いと選んだことを知らない大勢の人たちから否定されて、世の中なんて最悪なものだと思っていた。自分のことを裏切った奴がいると思って、誰も信じられないと思っていた。
胸から込み上げたものは涙袋に溜まり、瞳を熱く潤ませる。涙がすうっと頬をつたった。一粒、また一粒と次から次へと溢れてきて止まらない。
俳優を始めてまだ左も右も分からず不安だったあの頃、母さんは応援してくれた。
『あんたには母さんとおじちゃんがついている。あんたはきっと良い俳優になれる、いや、なるんだよ。思いっきりやってきな!』
会ったことないけど、母さんの言う通りおじちゃんって良い俳優だったのかもしれないな。
手に温もりを感じて顔を上げると、涙を流す僕を見て、妻が僕の手を握っていた。妻の潤んだ瞳には僕が映っている。
「私ね、あなたのこと大好きよ。でも、私があなたの足を引っ張ってしまう存在になってしまうのなら、そうなら、私はっ。」
妻が最後まで言葉を言ってしまわないように、僕は妻の口をそっと手で抑えた。そして僕は「大丈夫。」と言って自分の涙を拭った。
「泣いたらなんだかスッキリしたよ。もう大丈夫さ。」
「でも…」
と妻は浮かない顔をして言う。僕はすっと立ち上がった。肩に乗っていた重りが取れてスッキリした気分だった。
「自分はどうしたいのか、今なら迷わず分かる気がするんだ。」
妻は真剣な目で僕を見ている。
「アキコ、きみには僕の側にいてほしい。でも今回みたいにこれからも君に迷惑をかけることもあるかもしれない…。それでも…それでも側にいてくれるかな…?」
アキコは瞳を潤ませながら「いるよ。」と力強く言った。