第24話 声は届かない

文字数 946文字

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 ノートはE君への感謝の気持ちで締めくくられていた。
「こうやってノートに書き留めておきたい程、このノートの主はE君のこと想っていたのね。」
 妻は風でなびく髪を右耳にかけた。
「でもさ、自分の気持ちを言わずに去ったなんて辛すぎるよ。私なら、もっとアプローチして自分の気持ち伝えると思う。」
 うんうんっと頷きながら言った。妻は思いっきりがいいからきっとそうするのだろうなと僕は思う。
 
 異性、同性、高度な知能を持つAIロボットを生涯のパートナーとして公に認められるようになったのは最近のことだ。そんな時代において、同性が同性をパートナーとして選んでも何もおかしいことはない。だが、僕の心境は複雑だった。



ロボットと結婚って虚しくね?
どうせ自分の好みに調整したロボット女だろ笑
セッ〇スどーするんだろう笑笑



 高度な知能を持つAIロボットが登場したのは、SNSの発展やIT技術の向上等により、私たちは信頼できる人間関係を構築しづらくなってしまったからだ。または、多様性を認めた社会において、少子化による人口減少は必然だった。だから、人手としてロボットが必要でもあった。
 自分の言動がいつ、どこかで、誰かの恨みを買い、またはそんなつもりはなかったのに、ネットにさられる。良好な関係だと思っていた人からハラスメントだと訴えられる。規模は大なり小なりあるが、信頼することが難しい世の中だ。そんな時、登場したのがAIロボットだった。構築しづらくなる人間関係、人手不足。それならロボットに任せよう。少子化、人口減少も相まってそれは必然の出来事だったのかもしれない。

 人間とロボットが一緒に暮らすのは当たり前のことではなかったのか。

「大丈夫?」
 ふと顔を上げると、妻が僕の顔を心配そうな顔をして覗き込んでいた。大丈夫だよ、と返事をしたが、妻は悲しそうな表情だ。
「私のことで…、苦しんでいるのよね…。」
 僕は反射反応のごとく答える。
「違う、そうじゃないんだ。」
 口から出た言葉は何の根拠もない言葉のようで、妻には届かなかった。妻は膝の上で拳を強く握っている。
 本当に違うのに、そう伝えたいのに僕から出る言葉は目の前で石ころみたいに転がっては水の中に落ちていくようだ。僕の声は誰にも届くことはない。
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